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女性役員の就任

先日、内部昇格で役員となった女性の方にお話を聞く機会がありました。
「女性の役員を増やしたい」という代表の説明が腑に落ちないということで、歯切れの悪い感じでした。
その方は、非常に優秀で実績も上げてきた方であり、役員に昇格しても当然と思える方です。上記代表の一言は、余計だったかもしれません。

さて、その方が言うには、「女性」を強調する必要性も感じないし、そもそも男性ではなく女性の役員を増やすことに本質的な意味はあるのか、具体的な効果はあるのか、パフォーマンスが期待できる人材なら性別は関係ないのではないか(結果として全員男性になっても当然ではないか)、という問いかけがありました。

この問いかけに関して、私は2つの理由で具体的な効果はあると考えます。

ひとつは、会社のブランディング強化です。
環境・社会・ガバナンスの取り組みも考慮して投資先企業を評価するESG投資でも、女性役員や女性管理職数を重視する動きがあります。女性役員が1人もいない場合、トップの選任に反対票を投じるよう機関投資家に助言している会社もあったりします。社会環境の流れとして、女性役員の数が企業価値の値付けにも影響する以上、経営としては取り入れざるを得ないでしょう。

このことは性別だけにとどまりません。人種も同様です。6月4日付日経新聞夕刊では、ソフトバンクグループが発表した1億ドル規模の新ファンドが、有色人種の起業家のみに投資対象を絞り、従来型の管理報酬も取らないことが、金融市場で話題になったとあります。投資家も投資先も白人中心という人種の壁は長らく続き、ベンチャーキャピタルの8割は黒人の投資家を一人も抱えていないのが現状です。

記事は「若い黒人が白人男性の投資家ばかりの部屋に入ると、懐疑的な目を向けられる」という体験談を載せた上で、ウォール街は流れを変えようとしている、としています。多様な人種を登用する企業が評価され価値が高まる、というのは社会的な動きとなって続くでしょう。

もうひとつは、(こちらのほうが本質的な理由ですが)事業活動上の意思決定の精度がより高まることです。

日経新聞の記事で、「子供の面倒などもあるのに「テレワークであっても勤務時間内はいつでも返信できるようにするのが当然」と上司に言われた」という女性の方のぼやきを見かけました。こういう発言がなされる大きな要因は、共働きで子育てをするとどういう状況に置かれるか想像ができないために、相手の立場に立てないことです。想像力がないか、かつて自身も経験して自覚はあっても忘れてしまっているか、どちらかでしょう。

事業活動をする上で、様々な相手の立場を想像できることは、私たちにとって重要です。しかし、いつ何時、どんな相手でも、その立場を完璧に想像できる人など、いないでしょう。その上で、自分の属性に近しい相手ほど、その立場はやはり想像しやすいものです。よって、上記のような属性(テレワーク中の共働きの女性)に近い方が経営層にいることで、そういう相手の立場に立ったマネジメントという風土が根付きやすくなるはずです。

経営にとっての社内顧客(従業員)だけでなく社外顧客に対しても同じです。世界中のあらゆる地域のあらゆる属性の消費者が顧客となっている会社であれば、あらゆる顧客の立場に立って自社に何を求めるのかを想像することが必要です。出身地、国籍、文化圏、性別、年齢層、学歴、経歴、趣味など、従業員に多様性があれば、様々な立場に立ちやすい人が増えて、顧客の理解に有利です。

また、「限られた範囲の属性を対象顧客として事業を行うから、その属性の持ち主の立場だけ理解すればよい」ということもありません。例えば、ビール会社がアルコール好きの社員ばかりで構成されていたら、飲めない人の立場に立ちにくいでしょう。その状態では、ノンアルコール飲料という発明はなかったかもしれません。今は顧客としては非対象の属性の持ち主も、いつでも対象になる可能性があります。このことからも、役員をはじめとする社員の間で、多様な属性の持ち主がいたほうが、意思決定が豊かになると言えるでしょう。

もちろん、属性のみで職責に登用するのはナンセンスであり、能力・実績・人格などが伴っていることが必要なのは、言うまでもありません。

<まとめ>
多様な属性の役員登用は、意思決定の精度を高め、企業価値も高める。

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