ハルカ
僕は時田真守。
ちょっとだけ時を戻すことができる。
でも…
この能力はもう使わないかもしれない。
「時音ちゃん…
好きです…
付き合ってほしい」
「………いいよ」
「よかった~」
「時田くん。
私が断ったら…
また時間戻したんじゃないの?」
「そんなことしないよ!
さっき約束したばかりで!
それに、だとしても…
その時は…
何度だって告白するよ」
「……フフ。
どうかな~。
ランチの時、す~ぐ戻してたし」
「もう昔のことはなし!
そういえば…
何で時音ちゃんは、
時間を戻したってわかるの?」
「時田くんは、
人に時間を戻されたことないから、
わからないんでしょ?
戻されると違和感があるのよ。
私は背中がモゾモゾするの」
「そうなの?」
「でもわかったところで、
主導権は戻した人にあるから、
私はその流れに乗るしかないけどね」
「でも時音ちゃんは、
何をしても変わることのない、
逃れられない時間を作ったじゃない」
「作ったというか、
その状況であれば、
どんなことがあっても、
私は同じ行動を取るだろうと思っただけ」
「同じ行動?」
「だっていきなり…
まだ付き合ってない相手の両親と、
初見ホームパーティーって、
単身で参加できる?」
「それは…そうだね。
僕なら玄関前で逃げ出すね」
「でしょ?
まあ正直言うと…あれは…
考え直してもらいたいというより、
引き止めてほしかったの…あなたに」
「!
そんなこととも知らず…ごめん。
僕はどうすればいいかさえ、
見えてなくて…。
でも、それって…
時音ちゃんの思惑通りで…
僕は君の掌で…」
「それは違うよ。
あなたが考え直してくれなかったら、
本当にそれで終わりにしようと思ってた」
「そう言われると、
僕は思い出すだけで恥ずかしいよ。
だってあの時、僕は…
母さんに言われなければ、
追いかけなかったかもしれない。
本当に…臆病で腰抜けだった」
「大丈夫!
ちゃんと私のところへ、
来てくれたじゃない!
ただ…結果的に、
時田くんのお父さんとお母さんには、
不快な思いをさせちゃったわ」
「それは大丈夫…だと思うよ」
「でも…
ねえ、もうひとつ…
話しておきたいことがあるの」
「まだ、何かあるの?!」
「ちょっとした噂話」
「噂話?」
「知りたい?」
「そこまで言っといて、
言わないのはズルいよ」
「そうね。
じゃあ教えてあげる。
実は…
起きた事実を、
変える方法があるらしいの」
「えっ!
未来を変えれるってこと?!」
「そう。
それには条件があるらしくって、
まずは能力者が2人必要なんだって。
そして…
その2人が同時に時間を戻すと…
未来が変わることがあるって」
「2人の能力者が同時に?」
「あくまで噂よ。
そんなの試したことないし、
ただ知り合いがそういう話があるって」
「未来が変わる…
2人の能力者が…
同じ場所…同じ時間に…
ああ~!!」
「どうしたの?!
急に大きな声出して!」
「変わってた!!
僕、未来が変わったことあった!!」
「!!」
「僕、競馬場で!!
ズルをして当たり馬券買って!
そしたらその馬、来なかった!
全然違う馬が来たんだよ!!」
「それって…」
「そう!
きっと僕以外にも、
あそこに能力者がいたんだ!
そうか、そういうことか!
何であの時だけって…
そういうことだったのか!
僕みたいな考えのやつが、
あそこにいたんだな…きっと」
「ん~~
そうかもしれないし…
そうじゃないかもしれない…かも」
「何、その歯切れの悪い言い方?
何か知ってるの?」
「これもあくまで噂よ…。
それってもしかして…
神様のせいじゃない?」
「神様?!
宗教の話?!」
「違うの。
たまに能力を悪いことに使う人が、
とんでもない目に合うって話。
それが偶然なのか、
それとも…
もしかしたらって話になると、
必ずその名前が上がるの。
能力を悪用する人を取り締まる人。
それをみんな…神様って呼んでる。
もしかしたら時田くん、
目を付けられたんじゃないの?」
「マジでいるの、神様?!
そんな存在がいるんじゃないかと、
僕も思ったことはあったけど…。
まさかあの時…やっぱり…」
「見た人はいないけどね」
「でも…
それを知ってたら、
僕はあんなことには…ハア~。
僕は何にも知らなかったんだ…。
さっきから、
聞くこと全てが初耳ばっかりだし…」
「いいじゃない。
今、知れたんだから」
「まあ…今更だけどね。
もうそんな人物の存在を知ったら、
怖くて使えないよ…使う気もないけど…」
「ねえ…
試してみない?」
「何を?」
「能力」
「だって使っちゃダメって君が」
「最後に1回だけ!
お願い!」
「何で急に?
それに大丈夫?
…っていうか時音ちゃんこそ、
この能力使いたがってんじゃないの?
合コンの時もそうだけど」
「あれは…
あなたに会いたかったからでしょ!
もう、時田くん!
女心わかってない!」
「それは…ごめん。
でも…
未来が変わるかもしれないんだよ。
怖くないの?」
「私は怖くないよ。
あなたがそばにいれば…」
「……でも…
未来で僕が、
時音ちゃんに告白するか、
わからないよ」
「告白してくれないの?」
「いや、するよ!
例え、変わった未来でも僕は、
時音ちゃんに好きだって言うよ!」
「ほんと?
じゃあ、大丈夫ね」
「でも…
なぜそこまでして、戻したいの?」
「私、どうしても、
時田くんのご両親とやり直したい」
「そんな…いいよ。
今からでもやり直せるって」
「何でも最初が肝心でしょ。
それに今の2人なら、
何があっても乗り越えられるでしょ?」
「まあ………そうだね。
……わかったよ!
僕も付き合うよ!」
「もう、付き合ってるでしょ?」
「………
じゃあ、行こうか」
「今、ごまかした!」
「そこはいいでしょ~」
………。
「行くよ!」
「行こう!」
2人は時間を戻した。
すると一瞬、
フラッシュのような閃光で、
真っ白なグラーディーションがかかると…
2人は…
白い靄に包まれた。
………。
………。
………。
リビング。
「あれ、父さん?」
「ん?
どうした、真守?」
リビングには父と2人。
「あれ、彼女は?」
「ん?彼女?
お前、彼女なんていないって、
言ってなかったか」
「いや……いるよ!
………。
え!?
あれ?!
何分戻ったんだ?
彼女はどこ?
え!
ウソだろ!!
もしかして……まさか…
時音ちゃん……」
「アハハハハ」
「アハハハハ」
キッチンの方から笑い声。
「時音ちゃんもパクチー好きなの?」
「はい、大好きです!」
「うちの男子はみんな苦手なの。
だから買ってこれないのよ。
私は大好物なのに」
「じゃあ、今度一緒にどうですか?
アジアンレストラン。
最近、美味しいお店ができたんです」
「それ知ってる!
この間、テレビでやってたお店でしょ!」
「そう、そこです!
私、予約しますので、
都合のいい日を、あとで教えて下さい」
「いいの?
ありがとう、時音ちゃん」
(よかったぁ…戻ってる)
「おい、真守。
何、ニヤニヤしてんだ」
「いいだろ!
うれしいんだから!」
「はい、お待たせ~!」
「料理できましたよ~!」
「美味しそう!」
「美味そうだな!」
「じゃあ、真守。
なんか、ひと言」
「僕が?
ひと言?
じゃあ……んんっ!
え~と…
こちらが彼女の、
桜井時音ちゃんです。
今日は来てくれてありがとう。
そして、こうやって…
同じ時間を過ごすことができて、
本当にうれしいです。
これからも、よろしくお願いします」
「こちらこそ、
よろしくお願いします」
「じゃあ、みんなで…
メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス!!」
「あなたのそばにいれて幸せ…」
「僕も……
…………
…………好きだよ」
【おわり…
でも…はじまり】
お疲れ様でした。