娘が帰ってくるまで、あと少し。
#20230803-187
2023年8月3日(木)
ノコ(娘小4)が習い事の夏合宿から帰ってくる。
子どもたちが乗る貸切バスの発着場である千葉駅は、我が家から遠い。
むーくん(夫)と少し早めに家を出た。その道中、バスの運行状況をチェックしたところ道路渋滞で1時間半ほど遅延するとのこと。
もとから早めに出たため、時間が加算されてしまった。
いくら時間ができたとはいえ、車が流れて到着が早まる可能性もあるのであまり離れられない。
ふらりふらりと海のほうへ、千葉ポートタワーへ行ってみる。
一般420円を2人分支払い、エレベーターで一気に地上113mの展望フロアへ向かう。
平日のせいか、館内は空いている。小さい女の子を連れたママさんを2組見掛けた。
時刻は17時近いが、まだまだ明るい。
遠くに東京スカイツリーがある。千葉市街をはじめ、東京湾がよく見える。
むーくんと窓に寄り、のんびり外を眺めながらそう広くないフロアを歩く。
千葉駅近くに友だちが住んでいる。
かつての職場の同僚で、当時独身同士だったが、今や彼女も私も結婚し、子どもがいる。
千葉にいるというだけで彼女の顔が浮かび、連絡を入れるとすぐに返信が届いた。ここは彼女の家から車で20分ほどだという。会いに行きたい!とスマートフォンの画面のなかで文字が躍るが、目下2人のお子さんが風邪っぴきで引きこもっているとある。
残念だけど、それは仕方がない。
会おうと思ってくれるだけで嬉しい。
我が家も夏休み前にノコともどもひどい風邪を引いたことを伝え、「お大事に」「年内に是非会おう」としめくくる。
私は友だちが多いほうではないし、頻繁に会うことも連絡を取り合うこともない。
それでも、連絡すれば、パッといい声を返してくれる友だちがいる。
それで十分。
友だちに恵まれていると思う。
4階の展望フロアから2階までは階段で下りる。
3階の展望レストランは営業時間が過ぎていたのでそのまま通り過ぎ、2階に入る。ハート型のソファー、ハート型の南京錠がぎっしり並んだフェンス、大きなハート型のモニュメント!
ハート尽くしに思わず目が丸くなる。
なんだ、これは!
案内板を見ると、2階は「恋人の聖地」とある。なるほど。デートスポットなのだな。ほかに人の姿がないことをいいことに、せっかくのデートタイムだとむーくんとハート型ソファーに座り、記念撮影をする。
ふふふ。
タワーを出ると、もうすぐそこが浜辺で波が寄せている。
磯の香りなんて久し振りだ。思わず、胸いっぱい深く吸う。
ノコが我が家に来て、はじめて海に連れていったとき――おそらくノコにとってはじめての海だった――私には懐かしい潮の香りをノコは「臭い臭い」と嫌がった。温泉地に行ったときも同様。
確かに花や果物のような甘さや爽やかさはない。むしろ癖が強く、「臭い」に近いといえる。ノコのほうが正直なのだと思う。思い出と状況が結びつくと、そんな悪臭に近い匂いも好ましくなるのだからおもしろい。
潮風が強く、さしている日傘が乱暴に揺れる。サンダルの足元に浜辺の砂が入る。
ゆっくりと傾きはじめた太陽の橙色が目を射抜く。
ノコのお迎えが浜辺散策になった。
千葉みなと駅へ向かう道にあったTully’sで歩き疲れた足を休める。
もう夕時なのでカフェインレス・コーヒーが飲みたかったがなかったため、カフェインありのアイスコーヒーを頼む。むーくんは限定品の甘いシェイク。
さぁ、あと少しで貸切バスが到着する。
1時間半も遅れたんだ。きっとノコも腹ペコで飛び出してくるだろう。
家寄りの場所で夕食にしたかったが、千葉駅周辺で食べないことには帰路につけなさそうだ。
時間ぴったりに貸切バスが到着。
もう日は暮れている。待機していた保護者が一斉に2台のバスに集まってくる。
似たような服装の子どもたちが次から次へと扉からこぼれ出てきて、あちこちで「ママ!」「パパ!」の声があがる。むーくんと二手にわかれる。
――ノコは?
と思っていたら、腹に衝撃!
ノコが飛びついてきた。
「ママママ、ママママ、お腹空いて死にそー!」
顔つきが少しほっそりしたように見え、お姉さん度が増したように感じる。たかが3泊。そんなはずはない。気のせい、気のせい。ノコの形のよい広くて丸い額をなでながら、私はいう。
「じゃあ、パパを見つけたら夕飯にしようか」
我が家の夏のレスパイト・ケアは、これにて終了。
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