見出し画像

長期経営計画のすすめ Ⅳ 企業戦略_一次長期計画 3. 事業ポートフォリオを決める


Ⅳ 企業戦略_一次長期計画は、企業戦略の大枠を策定するフェーズになります。今回は事業ポートフォリオの方針を決定します。より実務的なイメージをもっていただくために、前半はケーススタディを、後半にポイントを記述していきます。


1. ケーススタディ

設定

明智「本日の会議のアジェンダは事業ポートフォリオの方針決定です。」
前山「私は、『長期経営計画とは、わが社が長期的に実現したい未来、およびその時の事業ポートフォリオを明らかにし、それを実現するための計画である』と定義しています。よって事業ポートフォリオを設定することは、長期経営計画の策定の中で非常に重要なテーマになります。」
明智「先日の会議にて、長期的に実現したい未来であるビジョンは【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】と決定しました。よって、そのビジョンを達成する上での事業ポートフォリオを決定することになります。」
社長「今のわが社の事業は看護師や薬剤師などの人材紹介事業の一つのみである。今の経営理念【輝ける働く場の提供】の通りであり、この事業の通じて多くの人に輝ける働く場を提供してきた。そして、今回決定したビジョンでは、もっと医療業界全体をより良く変化させることに挑戦したい!という思いだったね」
専務「はい、その通りです。" 輝ける働く場" を転職によって獲得する人材紹介事業は再度、成長させていきたいと考えています。それに加えて、" 輝ける働く場を創る事業" を新たに立ち上げたいと考えています。」
前山「なるほど、【輝ける働く場の提供】をミッションとして継続したのは、それが理由なのですね。」
専務「はい。輝ける働く場が多くなればなるほど、いきいき活躍される医療従事者の方々は多くなり、その結果、患者さんへのより質の高い医療サービスの提供につながると考えます。」
社長「では、具体的な事業の構想はあるのかな?」
専務「はい、2つの事業を考えています。1つ目は業務の自動化を推進するオートメーション事業、2つ目は患者さんの状態を客観的に把握するモニタリング事業です。」
「オートメーション事業では、医療従事者の方が行なっている間接業務、つまり患者さんと直接関わりを持たない業務に対して、主にITの活用を手段として自動化したいと考えています。そのことにより患者さんとの直接的な関わりが増え、医療従事者の方が輝ける働く場につながり、より質の高い医療を受けられる社会になると考えます。
「モニタリング事業では、医療従事者の方が行なっている患者さんを観察する業務を、同じくITの活用を手段として業務品質の向上を行いたいと考えています。そのことにより、客観的により正確に患者さんを把握できるようになり、医療従事者の方がより能力を発揮できる輝ける働く場につながり、より質の高い医療を受けられる社会になると考えます。
前山「ビジョンである【全ての人がより質の高い医療を受けられる社会の実現】、ミッションである【輝ける働く場の提供】が的確に組み込まれた素晴らしい事業構想ですね。」
社長「情報工学を学んできた専務の強みを活かした構想だね。現場のヒアリングも行なってきたのかな?」
明智「はい、専務と共に人材紹介事業でお世話になっている複数の病院施設や人材紹介を行なった医療従事者の方にヒアリングを行い、検討を重ねた事業構想です。」
専務「この2つの事業を立ち上げるには、医療施設と医療従事者の協力は不可欠です。これまでの人材紹介事業で蓄積してきた両者との直接的な取引基盤は、改めて当社の強みになると再認識しました。」
前山「先ほど再度成長させたいと話していた既存事業である人材紹介事業の方向性はどう考えますか?
専務「まずビジョンやミッションとの整合性は高いと判断しています。その上で、事業の売上成長率 × 事業の利益率、および市場成長率 × 市場占有率(シェア)の2パターンで分析した結果、わが社の売上も市場も成長率が鈍化しており、成長性を高めることが課題です。ここは短期契約の促進や職種の拡大など、既存事業の経営計画を策定していきます。」

(この後、活発な議論が行われ、既存事業と専務が提案した2つを新規事業を含む、3つの事業ポートフォリオにて決定する)


2. 事業ポートフォリオ設定のポイント

ケーススタディの通り、事業ポートフォリオはミッションと強く繋がります。ミッションを決定した段階で、必要となる事業のイメージが湧いてきて、事業ポートフォリオのが決まってくることになります。

現状分析フェーズである Ⅱ.企業戦略_2.事業構成を分析する にて記載しましたが、まずは既存事業が実現したい未来であるビジョンと整合しているのか否か、検討してください。もし整合性が低い、ほとんど無い事業があるならば、長期経営計画を策定するこのタイミングで、その事業の今後の方針について決定し実行計画を立てることをお勧めします。収益性や成長性が高い事業であるほど難しい判断になりますが、分社化や事業売却など抜本的な判断を含め、長期間をかけて着実に取り組む計画を立ててください。

また、ビジョンとの整合性はある事業でも、「事業の売上成長率」 × 「事業の利益率」および「市場成長率」 × 「市場占有率(シェア)」の2パターンで分析し、成長性や収益性が高い事業はさらに投資を行い拡大させていく方針を、低い事業は抜本的な改善や撤退する方針を立てていきます。

また新規事業を立ち上げる方針は、今回のタイミング、つまり企業戦略である事業ポートフォリオ策定において、ビジョンを実現する目的で決定することをお勧めします。

今回は以上となります。次回は「Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画 4. 成長戦略を決める 」について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略 _ 現状分析
1. MVVを振り返る 
2. 事業構成を分析する
3. コア能力を再認識する
4. メガトレンドを調査する
5. 成長市場を調査する
6. 企業会計を分析する
7. 人的資本を分析する
8. 現状分析のまとめ
Column 長期経営計画は企業戦略でつくる

Ⅲ 事業戦略_ 現状分析
1. 事業業績を分析する
2. 内部環境を分析する
3. 外部環境を分析する
4. 現状分析のまとめ
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 企業戦略 _ 一次長期計画
1. 長期ビジョンを決める
2. 企業ドメインを決める
3. 事業ポートフォリオを決める  ←今回
4. 成長戦略を決める                      ←次回
5. 新規事業・M&A戦略を決める
6. 一次業績計画を策定する
7. 一次投資枠を設定する
8. 全社一次要員計画を策定する
9. TOPマネジメントを決定する
10. 企業戦略を事業戦略に展開する
11. 一次長期計画のまとめ
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅴ 事業戦略 _ 中期計画
1. 企業戦略を理解する
2. ミッション・バリューの見直しを検討する
3. 事業ドメインを決める
4. 目指す製品ポートフォリオを決める
5. 成長戦略を決める
6. 売上計画を精緻化する
7. 要員計画を精緻化する
8. 投資計画を精緻化する
9. 損益計画を精緻化する
10. ロードマップ・KPIを決める
11. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
12. 中期計画のまとめ

Ⅵ 企業戦略 _ 長期経営計画
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
14. 長期経営計画のまとめ
Column 社員がワクワクする長期経営計画
最後に私の著書を紹介させてください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?