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#夏

風をいっぱいに集めたら

風をいっぱいに集めたら

電車待ちのホーム。

今日は、晴天なれど思いのほか風が強い。
着ているシャツが、パタパタとはためく。
バタバタといってもいいくらいだ。

電車到着までは、まだ時間があるようだ。
そこでおれは、目をつむり思考を飛ばしてみる。

目の前に広がるのは、広大な海だ。
ここは日本海か。
海風が容赦なくおれを洗う。
あいにくの曇空。
じきに一雨くるだろう。
人影も無く、猫の子一匹見当たらない。
ただただ、白浪

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夏も出会いも振り向きもせず

夏も出会いも振り向きもせず

今年の八月は、やけに足早に過ぎて行く。
まあ、どの月だって大した違いはないのだが。
ただ、いつも八月という月は、どこか物悲しいものだ。
久遠は、今にも降り出しそうな空を見上げ、静かに歩きだした。

長い連休が明け、やっと日常に戻りつつある街並みを、人の流れに逆らってゆっくりと喫煙スペースへと向かう。
お盆や里帰りとは無縁の久遠にとって、いつもの殺伐とした街の景色の方が、どこかしっくりとくる。

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タクシードライバーのブルース

タクシードライバーのブルース

「どちらになりますか」

「ありがとうございます」

「いや〜、ありがたいですよ。今日は人出も少なくて」

同業者でごった返した道路を、車は慎重に動き出した。

「車内の温度はいかがですか」

いや〜今日も暑かったですよね〜
こんな日は、みんな早目に帰っちゃうのか、ススキノはガラガラですよ。

そうなんですね… 実はね、私、こう見えて昔、会社をやってましてね。
えっ、そうそう、会社を経営してたんで

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