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神をも恐れぬ我が娘!

#20231116-294

2023年11月16日(木)
 児童相談所へ向かう道すがら、ノコ(娘小4)と物語作りごっこをするのが定番になっている。小学校から公園を抜けてバス停までのあいだ、1行分くらいの文章を交互にいう。
 「ママママ、ママママ、お話作りごっこしよう」
 生活のルールには歯向かうが、このときはこういう遊びをするという決まり事は好きなのだろうか。
 「お題はノコさんが決めて」
 公園のなかにある人2人が並んで通れるほどの道は、年配の方が喋りながらウォーキングをしていたり、ジョギングしていたりと行き交う人が思ったよりいる。人が来れば1列になり、いなければ並んで2列になってノコと歩く。
 「うーん」
 ノコが道端に落ちている色付いた落葉を拾いながら首を傾げる。結構な重みのランドセルなのに、立ったりしゃがんだりを苦もなくするのは子どもゆえか。
 「ママ、これ何?」
 赤に黄色、ちょっと枯れて茶色くなった葉をノコがくるくる回しながら問う。ノコのいうきれいな葉は一色に染まっているものより、まだらなものが多い。どのあたりが心かれるのか、おもしろい。
 「桜の葉っぱだね」
 「じゃあ、桜の葉っぱを食べる動物の話!」
 ノコは「桜ウサギ」だの「桜ネズミ」だの「桜ウシ」だの、あれこれ挙げていく。
 「桜イタチ! 桜イタチにする!」
 「イタチは肉食だよ」
 「いいの、お話だから。桜の葉っぱだけ食べるイタチで、ほかの葉っぱを食べるとお腹が壊れちゃうの」

 桜イタチ物語がはじまった。
 秋になり、桜の葉が散りはじめ、お腹を減らした桜イタチの子が庭に桜の木がある家の男の子に飼われることになる。家族のおのおのが1匹ずつ桜イタチを飼育するというので、桜イタチの子の家族が丸ごとその男の子の家に住むことになった。
 寒くなっても食料があるので安心して暮らしていたが、ある日、お父さん桜イタチが寿命を迎える。お母さん桜イタチが「ずっと一緒にいるわ」といい、お父さん桜イタチとともにこの世を去ろうとするが、お父さん桜イタチは「子どもたちの世話を頼む」という。
 お母さん桜イタチが「いやよ、いやよ」というので、神様のところへお父さん桜イタチの寿命を延ばしてもらうようお願いに行く。

 バス停に着いた。
 ノコは私が用意したお菓子袋を覗き、早速食べはじめる。児童相談所に行く日はおやつを食べる時間がないので、バスを待つあいだにつまんでもいいことにしている。バスのなかでは食べられない。ノコは給食を食べたばかりだというのに、往路からパクパク食べる。
 そのむさぼるさまに毎回いってしまう。
 「それ、帰りの分も入っているからね。帰りにないっていっても買わないよ。よく考えてね」
 「知ってるし」

 ノコがキャラメルコーンをどんどん口に入れるのを見ながら、私は神様になっていう。
 「そのお父さん桜イタチの命だけ延ばすと、世界のバランスが崩れてしまうんじゃよ。ほかにも寿命を延ばしてほしいものはたくさんいるからのう。残念ながら、それはできんのじゃ」
 そこで、ノコの順番となる。
 桜イタチの子になったノコはいきどおる。
 「神様ってヒドイんだね。悲しいってことがわからないんだね。自分だけよければいいんだ!
 いやいやいや、寿命を延ばせない理由を神様はいったよね。
 思わず、私は慌てる。それにノコが演じる桜イタチの子の態度は、とてもじゃないが、難しいことをお願いする姿勢ではない
 「ああ、ああ、ああ! わーかーりーまーしーた! 神様ってその程度なんだね!」
 神様にも怖気おじけづくことなく食って掛かるノコ。いや、ここでの神様がどんな神様なのかわからないが、神様の怒りを買うことなんてこれっぽっちも考えていないのだろう。
 あな、勇ましや。

 この展開を受けて、私はどう物語を紡いだらいいのか。
 神様が折れて、お父さん桜イタチの寿命を延ばす?
 その場合、世界の命のバランスはどうなる?
 いやいや、それはできないことだと突っぱねる?

 どうしようかと迷っていたら、バスが来た。
 バスのなかでは物語ごっこはしない。
 「バス、来ちゃった」
 ノコが慌てて食べていたお菓子を口に突っ込む。リスのように頬が膨れた。
 バスのなかではお菓子も食べられない。
 物語もお菓子もくるくると丸めて閉じて、はい、おしまい。

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