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銀行員が陥りがちな"3つの罠"~銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書~

あらゆる"マーケティング"の教科書には、「企業のマーケティング活動に"顧客理解"は欠かせない」と書かれています。しかし、銀行業はサービス業の中でもっとも"顧客理解"ができていない業種の1つではないかと、私は疑っています。

本noteでは、この"顧客理解"に関連して、銀行員が陥りがちな"3つの罠"をご説明します。


陥りがちな罠① 銀行員は、世の中の平均?

高校卒業したら、みんな大学に入学する?

銀行で、新規口座開設が多い年齢は、18歳から19歳です。特に高校を卒業し、大学へ入学する春休みの時期に、口座開設が集中します。これは、奨学金の受け取りやアルバイト口座として、新たな口座を開設するニーズが高まるからです。

さて、ここまでの文章に、みなさんは違和感を感じたでしょうか?
すでに、この文章は、「みんな自分と同じ」といった先入観が前提となっていることにお気づきですか?

文部科学省の発表では、2023年の大学進学率は57.7%。残りの42.3%は、大学には進学しなかった人たちでした。この4割を超えるセグメントを無視してよいはずはありません。

カードローンは金利が低い方がよい?

次に、お客さまのカードローンのニーズについて考えてみましょう。
銀行員は、「カードローンを借りるなら、少しでも金利が低い方がよい」と考える傾向が強いです。従って、競合他社と比較して自行商品の金利が高い場合は、お客さまへの説明に躊躇してしまうことがあります。

カードローンを借りる人に、どんなペルソナ(顧客像)を設定すべきなのでしょうか?
大きく3つに分類されます。

1番目のペルソナは、仮に「消費大好きタイプ」と名付けます。

このタイプのお客さまには、「手続きが簡単」「返済が便利」「すぐに借りられる」といった、まるで牛丼屋のようなキャッチフレーズ(簡単・便利・早い)が響きます。そして、このニーズが満たされるなら「金利」はあまり気にしない傾向があります。

金融機関としては、安易な借り入れを助長することは慎むべきですが、こうしたお客さまニーズを踏まえることは重要です。

2番目のペルソナは、仮に「本当は借りたくないタイプ」と名付けます。

このタイプのお客さまは、借入れに対し一定の罪悪感を抱いている可能性が高いです。こうしたお客さまには、返済額を具体的に示しながら、無理なく返済していけることや、銀行ならではの安心感を訴求すべきと言えます。

3番目のペルソナは、仮に「比較検討タイプ」と名付けます。

このタイプの顧客には、金利を含めた商品の優位性をアピールします。
ちなみに、私自身も「比較検討タイプ」です。20代で同僚や友人の結婚式が続いたときには、カードローンに大変お世話になりました。

感覚的な話になりますが、銀行でカードローンを借り入れるお客さまは、「消費大好きタイプ」が6割、「本当は借りたくないタイプ」が3割、「比較検討タイプ」が1割といったところではないでしょうか。

銀行員が「消費大好きタイプ」、「本当は借りたくないタイプ」に共感し、カスタマージャーニーを描くことはなかなか難易度が高いです。しかし、少なくとも、自分とは全く異なるライフスタイルのお客さまが世の中には多く存在するということを強く自覚する必要があります。

銀行員は世の中の平均ではないのです。

陥りがちな罠② 行内のデータを分析すれば顧客を理解できる?

異業種の方々とお話しすると、「銀行はいろんな顧客データを正確にもっていてうらやましい」との声を頂戴します。口座開設時には、正確な本人確認を行っていますし、口座の取引データやクレジットカード等の決済データを持っている点は強みです。

金融機関では、長年にわたり、こうした情報の利活用に真剣に取り組んできました。横浜銀行や北陸銀行など地銀10行は、共同のマーケティングシステムを構築し、地銀連携によるデータ分析やデータサイエンティストの育成に注力しています。

これらの取組みで、一定の成果を挙げてきたのは事実ですが、近年、銀行が保有するデータの優位性は薄まってしまったのではないかと感じています。

銀行の保有する「トランザクションデータ(取引データ)」に勝るもの。
それは、「Web上の行動データ」です。トランザクションデータの分析の知見を深めたことで、ターゲティング(銀行が取り扱う商品・サービスのニーズが高そうなお客さまを選び出すこと)は進化しました。しかし、そのお客さまが「商品を必要とするタイミングはいつなのか」、「本当にその商品に興味・関心があるのか」等は、実際に人がアプローチしてみないとわかりません。

一方、Web上の行動データはどうでしょうか。例えば、「自社のカードローンWebページに3回以上アクセスしたことがある」、Google等で「"カードローン"のワードで検索したことがある」といったデータは、顧客が「今」借入れを強く必要としていることを示唆しています。

すなわち、銀行がいかに自社のデータで分析を深めても、Web上の行動データには太刀打ちできないのです。

陥りがちな罠③ "顧客理解"が進めば、収益は向上する?

さて、最後に「"顧客理解"の目的」は何かということを改めて考えてみたいと思います。
 
"顧客理解"が深まれば、「顧客にとって最適な商品・サービスを最適なタイミングで提供可能になる」「その結果、自行とのエンゲージメントが深まり、渉外取引が実現する」といったところが通常の回答でしょうか。
 
銀行の企画担当者にとって絶対に忘れてはいけないのは、施策を展開した結果、収益がどうなるのかという視点です。この視点を忘れると、分析のための分析や、企画担当者の自己満足が横行することになります。

一般には知られていない真実ですが、「ローン借入あり」「預り資産1,000万円以上」のいずれかを充たさないお客さまは、管理会計上ほとんどが赤字のお客さまです。

もちろん、将来の「ローン」や「預り資産」の取引につながるよう、顧客基盤を軽視すべきではありません。しかしながら、こうした現実を直視しつつ、バランスよく資源配分を行っていくことが重要です。

企画担当者が解くべき最大の論点は、「いかにして銀行の収益を上げていくか」であり、分析やその分析を踏まえた施策が論点に貢献しているか、常に自省が必要なのです。

おわりに

銀行員が"陥りがちな罠"として、3点ご説明しました。
銀行の「マーケティング」や「営業企画」をはじめて担当する方は、こうしたマインドセットを意識していただけると幸いです。


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