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名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件/白井智之(2022/09/15)【読書ノート】

ロジックはカルトの信仰に勝つことができるのか?
病気も怪我も存在せず、失われた死者へよみがえる奇跡の楽園、ジョージタウン調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵:大塒崇(おおとやたかし)は次々と不審な死に遭遇する。奇跡を信じる人々に現実世界のロジックは通用するのか。

本作は実際に起こったある宗教団体の起こした事件をモチーフにして描かれている。南米ガイアナのコミューンという宗教で900人以上が命を落としたと言われる大量殺人とも集団自殺とも取れる事件。恐ろしい事件だがこれがモチーフな時点で本作の不気味さが分かる。まず宗教団体と隔絶された村という設定がクローズドサークルそのものであり、宗教団体というのも不気味で原始的だ。時代設定が携帯電話のない時代というのもあり、ジャングルで暮らす宗教団体というのは未知の存在としか言いようがない。彼らの信仰内容は、我々にとって病気やケガがないのであるというありふれたものだが、信者の盲目的な信仰っぷりには度肝を抜かれる。

挿話も面白い。新しいキャラが出てくるたび、または事件に関わってくるタイミングで各登場人物がどういう生き方をしてきたかをざっと振り返る。長編ミステリーなのに、面白い挿話があることで飽きることがない。それに加え話の構成もうまい。別々の場所で起こった事件をつなげるのが上手いため、臨場感がずっと維持される。そして最後150ページにわたる解決編ではまさかの衝撃展開が待ち受ける。

すべての点においてクオリティが高い。推理小説の案が出尽くしたと言われる時代にここまで斬新なアイデアを思いつくのかとそのトリックの巧妙さに感動すら覚える。昭和という時代、ジャングルという場所は、絶妙に不自由さを感じる歯がゆさが恐怖を増長させるため完璧な設定である。そしてキャラの魅力とその掛け合い、主人公と助手の掛け合いも絶妙。
ミステリー好きには掛け値なし満足の一冊。


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