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本日の本請け(2023.11月前半)

今月読んだものたち。今月既に10冊以上読んでしまったので、前半としています。後半に同じくらい読めなかったら、タイトルをひっそりと「11月」にしているかもしれませんが、一旦上げます、ということで(笑)。

どうにも、感想を書いていて今回、捻くれているな……とちょっと自分で思っています。寒くなってきたのでそういう時期なのか。

『獣の夜』森絵都(朝日新聞出版)

森絵都さんの新刊!ということで、購入したもののゆったり読んでいたので、数ヶ月かかって読み終わりました。

『獣の夜』なので獣っぽいお菓子

7編の短編集が入っています。
Amazonのこの本のページを見ると、画像に「1編読むごとに、心があたたかく、前向きになれる短編集」とあるのですが、「……本当に?」と思ってしまいました(笑)。
「ポコ」と「スワン」(『ラン』の番外編らしく、読んでいないためあまりピンと来ませんでした)はそういう感じするけれど、どちらかというと個人的には「世にも奇妙な物語」みがあるような。

特に、表題作の「獣の夜」。夜9時くらいからのドラマ見てたと思ったら、深夜近くのどぎついヤツだったわ、みたいな。心があたたかくっていうか、身体が熱くなる、みたいな。どこに行き着くのかわからないうちにとんでもないもの読んだ、という感じで、ほのぼの系より好きでした。

「ポコ」はコロナのときにやっていた作家が一日にひとつ、掌編の小説を書く、という企画のもの。

当時も読んだ気がするんだけど、なんだか、今読んだ方が泣けてしまった。
渦中にいたときには麻痺していたのかもしれないと思います。

「あした天気に」も「良い話」「心あたたまる話」系でしたが、ちょっとゾッとしちゃった。気づかない方が幸せでいられることもあると思うんだよね。気づいてしまったら「努力」しなくちゃいけないもの。自分は後ろ向きなので、最後の彼のようにはしんどくてなれない、三つ目の願い事の可能性に気づいても叶えてもらわないまま生きていきそうな気がする。
それに「もとの光樹」に価値がないようでちょっと落ち込んでしまった。明るくて、はつらつとしていて、そういう子どもでないと「正規ルート」にしてもらえないの?って。

王道ルートに乗らない、大胆な展開をする森絵都さんの描く物語は好きですが、自分にとっては「あした天気に」は見かけ通りの「めでたしめでたし」ではない、ような気がしてしまいました。なんかてるてる坊主含めて、ちょっと怖かった。読みがズレているな、と自覚はしているのですが。

『少女マンガはどこからきたの?「少女マンガを語る会」全記録』上田トシコ、むれあきこ、わたなべまさこ、巴里夫、高橋真琴、今村洋子、水野英子、ちばてつや、牧美也子、望月あきら、花村えい子、北島洋子 著,ヤマダトモコ、増田のぞみ、小西優里、想田四 編(青土社)

少女マンガのことをもっと知りたいな、と思って購入。
少女マンガの黎明について、当時の人々たちが集まって座談会形式で語り合った会の、全文を掲載したもの。

限定ショップのエクレール

もう記憶が……とみなさん口々に言いながら(笑)、ざっくばらんに話が展開されていきます。

結局時系列はどうなっているの?と思ったら、この会のホームページを見つけました。こっちの方がまとまっている気がします。ですが、インタビュー形式で思いつくままにしゃべっている様は面白かったです。

これを読んでいる途中で、「昭和だから」の描き方という、今ならとんでもない設定の少女マンガについてという記事をみかけました。

記事で取り上げているのは『ガラスの仮面』などなので、この本の中心の話題である本当に戦後直後、というのとはまた時代が違うんだけど。

この本ではとにかく編集部に「泣けるものを書いてくれ」と言われたとか、編集者によるけれど描くものにも制約があったという話も出てくる。月経が描けない、そもそも恋愛もだめで母ものとかが主流だったとか。

上の記事の中身は個人情報教えちゃってるとか、配役を先生が勝手に決めるとかだから、それって時代の流れで現代では「ありえない」ことで、「昭和だから描けた」ってアオリはなんか、誤解を招かないかなーとか思ってしまった。
昔の方が自由だった、って話に見える。

戦後直後の少女マンガ黎明期から、「漫画家たちの好きなように描いてもらったら面白いものが生まれる」という編集者の考えや、大阪と東京の二大都市があったからこそ発展していったとか、制約の中でいろいろやってみようという試みとかがあって……といろいろなことが証言されています。

それがあっての今だと思うので、「昔の方が自由だった」なんてことはないと思うのだけど。まあ、重箱の隅かな。

とはいえ「面白いものを描いてもらうために、漫画家の好きなように描いてもらおう!」といくら編集部が思っても、現代では炎上が起こりやすい。
この本の中で「編集部だって話し合ってオーケー出したんだから、もっと守ってほしかった」という声もあって、そこは通じるものがあるかもしれない。とはいえ漫画家と編集や会社、両方が燃え上がる、みたいな結果にならずに、漫画家さんが安心して描きたいものを描ける環境になるといいよね。

しかし、いやはや、手塚先生のエピソードはいろいろ強かった。

読みながら食べたエクレール、今日で出店終わりですよと言われてつい買ってしまったのですが、おいしかったー。

『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』セシリア・ワトソン(左右社)

本屋さんのインスタを眺めていて面白そうだなーと思ったのを覚えていて、購入。
ついつい、荷物にならないし場所をとらないしで電子書籍が多いのですが、本当は本屋さんを応援するためには本屋さんで買った方がいいんだろうな、と思いつつ。思い立ったら買える気軽さもいいんですよね、電子。
購入に至るきっかけになった本屋さんに、いくらかポイントが入る、とかあったらなー。

コーヒーゼリーと小豆と洋梨のソルベが合わさってとてもおいしかった。小豆ちょっとコロンっぽい(笑)

英文法の世界で論争を巻き起こしてきた記号「セミコロン」についての歴史、セミコロンが引き起こしてきた様々な事件、そして「規則」ってなんなのか、ということについて。

『クララとお日様』の英語の原本を読もうとまだあがいているのですが、最初に読んでいてー(ダッシュ)が出てきて戸惑ったのですーーそりゃ、日本語の本だと見かけるし、自分でだって使うこともあるけれどーー英語の教科書や入試の文章ではそこまで見かけない、ですよね?
そっか英語もあるのか、うーん、というかどう訳せばいいんだ?と思って。

ダッシュはまあまだ、それでも日本語にもあるせいかわかる気がするのですが、セミコロンとは!?いやしかし、想像以上に面白かった!

移ろうことも変わることも朽ちることもない、唯一絶対の規則を私たちが手にすることは絶対にない。そんなものは存在しないのだから。  そのような柵を設置しようとすること自体の倫理的コストもよく考えるべきだろう。柵は内部のものを保護するだけでなく外部を拒絶する。そうした言葉の柵によって、会話から、公の場から、学問の世界から締め出されてしまうのはどういう人だろうか。

おわりに ルール違反?

最後の方にあるここを読んでいてぎくりとしました。

日本語の話ですが、私自身、閉じるかぎかっこの前に句点があるのがどうしても気になる性質でして。『……である。」』のようになっていると指摘しちゃうんですよね。

でも、上の記事のように小学生の教科書って、『」』の前に句点が来るようになっているらしいので、決して間違い!とも言えないと思うんですよ。というかそもそも、それで何か文章の意味合いが変わるか?っていう。もしかしたらドヤりたいだけ、自分の好みを押し付けてるだけなのかも。

そう考えていくと、国語便覧に書かれているさまざまなルールも、本当に大事なのはそこなのか?という気がしてきます。最近、「おじさん構文」や「おばさん構文」を揶揄する向きもあるけれど、ああいうのも指摘したい欲、みたいなのがあるのではないかなって思ってしまいます。
とはいえある程度、ルールがはっきりしていないと逆に何も書けなくなるし……。

かなり示唆に富んだ本でした。オススメ。

『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?言語学者、小学生の質問に本気で答える』川原繁人(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

ゆる言語学ラジオの、ちょいガチ言語学ラジオを見て、め、めちゃくちゃ面白い!となり、出ていた先生の本を購入しました。

言語学者が、小学生相手に授業したものを大人も読めるものとしてまとめたもの。
この先生の本、何冊かあってどれにしようかな、と考えたのですが、目次に『「わかった?」って聞いちゃダメ』というのがあって。自分もそれは気をつけているところなので、惹かれてこれにしよう!と決めました。

もらいもののオーガニックのお茶と、タイトルにちなんでちっちゃいプッチンプリン!

読んでいるうちに、上の『セミコロン』の本を読んでいて気になっていたこととつながって、いい順番で読んだな、と自画自賛。

レベルアップ7の「ことばの多様性を大事にするということ」がとても良くて。

言語は一様に価値をもったものであるということ、「ことばの乱れ」は存在しないということ。それでも、どんなときでも好きな言葉遣いをしていいのかと言われればまたそれは違うということ。TPOに合わせて服を着替えるように、ちゃんとした言葉遣いが求められることもあるということ。とてもすっと胸に落ちました。

『美術の進路相談』イトウハジメ(ポプラ社)

なんとなくポプラ社のホームページを見ていて見つけた本。

絵を描くのが好き、という子どもにたくさん出会うので、何かのとっかかりになるかなと思って読んでみた。

もらいもののお菓子。うさぎの絵がかわいかったので

結論、うーん、思ってたのとちょっと違った。もう少し具体性があるかと思ったのだけど。心がまえばかりで、「進路相談」と銘打ってる割に、じゃあ高校はどういうものを選べばいいのかとか、美術部には入ったほうがいいのかとか、どういう勉強をしたらいいのかとか、そういうのはない。

筆者の方の文章がかなり比喩が多く、雲を掴むような話に思えてしまった。
画家は「炭鉱のカナリア」、漫画家は「戦士」、イラストレーターは「魔法使い」って、ちょっとピンと来ない。ましてやターゲットっぽい中学生くらいの子がなるほど!ってなる?かな?

「美術の世界の住民票」とか、大人からしたらいい言い回しなんだけど住民票って子どもにとっては「なんか聞いたことある」くらいの代物じゃないかな、とか。結果、言いたいことがふわふわしてる印象。

この人のイラストも多くて、透明感があってステキなんだけど、「自分の絵柄と違うな」と思うと参考にならないと思っちゃうかも。タブレットで絵が描くのが好きな子とか、シュールな絵が好きな子とか、「この人は自分と違うな」と思って速攻で本を閉じてしまう危険性がある。
表紙や中身を見せて、この人の絵が好き!という子にだけ勧めた方がいい気がする。

美術からは離れてしまったけれど気になるという大人に対する本として、ひとりの美術の先生のエッセイとして、のように読む分にはいいんだろうけれど……タイトルがもうちょっと違ったら変な期待をせず、こんな風に思わなかったかもしれない。コンセプトとしては求めていたものだっただけに個人的には残念です。

『ものがたり洋菓子店 月と私』野村美月(ポプラ社)

ときどき、読書メーターの新刊チェックを見ているのですが、かつてのめり込んで読んでいた「文学少女シリーズ」の野村さんの新刊を見つけて……!
久しぶりに読みたい!と思い、購入しました。

ずっと行きたかった喫茶店についに行けました

新刊かと思ってたのですが、調べるとこちらが出てきたため、この二年前に出したものを文庫化したのかな?自分はどちらにしろ初読なのでそれは良いのですが。

良いことを書いていないので、この作品が好きという方は以下、読まない方がよいです。

たった二年前とはいえ、倫理観が古いのか。玲二という登場人物のやっていることはモラハラなのにお茶目なことのように描いている、そのやり方が、もう、本当に無理だ……となってしまいました。登場人物たちの美しい外見のことばかり言及が繰り返されるのも、ルッキズムが気になってちょっと……。
子どもとはいえ玲二が全て悪い。彼のやったことは、トラウマを植え付ける行為で許されないでしょう。優しくすればいいってものじゃない。反省しているのはライバルが現れたからであって、彼自身、自分の行いを本当には反省していない。
せめて語り手にしていなければそういう登場人物、で処理できていました。
しかし、語り手にすることで、彼の行為が神の視点から「許された」と感じられ、語り手になったからこそ彼が真実反省していないことが現わになって余計嫌悪感が湧くのです。
なぜこれに出版物としてオーケーが出せるのかと、疑問に思います。誰か止めなかったの?

やっぱり好きなところもあっただけに、複雑。

最近、この手の非日常的な、ちょっとほっと息がつけるカフェやごはんやさんのお話ってとても多いのだけど、現実に近いところもある分、倫理観が合わないとダメで、なかなか……。しばらくはこれ系に手を出すのをやめます。

『ぼっち現代文 わかり合えない私たちのための〈読解力〉入門』小池陽慈(河出書房新社)

『世界のいまを知り未来をつくる評論文読書案内』を読んでから、こちらの著者の方を覚えていて、今回新刊が出たので購入してみました。「読解力」にも興味があった。

コーヒーのタルト。秋っぽい

14歳が読むことを想定している本。最初の方に「国語」のテクニック的なお話はあるけれど、どちらかというと国語力より、生きていくにあたっての心がまえ……かも。特に後半にかけて。

述語へ注目することは自分でも気をつけたい。

上で読んだ『美術の進路相談』は勝手に内容を考えてしまってたので「思ってたのと違う……」となってしまった気がするのですが、こちらはツイートとかを見てある程度内容をわかっていたので大丈夫でした。買う前によく宣伝とか見るの大事ですね……。

作品を抜粋して読んでいくことによって、国語の文章の読み方を学びつつ、大人から子どもへの願い、祈り?のようなものが込められた本だなと思いました。

『愛蔵版〈古典部〉シリーズII クドリャフカの順番・遠まわりする雛』米澤穂信(KADOKAWA)

もとの本も持っているのですが、やっぱり買ってしまった愛蔵版。
地方の進学校を舞台に、「古典部」に所属する「やらなくていいことならやらない。やらなければならないことなら手短に」という省エネ主義をモットーとする折木が主人公。好奇心のかたまりである千反田に振り回されながら、謎を解いていきます。

神高文化祭で出てくる製菓研をイメージしてクッキーを用意して読みました。

ちょうどハロウィン時期のクッキーがあった

『クドリャフカの順番』が好きで……。
「期待」という言葉を「正しく」使う登場人物たちが切ない。例えばこれが十年後、二十年後なら、自分たちの同級生から才能を開花させた人物が出たら「あいつは期待の星」だなんて言って、誇らしく嘘なく思うこともあるのでしょう。でも、高校生。薔薇色のようでいて、本当にはそうではないかもしれない時代だからこそ。

「連峰は晴れているか」もとても好きです。何度読んでもじーんとします。余韻がまたいい。

『北欧こじらせ日記 フィンランド1年生編』週末北欧部chika(世界文化社)

北欧こじらせ日記も3冊目。インスタをフォローして見ていたので、失業した……という投稿を見て「え!」となりました。

何があったのだろうと気になっていたので、発売をどきどきしながら待っていました。

スタバのアーモンドチョコロールと、カフェインレスコーヒー

お寿司職人としてフィンランドに移住した筆者の、シェフとして過ごした一年と、その考え、生き方の変化。たどり着いた結論に至るまでつながっていて、なるほど、これは確かにインスタの更新では伝えるのが難しく、本になるまでまとめられていなかった理由がよくわかりました。

購入されている食器やインテリア、フィンランドの街並みを眺めているだけでもほっこりします。

『新装版 魔女の宅急便 5 魔法のとまり木』角野栄子(KADOKAWA)

もう5巻。今回もよかった。安心して聴いていられます。

19歳になったキキ。旅に出たばかりの魔女に出会ったり、なんだかうまく魔法が使えなくなったり。トンボさんとの関係も相変わらず、ほっこりしながら、日々を過ごして行きます。

カモミールティー。くすり草ってこんな感じなのかなって思った

魔法がうまくいかないときのお父さんの手紙がすきでした。魔法でなくともこういうとき、あるよね。
ジジの恋がかわいらしかった!映画のあの描写はこのあたりのことについてのオマージュだったのかなって。
前回のお母さんのことがあったので、次はジジ!?ってちょっとどきどきしちゃったけれど、ジジの恋がうまくいったようでよかった。6巻も楽しみ。

『税金で買った本』原作:ずいの、漫画:系山 冏(講談社)

ヤンキーが図書館でバイトをするお仕事マンガ。
図書館が関わる話は好きでチェックするので、読んではいたのですが、先日ゆる言語学ラジオを聴いていて「あれ、9巻までもう出てるの!?」となり、6巻まで読んでいたので7〜9巻を買ってきて読み返しました。

脱線しますが、これを初めて読んだのと同時期に『ヤンキー君と科学ごはん』も読んだので、「ヤンキーもの、流行ってるのかな……?」と思いました。意外な組み合わせ、という意表をつきたい感じがあるのかも。

特に8巻が好きでした。
8巻の山田の話の通じなさ、「あるある」な気がしてわあ……と思って戦慄して読んでいました。
灰坂のエピソード、「陽気なギャングが世界を回す」のことを思い出して、胸が熱くなりました。
牛乳をドバドバこぼしているときに大人がボウルを差し出しているコマ、車で柵を突き破る絵のコマ、漫画ならではな気がして好きでした。

動画を見ながら、自分の原点とも言えそうな過去を思い出していました。

この漫画の登場人物たちは、最初にした行動にも理由や背景があるのだけど、図書館のルールに照らし合わせてみたり、人の意見を聞くことによって考えや行動を改めるのがいいなーと思っています。それは、利用者も、図書館ではたらく人々も。

創作物の登場人物たちって首尾一貫した行動を取っている方が「ブレていない」ということで褒められる気がするのですが、実際、何かトラブルが起きたときにすり合わせをしていかないと、社会生活はままならないし……。

どういう思考をしてそこに至ったかまで描かれるので、「本を読んで他人の人生を生きる」のと同じことがこの漫画を読むと起こる気がしています。続刊も楽しみ。

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