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里子が「里子であること」をどう感じるか。~小学5年生のノコの場合~

#20240615-414

2024年6月15日(土)
 昨日、里親のランチ会があった。
 委託後しばらくは自己アピールが強かった里子が、性格が変わったかのようにおとなしくなった話を聞いた。周りの様子をうかがい、目立たないように振る舞う。「里子」であることを知られたくないというようになる。
 「あぁ、うちも」
 「そういう時期があったあった」
 ほかの里母さんがそろってうなずく。
 里母さんが大好きな里子さんたちで、ふと先日あった「中途養育における愛着アタッチメント形成」の研修を思い出した。

 アタッチメント対象と安定したアタッチメントを形成し、心のなかでもアタッチメント対象を支えにできるようになったのだろうか。たとえば、学校や習い事先など、里母が不在の場であっても心に里母を思い浮かべ、それを支えに過ごせるようなったのだろうか。だから、里母がいない環境でも自分のケアをしてくれる大人を求めない
 我が家の里子であるノコ(娘小5)は、自己アピールが強い。
 学校では委員やクラスの係にすすんで立候補する。学年があがるにつれ、消極的な子どもが増えると聞くので、ノコのこの積極性は好ましく思う。だが、積極性は自己アピールの強さと紙一重で、「私のこと見て見て!」という訴えともいえる。
 ノコは里親が不在の場では、まず自分の相手をしてくれそうな大人を探す
 委託時の年齢が高かったからなのか、里母である私がノコをしっかり受けとめられなかったのか。振り返れば、思い当たることがいくつも浮かび、きりがない。

 成長とともに心が揺れてさまざまな時期があれど、私はノコに「里子である」ことを重く感じないでほしいと願っている。
 里子にならざるを得なかった過程を軽んじるわけではない。それは並々ならぬことだ。ただそこに引っ張られず、ノコが「里子の私」たくさんあるノコの顔のなかのひとつだと平らに扱えたらいいと思っている。
 だから、ノコの積極性は「私を見て見て!」という保護してくれる対象を試すものではない形で、維持してほしい。里子であることを隠すことなく、自分の顔のひとつだと見てほしい。

 一晩明けて、今朝。
 のんびりマイペースで朝食を食べているノコに問うてみる。
 「○○君は、学校のお友だちとかに里子であることを知られたくないんだって。ノコさんはそういう気持ちわかる? ノコさんも里子であることを知られなくない?」
 ノコは焦げる寸前の、ちょっと濃い焼き目のついたトーストが大好きだ。カリカリした食感がいいのだという。
 「里子だって知られるのは、別に嫌じゃない。自分でもいうし」
 委託直後、ノコはよく周囲に私たち夫婦が実親ではないことを話していた。ただ幼稚園児だったため言葉足らずで大人にも、そして子どもにも通じることはなかった。大人だと、再婚や離婚がよぎるようだが、なかなか里親家庭まで至ることはなかった。
 しばらく口にしていなかったが、最近またいいたい気持ちが盛り上がっている気配はあった。
 「最近、だれかにいった?」
 「KちゃんとSちゃん」
 「あら、そうなんだ。どうしていおうと思ったの?」
 「信用できると思ったから」
 なるほど。5年生になると、だれかれにでもいうわけではないらしい。
 「どんなふうにいったの?」
 私は洗濯物を畳みながら、あくまで軽い口調で話を続ける。
 「えっとね、ほら、宿題で作文書いたじゃん」
 ノコは作文の宿題に里子であることを書いていた。
 「どんなこと書いたのかってなって、私は里子だって書いたっていった」
 ノコがトーストから耳だけはがし、口にくわえてぶるぶると振った。
 「おーい、遊び食べしない。KちゃんとSちゃんはなんていった?」
 「Kちゃんは『そうなんだね』っていって、Sちゃんは『大変だったね』っていった」
 2人がどこまで理解しているのかはわからないが、落ち着いた対応だ。
 「じゃあ、ノコさんは里子だって知られるのは嫌じゃないんだね。自分が里子なのはどう思う?」
 「嫌だなって思う」
 「あら、嫌なの?」
 驚いたふうでもなく、咎めるふうでもなく、私は静かに返す。
 「だって、ずっと同じところにいられないんだよ。いっつもわかんないところへ連れて行かれる。実親の家お家から乳児院赤ちゃんのお家、そこから児童養護施設、そこからまたここだよ。5歳までに何回引っ越ししてんだよ、私!」
 先日の作文は、むーくん(夫)と原稿用紙をはさんで書いていた。私は洗濯物を干したり、食事の用意をしたりと居間を出入りしていたので、2人の会話はところどころしか耳にしていない。
 「引っ越しのことを思い出すと、泣きたくなる。だから思い出したくない。里子なのは知られてもいいし、仕方がないけど、ずっと同じところにいられないのが嫌
 私が両腕を広げると、ノコは椅子からするりと下り、私の膝に向き合って座った。
 ノコを両腕に抱き締め、その背をトントンとやさしく叩く。
 「もうすぐ森谷のお家に来て、5年目になるよ。ノコさんが一番長くいるところがここになったよ。ノコさん、これからもここにいてね」
 ノコが小さく笑う。
 「5周年のお祝いパーティーする?」
 「する!」
 「ケーキでも食べる?」
 「アイスがいい。アイスをいっぱいいっぱい食べる」
 お祝いしよう。
 いろんな味のアイスをたくさん並べて。
 いつもなら1個だけど、食べたいだけ食べてもいいことにしちゃおうか。
 だって、だって、お祝いだ。

 今のところだが、ノコは里子である自分を受けとめている。
 よかったと思う。
 ホント、よかったと思う。

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