FouFou

思いつくまま短編を書いています。それは瓶の中の手紙のようなもの。大海を漂って、いつか誰かに届く。精神の友の在らんことを願って。

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    • 東京川風景

      東京の川をめぐることばの冒険。

    • 風琴のお告げ

      密林の部族「風の人」にハーモニカを与えた事の顛末。風の音が知らせたのは…

    • 無患子

      無患子(むくろじ)をめぐることばの冒険。オートフィクションです。

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    火水 #3

    三 「市中引き回し」と聞いて、縄でくくりつけた罪人を馬かなにかで町なかを引きずり回すの図を思い浮かべる向きもあるらしい。  もちろんそんな手荒なことはしない。  裸馬の背に菰を敷き、それへ罪人を乗せ、衆目あるところへ連れ出して晒すという、要は見せしめ刑である。単独の刑として執り行われることはなく、死刑のいわば付加刑であり、だからといって必ずや死刑に付加されるものではなく、強盗殺人、通貨偽造、不義密通等の重罪に限られた。付け火もまたしかり。  江戸城下における市中引き回

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      • 火水 #2

        二  湯上がりの夕涼み。  障子を左右に開け放し、欄干にしなだれかかってお清が団扇なんぞ物憂げに使っていると、ふいに紙トンビが二階の座敷に舞い込んで、それこそは木場の若旦那のおとないの合図。そんな合図を寄越すのも、店に上がれぬ事情が出来したからで、はてと往来へ顔を覗かせると、藍の夏大島の涼しげなる立ち姿が、落ちかかる陽を柳の下に避けて、こちらを仰いでおいでおいでの手招きをする。 愛しい男の求めとあらば、さながら早瀬に浮いた丸石を次々と跳び渡る仔鹿のごとき軽やかさを見せたの

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        • 火水 #1

          一 いまの隅田川こそは元荒川、その名の通り往時は荒ぶる川であり、豪雨のたびに下流域は水災害に見舞われた。 元荒川左岸(流れに向かって左だから、北を上に地図を見れば右岸)には、家康入府以前より熊谷から向島まで堤が形成されていたとされ、これをまず整備して荒川堤、墨田堤とし、続いて右岸(地図左)の自然堤防を、その南端に位置した待乳山を崩してその客土でもって補強したのが日本堤で、以来、大雨のたび、墨田堤と日本堤とがVの字に水を堰き止めて、その北側に、時ならぬ広大な遊水池を出現せし

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          • 家憑 #4/4

            四  有給休暇明けの真丘は、平生となんら変わりなかった。  そのようにハタからは見えた。  いつもと同じ時刻に起き出して、いつもと同じものを胃に入れ、いつもと同じ時刻に家を出て、きっかり十五分自転車を走らせて、駅前の駐輪場に到着。いつもと同じ満員電車に押し込まれ、マスクの立ち客はスマホや文庫本を覗くスペースすら与えられず、みな黙然と目を閉じて目的地まで揺られていく。これとていつもと変わらない。職場の最寄り駅で降りて、駅から社屋までの道すがら、同じ会社の人間とことばを交わす

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            • 家憑 #3/4

              三  管理会社の事務所は、こじんまりとしたものだった。  入口から見て正面右手奥の壁を背に大きな机が据えれられて、そこに髪の錆びた恰幅のいい中年女性が座っていた。机にはあまたの花の鉢植え。還暦前後といったところか、HERMESのカレの柄に負けない旺盛な感じがみなぎっている。入口の並びの壁奥に、大判のポスターなども印刷可能な特大の複合機がしつらえてあり、その横で三十後半と思しき細身の女性がパソコンをいじっている。全身黒づくめで、おそらくはAgnés b.。ほかにスタッフとい

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              • 家憑 #2/4

                二  日曜の昼過ぎに妻子を連れ、不動産屋立ち会いのもと、その古民家を内見した。三人の子どもたちにはサプライズのつもりで事前になんとも言わなかったのだが、それが裏目に出たものか、子どもたちは終始やけに神妙だった。  思いのほか玄関は広く、玉石を敷き詰めて濡れた感じの三和土も風情があり、上り框の材もたしかなものだった。そしてなにより、重要文化財に指定されるような由緒ある◯◯邸でしか嗅げないような古い家独特の匂いに、真丘は感激に近いものを覚えた。妻の反応も上々である。  そのいっ

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                • 家憑 #1/4

                  一  持ち家か借家かは、じっさいのところ悩ましい問題だった。  世間体を気にするなら多少無理してでもマイホームなのだろうが、仮に金の工面ができたところで、味も素っ気もない建売住宅に何千万と払う気には真丘は到底なれなかったし、終の住処とするなら尚更だった。  子どもたちは成長して、アパートの三部屋ばかりではいかにも窮屈だった。下の女児ふたりはともかく、上の男児はもう二年もすると中学生になる。真丘の留守中、女たちに囲まれてなにかと肩身の狭い思いをさせられているのを知らぬでは

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                  • 家霊

                     物件探しとは、胸躍るものである。図面の間取りからあれこれ想像して、いざ内見という段が、またなんともたまらない。  当然のことながら、家には家の個性がある。いつからか、それを家霊と呼ぶようになった。不動産屋の若くてきれいな娘がいくら立地や内装をほめそやしたところで、しっくりこないものは、こない。「ここは築年数も古いですし、外の音もよく聞こえますから」とくさされた物件にかぎって、後ろ髪引かれることも少なくない。そして、きまって最初に見た物件こそ、いい。何日と迷うということなど

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                    • 死者からの便り #3完

                      【前回までのあらすじ】死者から送られてくる図像に翻弄される多満田マチコ。それは己の欲求不満を見る鏡のようなものだった。 これはなんなのと娘に問われて、なんと答えればよかったでしょう。 「じょ……女性自身……」 「雑誌の? そんなわけないじゃない。バカなの」 親に向かってバカとはなんですバカとは……とこちらがいいかかるより早く由香はもんどり打って海老反りをキメましてね、しばらくうんうん唸ってから、ひらめいたとばかりに立ち上がってまたもや仏壇を指差しまして。仏壇には、あれ以来献

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                      • 死者からの便り #2

                        【前回までのあらすじ】バーチャル・セメタリーJõdoに故人情報を登録した多満田マチコは、早速有料オプション「死者からの便り」を試してみることに。 よせばいいのにわたくしも物好きなもので、早速オプションを購入しましてね。半年前に亡くなった義父の故人情報の登録はとうに済んでおりまして、あとは死者からの便りを待つばかりとなった。こちらから働きかけることのできないのがなんとももどかしいところで、それから待つことなんと三ヶ月、三ヶ月目にしてようやく着信のメールが届いて、PCを開くと漆

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                        • 死者からの便り #1

                          バーチャル・セメタリーというのがあるじゃないですか。ひところCMでよくやってましたね。 anytime anywhere てん〜ごく〜 わたくしも夫も墓地を買うことに積極的になれなくて。正直、死んだら「無」と思ってますから、死後にお金をかけることの意味が見出せなくて。それに、土の下に故人がいるというイメージより、サイバー空間を漂ってるほうが、わたくしたちの感性にもしっくりくる。墓地のための土地が不足しているとも聞くし、遠くに墓を構えなどしたら、墓参りがしにくくなって、それ

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                          • 鬼灯

                             鬼灯を、買おう。  日めくりに手をかけるなり、男は思った。  暦が七月下旬を告げていた。    不意に、鬼灯のことが思い出された。  あれはどこだったろうと記憶をたどるうち、一度きり行った坂の上の朱門を思い出した。  有閑の身になって、学生時分の気楽さがよみがえったからなのか。鬼灯の鉢を買い求めるなどの酔狂をして、提灯で飾られた坂を、足取り軽く降りてくる自身の姿が見えた。女の家へ急ぐのらしい。記憶の奥底から召喚された女は、三十年を経て、あいかわらず二十歳前後の若さである

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                            • 赤の時間 #後編

                               丙午生まれの女は、男を早死にさせる、と言われる。  干支は古代中国に端を発する暦法上の用語で、暦のほか、時間や方位にも用いられてきた。午の刻は日中を半分に分ける時刻だから「正午」、子は北で午は南で地球の南北を結ぶ線はだから「子午線」、というように、いまでも干支に由来することばは身近に少なくない。ちなみに「甲子」から始めて九年後は、十番目の干と十番目の支を組み合わせて「癸酉」となり、翌年に干は「甲」に戻り、支は十一番目のそれと組み合わさって「甲戌」となる。二十年後が「甲申」

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                              • 赤の時間 #前編

                                 厚生労働省のサイトに「自殺対策白書」が掲載されている。平成23年度版にある「死亡時間別の自殺者数」によると、男性でもっとも多いのが「6時台」で969人、次いで「5時台」で959人となり、合わせて11.6%を占める。女性でもっとも多いのが昼の「12時台」の422人で5.9%、次いで「15時台」の390人で5.4%となる。ただ男性も12時台は5.6%と5時台・6時台に次いで高いし、女性も5時台・6時台は一日の前半において突出することから、0時から翌0時までヒストグラムの作る形状

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                                • 青の時間

                                   フランスの映画監督エリック・ロメールに『レネットとミラベル/四つの冒険』という作品がある。  避暑地を自転車で巡っていたパリっ娘のミラベルが未舗装の道でタイヤをパンクさせてしまい、往生しているところへ、田舎娘のレネットが通りすがって、パンクを直してやったのが縁で、ミラベルは数日、レネットの家に泊まることになる。田舎の良さをあれこれ数えるうち、とっておきの時間を案内してあげる、となって、何日目かにようやく二人して「青の時間」を体験するのだが、その「青の時間」というのが、虫た

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                                  • BGM conte vol.5 «夢中人»

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