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ふたしきの小説

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「ものかき筋トレ」作品たちです。 どうぞ読んでやってくださいませませ。 (ㅅ˙³˙)オネガイダカラサ
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2020年12月の記事一覧

掌編小説(4)『サピロスの涙』

掌編小説(4)『サピロスの涙』

 ある貧しい村の鍛冶屋に、ユルという美しい娘がおりました。
 ユルはたいへんな働き者でした。
 早くに母を失くしてからというもの、家族の助けになればと、家事に加えて父の仕事もよく手伝いました。あかぎれの痛みに顔をしかめながら、焼けた鉄に槌を振るい、燃え盛る炎に石炭をくべるのです。

 真冬のある日、森の中にユルの姿がありました。
 昨夜、ユルが神様に祈りを捧げていると、空から降った青い光が森の中に

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掌編小説(3)『約束のプレゼント』

掌編小説(3)『約束のプレゼント』

 他人様の家に忍び込むのは、いくつになっても慣れないものだ。
 雪の夜、煙突からの侵入を諦めた俺は、そのまま頂上に腰掛けた。足元には粉雪を薄く積もらせた屋根と、それを支える石造りの大きな屋敷が見える。
 寒さに震える手で、俺はポケットから一通の手紙を取り出した。
 電子メールを印刷した紙の裏に、『プレゼントして欲しいもの』が書かれている。その下には子どもが描いた絵があり、馬鹿でかい建造物の隣で、お

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掌編小説(2)『雨の東屋』

掌編小説(2)『雨の東屋』

 常夏の国ハワイには『NoRain.NoRainbow.』という諺があるらしいが、私は雨が嫌いじゃない。

 あたり一面に濃い霧が漂う。
 私はその光景を見て、またこの『夢の世界』に来ることができたのだと胸をなでおろす。
 袋小路にも見える乳白色の視界の中で、私は落ち着いて耳を澄ませる。それから、誘うように歌う雨音を追って、静かに歩き始める。するといつものように、池のほとりにある小さな東屋にたどり

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掌編小説(1)『海辺の祭り』

掌編小説(1)『海辺の祭り』

 これは俺が十歳の冬に体験した出来事だ。
 親父に叱られた俺は、納屋に放り込まれていた。家畜の餌やりをサボったのが原因だ。
 その頃は、家畜や幼い双子の妹のことばかり気に掛ける両親にウンザリしていた。反抗期ってやつさ。

 寒さに震えていると、妹二人が遊び場を求めてやってきた。
 しばらくすると、妹たちが納屋の隅にある藁に頭を突っ込んできゃあきゃあ騒ぎ始めた。
「静かにしろよ。俺まで遊んでると思わ

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