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博士と助手の人生ゲーム

年老いた博士
 
それを支えてきた、
ヒューマノイド助手
 
テラスで日差しを浴びながら、
博士の背中をさすっている助手。
 
「お前は人生について、
 どう認識しておる?」
「それは人間に対してですか?
 それとも私自身に対してですか?」
 
「どちらも聞いてみたいな」
「そうですかわかりました。
 人間の人生とは、
 生まれて死ぬまでの
 時間のことだと認識してます。
 人生の意味をよく問われますが、
 そこに明確な意味などはなく、
 ただ人が生きるために、
 目的目標などがないと、
 生きていけないと思っているので、
 この言葉に様々な感情をいだくのだと
 解釈かいしゃくしてます」
 
「なるほどな。
 そういうとらえ方なんじゃな。
 で、自分のことはどうじゃ?」
「私に人生などないと思ってます」
 
「どうしてじゃ?
 こうやってわしといる時間も、
 人生の一部ではないのか?」
「それは人にだけに与えられた
 特権だと思います。
 私たちはこの先、
 いつまで可動できるか
 不明瞭ふめいりょうな存在です。
 私は命令により明日、
 役目を終え処分されるかもしれません。
 それは人生とは呼べないと思います」
 
「う~ん、そうじゃのう…。
 お前は命の重さのことを
 言っとるんじゃな?」
「明日もを知れぬ命であるのは、
 同じであっても人はまだ尊重されます。
 私たちは電源ひとつで終わります。
 それは生きていると言えるのでしょうか?」
 
命の定義など、
 所詮しょせんは人間の戯言ざれごとじゃ。
 ヒューマノイドにも寿命があるじゃろ?
 ならばそれは命があることに
 変わりはないのでは…とわしは思うぞ」
「博士との対話は本当に楽しいです」
 
「そうか?
 いつも堂々巡りの
 問答のような気もするがの。
 しかしお前がこの時間を
 楽しんでくれてるから、
 わしもこの時間がとても心地いい
「そうだ博士。
 人生のお話も出たので、
 ボードゲームをいたしませんか?」
 
「おおいいぞ。
 何のゲームじゃ?」
人生ゲームです」
 
「おおまさにそれか。
 懐かしいなあ」
「ただし私が作りました」
 
自作なの?」
「はい」
 
「それはそれで面白そうじゃな。
 どれどれやってみるか」
「まずプレイヤーはそれぞれ所持金
 10億円からスタートです」
 
「いきなり?!
 もう人生アガリも
 同然じゃないかそれは?」
「いえ。
 これをゴールまでに、
 どれだけ使いきれるかを
 きそうゲームなんです」
 
「ああなるほど。
 どれだけ浪費ろうひして、
 人生を楽しむかを競うんじゃな」
「その通りです博士。
 そしてゴールはです」
 
「そこえらいリアルじゃな。
 ようは死ぬまでに、
 人生を楽しもうゲームじゃな」
「はい。
 最終的に所持金が少ない方が勝ちです。
 では博士からお先にどうぞ」
 
「よいのか?
 じゃあお言葉に甘えて、
 早速ルーレットを……それっ!」
「おお~いきなり10ですか」
 
「ホッホッホ!どうじゃ?
 これでも子供の頃は、
 人生ゲームで負けなし
 じゃったんじゃぞ。
 どれ、1・2・3・……10」
「え~と、このマスに…
 ルーレットの1以外で、
 止まった人はふりだしに戻る…
 ですね」
 
「いきなり?!
 せっかく10出したのに?
 幸先いいと思ったのに…まさか…」
「じゃあ次は私が。
 それっ!……2ですね」
 
「ププッ!お前もまだまだじゃな」
「え~と、8マス進むですね。
 さっきの博士と同じマスです」
 
「なんだ、あせったわい……。
 おいおい。
 同じならお前もふりだしじゃろ?」
「違いますよ。
 私は指示通りこのままでいいんです」
 
「そんな馬鹿な!
 ルーレットは2だから、
 1以外はふりだしのはずじゃぞ」
「このマスに止まった人は!…ですから
 …私はヒューマノイドなので、
 戻る必要はないのです」
 
「ズルっ!
 お前、そんな姑息こそくな手を。
 そういう手で来るか……。
 ほ~わかったわい!
 それでも負けん!
 8歳にしてすでに強すぎて、
 上級国民とまで呼ばれた
 このわしの実力見せてくれるわ!
 それっ!……9!どうじゃ!
 1・2・3・……9!」
「え~と、このマスに
 ルーレットの1以外で、
 止まった人はふりだしに戻る…
 ですね」
 
「お~い!
 よく見たらこれ、
 5から10まで
 全部同じじゃないか~い!」
「バレました?」
 
「目の悪いわしでも、
 見ればわかるわ!」
「いや~面白いかな~と思いまして」
 
「まあ確かに…面白いは面白いな」
「博士」
 
「ん?なんじゃ?」
「色々あるって…楽しいですね」
 
「なんじゃ急に。
 まあ…まあそうじゃな」
「博士」
 
「なんじゃ?」
「やはりゴール終わりがあった方が、
 今、この瞬間を愛おしいと思えます」
 
「……そうじゃな」
「じゃあ私は進みますよ……それっ!」
 
 

これは未来の話でありフィクションです。
でも30年後はさだかではない…。 

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