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伊東のTUKUNE 18話 恐ろしい髪

伊東のTUKUNE 18話

▼前回

https://note.com/fuuke/n/n70216246f181

▼あらすじ

進学した僕はなんとなく不良になり、恥ずべき人生を送っていた。ある日の帰り道、僕は村上紫という少女に出会う。そしてなぜか紫の兄としてアルバイト面接の同伴者にさせられ、お礼にしゃべるハムスター♀をもらった。果たしてハムスターとは「貰って」よいものなのだろうか。

初めて髪に色をつけようとした時、僕は躊躇っていた。迷っていた。さっき言ったようにそれはもう自分が気違いとなることで余計なすべてを遠ざける、自分への接触を最低限にする目的があったためすぐにでもすべきだった。

すべての機会損失をしたいと思っていた。そうすれば誰からも無視されて生きるのと同義だ。

そして僕は何の責任も取りたくはなかった。こちらから能動をしていないのだから、それだけは理想とするに充分な根拠があると今でも思っている。

髪に色をつける、いや細かく言えば髪から色を失わせる行為についてはじめ躊躇った。

それはあるべき姿―――いや、何もしなければそうであった自然な形に手を加えることで、人体改造的な恐ろしさを感じてしまったといえば嘘ではない。親である誰かがくれた肉体について、欠損のような行為に及んでしまうことについての躊躇いなのかもしれない。体にピアスをあけるような女と寝たことは当時あったものの、そのような会話を僕は好まなかったためしなかった。今思えばすべきだったかもしれない。

それでも僕が脱色を決意できた理由とは恐ろしい髪と出会ったためだった。僕はいつもどおり昼まで寝ていて、髪を整理することもなく出かける。登校だろうが登校以外だろうが常にそのようであった。

髪は長いに越したことがなかったため、女のそれとまでは言わないもののある程度の長さの髪を保ったまま好き放題寝ていると、髪が勝手にそれぞれ絡まり合って手がつけられ得ないほどの状態となることがあった。

大抵の場合それは僕が気づくと気づかぬとに関わらず、勝手に解けておりその残骸が解る程度でしかなかったが、その日は髪の一部が異様に固くなっているのを感じた。

触るとまるで整髪料で塗り固められたような重みの束となっており、最初僕は寝ながら夢遊病のようにガムを取り出し、かみながら寝たが寝ぼけながらはきだし、それが髪にへばりついてしまったのかと焦った。髪についたガムはどうやったって剥がれない。当該部分を切らねばならない。僕は冷や汗をかきそうになった。

今では自分の髪型などどうでもいい(さらには寝癖だってどうでもいい)が、当時の僕にとって髪型がアイデンティティの総和に占める割合とは相当であった。人を傷つけておいて、感覚器官などない部分についてそのような心配をするのだから、小物が過ぎるというものである。

ともあれガムが伝播しないように髪を切る必要があった。当該部分だけ切除し、できるだけ動かないことでガムに一本でも多くの髪が張り付かないように細心の注意を払い鋏を取り出して切除した。

すると髪束が異様な形をしていて僕は青ざめた。

▼次回

▼謝辞

(ヘッダ画像をお借りしています。)

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