あの居酒屋で ~肥溜め~
人の話は面白い。
自分が見たことがないもの。
そして体験したことがないものは特に。
居酒屋には様々な年齢の人が訪れる。
生まれ育ちも境遇も異なる人達が…。
そして彼らは…
お酒が入ると語りだす。
今日のテーマは【肥溜め】
お隣さんは初老の男性。
「肥溜め知らないの?」
「すいません、知らないです」
「確かにもうないか~。
そういや自分も最近見てないな。
肥溜め知らないのか~。
とにかく物凄く、くっさい!
まあ排泄物貯めておくから、
臭いのは当たり前なんだけどね」
「そういうのって、
回収しないんですか?」
「違う違う。
それはそこに貯めておいて、
後で自分の畑に肥料として撒くの」
「野菜に排泄物撒くんですか?」
「そうだよ。
昔はみんなそうやったんだよ」
「う~ん、ちょっとミソミソします」
「そんなの今でもしてるだろう…。
鶏糞、牛糞知らない?」
「知らないです」
「もう食べちゃってるよ…
それで育てた野菜。
あっ、でもどうなんだろ~?
化学肥料多いのかなぁ~?
俺、農家じゃないからわかんないけど…。
ところで、落ちたことある?」
「どこにですか?」
「肥溜めに」
「いや、ないですよ!
見たことないんですから」
「だよね。
俺はあるよ…何回も。
あれね、いつもはくっさい!からわかるの。
でも俺、故郷東北なんだけど、
雪降るでしょ?
すると子供だからはしゃぐわけよ。
そこで雪の上で鬼ごっことかして遊んでさ。
だと、どこに肥溜めがあったか、
す~っかり忘れちゃうわけ。
臭わないし、雪で見えないし。
すると急にズドーン!って人が消えんの!
くっさいの!物凄く!くっさいの!
もうそうなったら解散!
落ちた子は泣きながら帰るから」
「壮絶な遊びですね」
「それでも馬鹿だから、また遊ぶの!
そしてズドーン!って。
その繰り返し」
「体張った遊びですね」
「でも親切な家もあるんだよ。
肥溜めに屋根つけてるとことか、
肥溜めの上に板被せてるとことかね」
「それだと落ちませんね」
「でも馬鹿だから。
いつもの場所でズドーン!って落ちるの」
「わざと落ちに行ってるみたいに、
聞こえるんですけど」
「ほんとのほんとに、
くっさい!んだから。
一度、落ちた方がいいよ」
「嫌ですよ絶対」
……。
違う文化。
異国の話を聞いてるような錯覚さえ覚える。
【肥溜め】
今も…もしかしたら、
日本の何処かには残ってるかもしれない。
旅先で偶然、
目にすることがあるかもしれない。
でも私は決して近づかない。
肥溜めの恐ろしさを、
知ってしまったから。
それを見つけての記念写真や、
「押すなよ、押すなよ」というおふざけも、
絶対にしない。
もし【肥溜め】がピンと来ない方に、
お勧めの映画。
【スラムドッグ・ミリオネア】
自分が落ちた姿を、
想像しやすい映画になっております。
そして…
雪国トラップこわっ!
では、また。