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過去を捨てた女達 2 パワハラのトラウマ

 消耗という言葉が一番しっくりする。トップに逆らう事は、生命の消耗に近いぐらいエネルギーを消耗する事に近いからだ。そして、それは心の燻りとしてずっと燻り、スカッと解決できず、わだかまりが残る。

ドラマのように弱い立場の人間が、一発逆転のように行かず、さらに追い詰め廃人になる。廃人に友希はなりかけていたのだ。

友希の中に、従順でいなければと頭でわかっていても、心の奥底に、それが強い拒否反応があるからなのか、歯向かってしまう事があり、ただ圧力や権力に思い知らされ、結局萎縮してしまい、それ以上歯向かえなくなる。

想像の中ではできても、結局自分は損する役回り。倒す事はできない。倒せるヒーローをどこかに欲していたからなのか。いや、自分の正義を貫きたいのか、人の為に頑張りすぎてしまうだけなのか。つくづく損な性格だということを思い知らされる。

パワハラをするよういな人達は、自分の弱さを見限れないように、自分を守るために必死で、抵抗していく。こころの大きさや器などがあれば、怒りの感情は抑制できるはずだが、それができない人達が多い。自分の権威が脅かされるというほどに、お構いなしに怒鳴りつけてくる。

友希は、社長の怒った顔がフラッシュバックのように蘇ることがある。それは、目を大きくして、怒鳴り、またある時は、嫌味な言葉の数々で打ちのめす。それは、絶妙までに、かなり心が崩壊する。なんと言われて悔しかったのか、忘れてしまうぐらいに…

ただ、自分の頑張った分の悔しさも重なるから、余計に自分の心にトドメを刺すのだ。
この破壊力を、パワハラと言うのかもしれない。絶対的権力の前では、逆らわないが鉄則。頭の良い人達は、それをわかっており、逆らわない。周りをよく見て、器用に生きている。

不器用な人は、その匙加減を間違えてしまう。
そして、不器用までに生きにくくしてしまうのかもしれない。ただ、それは決して悪いことではなく、良い事なのだ。その環境に向いていない事がわなるのだから。

頑張ってきた自分が可哀想に思えてくるからなのかもしれない。気に入られるために頑張っているわけではないからだ。そうすると、そこに歯向かうエネルギーは途端に萎み、そこから逸脱しようと思えてくる。

トップの従順な犬になるように自分の魂を売るみたいな人は、男の人に多い。女性は、たまにいるかもしれないが、それは中身が男なのかもしれない。自分の魂を売れない人達は、もうこの恐怖から抜け出したいと思いのほうが強くなるから。
そこに歯向かう気力を失い、茫然自失のようになり、自分らしく生活するのにも時間がかかる。

ただ、後から見ればピラミッド構造から、抜け出すきっかけとなるのかもしれない。従順に生きることに違和感を持つ事で、全く別の扉が開くなのだから。

黙って聞いていたバーテンダーがボソッと聞いた。
「新しい扉は開いたのですか?」
「ええ」
そう友希は一通り話すと、マティーニを飲み干し、颯爽と出ていった。

パワハラのトラウマは、思いのほか時間がかる。
廃人のような鬱になりかけ、自分を取り戻す時間は結構な年月がいる。同じ会社にいるなら、PDSのような症状が出てくる。また、何が言われるのではないか、そんな恐怖に日々帯びえている。
そのうち対象が自分では無くなるのだが、他人に移っても、PDSの症状はなくならないのだ。

友希が職場を去れたのは、三年の年月が経ってからだ。すぐさま辞める選択もあったが、新しい所に行ける元気もなかったからだ。ようやく、自分を取り戻し、活力がでるまで、そのぐらいの年月が、友希の場合は必要だったに違いない。

もう、組織は懲り懲りだ。
新しい扉の先は、自分しかいない会社だ。個人事業主。いくらか蓄えはある。廃人のあいだ、お金を使うのも、面倒な時があったせいもあり、たまには無職の期間も良いだろう。

友希は、丸い月を眺めながら、初めて明日という日か憂鬱でない事に気づかされる。

明日が楽しみだと思ったのは、何年ぶりだろう

そう思うと、なんだかワクワクした気分になってきた。帰る足取りが、こんなに軽く感じれるのは、不思議な気分だ。心のしこりを捨てれたのは、大きい。もうパワハラのトラウマは卒業である。

オレンジ色のショールが月の明かりに反応して、金色に輝やいたたように見えた。元気よく歩いていく様は、きっと新しい世界には、怖い存在はいないのだろう。

黒猫をそんな事を思いながら、後ろ姿を見送った。

次回は、過去を捨てた女達 3
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