マガジンのカバー画像

エッセイ

117
運営しているクリエイター

#ショートストーリー

お手軽センチメンタル

お手軽センチメンタル

この時期おれは、ちょっとしたセンチメンタルなジャーニーを密かに楽しんだりしている。
それというのも、お手軽な方法があるのだ。

センチメンタルジャーニーといっても、なにも雨の中を駆け出すような恋に破れたわけではない。

そう、ジャーニーといっても、つかの間のセンチメンタルタイムのことをそう呼んでいるのだ。
いや、タイムって何のことだ。

それは、ふとした瞬間の胸を締めつける甘酸っぱい一瞬のことだ。

もっとみる
風をいっぱいに集めたら

風をいっぱいに集めたら

電車待ちのホーム。

今日は、晴天なれど思いのほか風が強い。
着ているシャツが、パタパタとはためく。
バタバタといってもいいくらいだ。

電車到着までは、まだ時間があるようだ。
そこでおれは、目をつむり思考を飛ばしてみる。

目の前に広がるのは、広大な海だ。
ここは日本海か。
海風が容赦なくおれを洗う。
あいにくの曇空。
じきに一雨くるだろう。
人影も無く、猫の子一匹見当たらない。
ただただ、白浪

もっとみる
コーヒーの湯気と雨

コーヒーの湯気と雨

「雨が降ってるのか…」
目覚めた時、なんとなくすぐに分かった。
だってかすかに、アスファルトが濡れている音が遠くで聞こえているから。

「朝から雨か」

今日が休日で良かった。
これが平日、これから仕事といった朝なら、きっとげんなりしたはずだ。
雨の日は、煩わしいことがやたら増える。
着て行く服になやみ。
履いて行く靴を気にかけ。
なにより、傘というまあまあの荷物が一つ増えるから。

「けっこう降

もっとみる