4歳の日。2学期は、1学期の続きではない。
#20230831-215
2023年8月31日(木)
夏休みも今日でおしまい。
42日間。長かった。
ノコ(娘小4)の小学校は、学習関連の宿題は先週の登校日に提出だった。始業式には、色を塗ったり、マルやバツで過ごし方を振り返る生活習慣に関するものだけだ。
そのせいか、ノコはのんべんだらりとしている。
ノコは目が覚めてから何かをはじめるまで時間がかかる。
居間のソファーに30分は寝そべり、それからもそもそ着替え、またしばらくぼんやりしてからようやく朝食のテーブルにつく。
今朝は、居間のソファーに座るとノコは両腕を広げて私を呼んだ。
「ママママ、ママママ、ぎゅうチュー」
抱き締めて、お互いの頬にキスをするという。
軽くハグして、チュッとするのではない。
膝にノコを乗せるとぎゅうううと抱き締められ、頬にブッチュブッチュとキスをされる。ノコは小学4年生にしては小柄だが、膝の上では全身から力を抜くのでずしりと重い。頬はよだれまみれ。ノコは私の首筋に顔をうずめて、スーハースーハーと荒く呼吸をしている。
もう十分だろうと私からノコを引きはがすと、立ち上がった途端、「もう一回」となるので、ノコの方から離れるまで私はじっと地蔵になる。
寝起き、パジャマを脱ぐ、服を着る、食卓につく。
何かをする度にノコは「ぎゅうチュー」を求め、私はその度に手を止めてノコのところへ行く。
里親会の家族旅行の反動なのか、それともそろそろ夏休みが終わるからなのか、家にいるから手持ち無沙汰なのか、日頃から「ぎゅうチュー」というが、今日は朝から要求頻度が高い。
昼食は「お腹いっぱい」とすぐに押しやる。
少量しか出していないのだから食べてほしいし、お菓子はほしがるので満腹は怪しい。
「ママがアーンしてくれるなら食べる」
スプーンを私に手渡し、口をぱかっと開ける。
なんだかなぁ……
朝から抱っこにキスとべたべたなノコに疲れはじめている私は応じたくない。
4歳、4歳、と呪文のように心のなかで唱えながら、ノコの口へ食べ物を運ぶ。ノコが目を細めて、咀嚼する。
「トイレ!」
口をもぐもぐさせながらノコが立った。居間のドアに手をかけたところで振り返り、戻ってくる。
「ママママ、ママママ、一緒に行って」
トイレは居間のドアを開けてすぐだ。大人の足なら2歩もない。
「ママはまだお食事中なの。一人で行ってらっしゃい」
「怖いの、怖いの」
まだ昼時、レースのカーテン越しに熱波の白い光が差し込んでいる。怖いなんていう時刻ではない。お化けだってこの酷暑に出て来やしない。
「何が怖いの。すぐそこでしょ」
「ヤダヤダ、ママも来て。怖いの、怖いの」
怖いといえば叶うと思っているのだろうか。私の両手をぐいと引っ張って立ち上がらせようとする。
しぶしぶついていき、開かれたドアの前に立ち、ノコが用を済ますのを眺める。
夕方にはむーくん(夫)が帰宅。甘ったれノコが生意気ノコに変化する。
どっちもどっちだな、と思ううちに夜が更けていく。
就寝時刻が過ぎてもノコは寝たくないと渋り、ベッドに行ってはまた居間に戻ってくる。むーくんが寝かしつけ、ようやく大人タイムとソファーに腰を下ろしたら、居間のドアが静かに開いた。
ノコが口をゆがめて、目に涙をためて立っている。
私とむーくんを交互に見る。またたきをしただけで涙が落ちる。
「ママママ、ママママ、来て、来て、来て」
私の手をぐいぐいと引く。額は汗でぐっしょり、パジャマの背中も湿っている。泣き声は聞こえなかったが、夜泣きをしたときのようだ。
「……泣き声聞こえた?」
「いや?」
むーくんが首を傾げる。
「ちょっと行ってくるね」
手を引かれるままノコの部屋へ行き、ベッドに寝かせる。すぐに寝息を立てるが、そっと離れるとまた背後に立っている。
これはしっかり眠るまで傍らにいないと繰り返すだけか。
明日から2学期がはじまる。クラス替えがあるわけでもないし、担任教諭が変わるわけでもない。1学期の続きの2学期がはじまるだけだが、ノコのなかでは「だけ」ではないのだろう。
額にはりついた髪の毛をそっと払い、ノコの背を叩く。
とーん、とーん、とーん。とーん、とーん、とーん。とーん、とーん、とー
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