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戦略プランナーが新入社員に教えること⑦ :「考えること」は「両立させること」

For youで執行役員CMOをしている筧(@kakehi_)です。2022年2月より、戦略プランナーとしてのnoteを書くことがノルマになりましたので、がんばっています(この記事が7つめ)

簡単な経歴を紹介させていただきます。

筧 将英 MASAHIDE KAKEHI
Creative Strategist / Strategic Planner / Marketing Director

・デジタル/SNS領域における広告会社「株式会社For you」執行役員CMO
・コミュニケーション戦略会社「Strategy Base株式会社」代表取締役
・デジタルコミックエージェンシー「株式会社ナンバーナイン」社外取締役
などいろいろやっています。

2008年電通入社、ストラテジックプランニング職からデータマーケティング職を経験。戦略立案をメインに、PRやサイト制作ディレクションも経験。子会社出向、クライアント常駐経験も有する。マーケティング/コミュニケーション戦略立案を中心として、大手クライアントのキャンペーン設計から企画・
実施を担当。

2021年より、株式会社For you執行役員CMOに就任し、現職。
また同時にコミュニケーション戦略会社「Strategy Base株式会社」を設立。大手企業やスタートアップのマーケティング・ブランド戦略を中心として、アライアンス戦略や新事業開発のサポートもおこなっている。

広告業界は15年ほどの経験ですが、広告プランニングとは非常に幅が広く、それゆえに属人性が高くなっており、人に教えるのが難しい領域だと思っています。そして、センスというとよくないのですが、まさしくセンス的なものも感じるときはあります。

こちらのnoteではストラテジックプランニングと呼ばれる、コミュニケーション戦略立案の方法について書いていくのですが、センスではない部分について語っていきたいと思っています。

スタンスとしては、仮に「自分に新入社員がついたときに教えること」を言語化していきます。

ただし、マーケティングの基礎知識は、世の中にある名著を読んだほうが明らかによいので、そのような知識は本を読んでください。本に大事なことは全て書いてあるのに本を読まない人が多いのが広告業界であったりもします。読書大事です。

ですので、このnoteの連載のテーマは「マーケティングの教科書には載っていないスキルとスタンスの間くらいの大事なこと」です。

これまでに書いた記事は下記となります。

第1回の記事は「考えること」は「分けること」
第2回の記事は「考えること」は「書くこと」
第3回の記事は「考えること」は「知ること」
第4回の記事は「考えること」は「課題を特定すること」
第5回の記事は「考えること」は「まとめないこと」
第6回の記事は「考えること」は「違和感に気づくこと」

今回は第7回の記事になりますがテーマは
「考えること」は「両立させること」です。

仕事はよくトレードオフに迷い込む


中級編のテーマは「付加価値をつくること」ですが、付加価値を作るには難しいテーマに取り組むことが必要です。

難しいテーマとして「トレードオフ」について注目します。 
トレードオフとは、

何かを得ると、別の何かを失う、相容れない関係のことである。平たく言うと一得一失(いっとくいっしつ)である。対義語は両立性。トレードオフのある状況では具体的な選択肢の長所と短所をすべて考慮した上で決定を行うことが求められる。

wikipediaより

と定義されています。簡単に言えば「あちらを立てればこちらが立たず」の状況のことを指すのですが、このトレードオフを解決することで、提案性を持たせることができます。

トレードオフになっている例

トレードオフになっていることは多くあります。例えば、

  • 使えるお金と実現しなければいけない業務

  • 納品までの時間と求められている品質のアウトプット

  • 今使える人員と、しなければいけない業務量

 など、企業などで働いていたり、自分の事業をしている方は心当たりがあると思います。むしろこのトレードオフと常に戦い続けているという人も多いかもしれません。

トレードオフはあちらを立てればこちらが立たずになっている状況ですので、必然的に優先順位をつけてどちらかを選ぶということが多く、実際にはその解決方法は一般的です。
 
ただし、企画者やアイデアを考える人はそれを乗り越えることを諦めてはいけません。トレードオフになっている状況を解決する方法について説明していきます。

トレードオフを解決するためには、ゲームを変えること

トレードオフになっている際に、そのトレードオフになっている項目眺めているだけでは解決しません(努力でなんとかすると言うのは多々ありますが)

そこで意識したいのは「ゲームを変える」ことです。視野を変えると言ったり、土俵を変えるといってもいいかもしれません。今ある状況をガラッと変えることを考えることを意味しています。

感覚的な話になってしまうのですが、スポーツで例えると、サッカーから野球まで変える必要はありません。サッカーからフットサルぐらいでの変化でもよいのです。ルールをひとつだけ変えるという意識でもよいかもしれません。

必要なのは視座を高めることです。目の前だけが見えていた視野から、まわりのことまで俯瞰してみてみましょう。もっと具体的に言うのであれば、他部署のことや、他の企業のことを考えてみましょう。
最初は難しいかもしれませんが、ゲームを変えるためには視座を高める、視野を変える意識を強く持ちましょう。

私の実体験:業務向けプリンターのプロモーション


私が関わった案件の事例です。業務向けプリンターのプロモーションの企画検討においてトレードオフになったことがあります。
 
業務用、中小企業向けのレーザープリンターの購入を促したい、目標数値はこのくらい、という与件がありましたが、使える広告費が少ないためテレビCMの活用は難しい、またターゲットが狭いため、テレビCM以外においても効果的なメディアが限られるという状態でした。「お金」と「成果」のトレードオフです。どうやったって普通にやると達成できない状況でした。
 
私が考えたのは、「無料のWEBサイト作成サービスの企業と協業する」ということでした。ターゲットである中小企業は経営層や社員が高年齢であることが多く、WEBサイトは欲しいと思うものの、よくわからないどうしたらいいかわからないとう状況でした。逆にいえばプリンターはあるけど、積極的には買い替えようとは思っていません。
 
企画としては、「業務用プリンターを購入された方に限り、御社のWEBサイトを作って納品します」というキャンペーンを設計しました。通常であれば抽選でのキャッシュバックキャンペーンなどがおこなわれていたのですがそれだとインパクトが足りずこれまでと変わらない。そこで、中小企業の人が欲しいと思っているWEBサイトを商品購入のインセンティブにしたのです。
 
無料のWEBサイト作成サービスの企業の視点から見ても、継続利用の可能性が高く、またアップセルの可能性もある企業ユーザーが増えることはメリットであると感じてくれ、キャンペーン告知などにも協力してくれることになりました。
 
WEBサイトに興味がある中小企業が多く、そのようなインセンティブがあるのでれば、業務用プリンターも新しいものに取り替えるのもいい、という企業が多く購入をしてくれる結果となりました。
 
これは一事例で、トレードオフになっている状態を解決する方法としていろいろあると思いますが、私がよく使う方法をまとめます。

トレードオフを解決する一口を探す3つの視点


企業活動は企業対顧客の関係性だけではなく、企業間の関係性も含まれています。トレードオフを解決するには、自分の目の前にある変数に囚われるのではなく、異なる企業や担当者の視点まで広げてみることが必要になります。
 
あなたが必要がないと思っているものでも、必要だと思っているひとは必ずいるはずで、そこまで考えてみることでトレードオフを解決する糸口とすることができるようになります。
 
私がトレードオフを解決する視点はこちらの3つです。
 
視点①:3つ目の変数を考える
視点②:自社の課題と他社の課題をぶつける
視点③:ターゲットが同じ企業やサービスを見つける

視点①②③それぞれが異なる解決策を導くのではなく、トレードオフを解消することができる方法を見つける視点と理解してもらえればと思います。

視点①:3つ目の変数を考える

ひとつめの視点は、トレードオフになっている2つの要素に対して、新しい3つ目の要素を足してみることです。
 
例えば、

  • 「時間」と「クオリティ」であれば、「人員」を変えることができないかを考える

  • 「お金」と「業務量」であれば、「納品物」を変えることはできないか考える

です。
 
二つの変数に捉われると視野が狭くなります。その結果、誰かが苦しむことを選択しがちですが、3つ目の視点を取り入れることで、そのバランスを変えていきます。
 
Aという要素とBという要素だけで考えているときに、Cという要素を追加することで状況を変えられないか、ということを考えてみます。

私の先ほどの事例でいうと「お金」と「成果」のトレードオフに対して、「インセンティブ」を変数に加えました。

通常であれば販促キャンペーンのインセンティブは「キャッシュバック」であるのですが、それを「WEBサイト」に変えることと、他社のメリットを構築することで、費用の中で最大の効果を出すことができました。

視点②:自社の課題と他社の課題をぶつける
 

通常、仕事はあらゆる会社との取り組みの中で動いているのに、トレードオフになっている課題を解決しなければいけないときには自社だけで取り扱える方法で解決しようとしていないでしょうか。もちろん自社であれば自社の判断で実施できるため自由はきくのですが、それでは提案性を作ることはできません。
 
あるいは、他の会社や人を動かすことは迷惑をかけてしまう、動いてくれるわけではないと思い込んでいないでしょうか。自社の課題と他社の課題は異なるのが当たり前であり、お互いのアセットや考えを整理することで、トレードオフになっている事象を解決することができます。
 
また、実際には協業する他社にもメリットがあり、WIN-WINの状態を作ることが可能なことが多いです。概ねマーケティング担当者などの方は新しい打ち手を探しており、また経営者などは良いアライアンス先を探していることが多く、協業のメリットを整理して話すことで、少なくても検討してくれるところまではいく場合が多いと感じています。

私の事例でいうと、自社だけで考えるとキャッシュバックになってしまうのですが、無料のWEBサイト制作サービス企業と協業することでこれを解決したのですが、彼らにも「中小企業の利用者を増やしたい」「新しいアプローチ方法の創出」は課題と持っていたため、協業を実現することができました。
 
このように、他社とアライアンスを組めないかとなったときに、「同じような課題を持っている企業はないか」という視点で、企業を探してみるということをしてみましょう。

視点③:ターゲットが同じ企業やサービスを見つける


視点②と似ていますが、他社の課題は見つけにくい場合には、視点③のターゲットが同じ企業やサービスを見つけるのがおすすめ明日。私の事例においても、ターゲットとして「中小企業」として重なりがあるところが協業が実現できた要素として大きい。
 
事業内容やビジネスモデルが重なっている企業ですと競合企業になり協業をすることは難しいのですが、事業内容やビジネスモデルが異なる企業であれば協業は可能になります。

見つけ方のコツとしては、自社のターゲットを洗い出してみます。例えば、ビールメーカーだとすると、「若い社会人」に飲んでもらいたいとします。もちろん他のビールメーカーも同様のことを考えていることが多いですが、ビールメーカーと協業は難しい。

そこで、「若い社会人」をターゲットとしている企業を考えてみると、例えば、スーツメーカーは、若い社会人がスーツを着ることが減っているからもっと獲得したいかもしれないので、スーツをきている人はビールを割引などのキャンペーンができるかもしれません。
他にも、例えば和菓子メーカーは、若い人の和菓子離れが進んでいるので、ビールと合う和菓子のマリアージュを提案できるかもしれません。チョコと黒ビールは合いますが、おはぎと白ビールの組み合わせは新しさがあります。
 
上記のようにターゲットが近い企業やサービスと協業をすることで、お金面の解決や業務量の解決をすることにつながっていきます。

トレードオフな状況はむしろチャンス


 仕事をしていてトレードオフに追い込まれることは多いでしょう。自社と他社の間に挟まれて調整しなければいけないなんていうのは社会人の常かもしれません。しかも、上からは目標を達成しろ、お金はこれだけしかないけど、なんてこともよくあります。
 
非常に辛い状況だと思うのですが、誰もが厳しいと思っている状況をひっくり返すことができれば、あなたの成果となり、成長につながっていきます。
 
何より、「今があなたの仕事上のチャンス!」といってくれることはありません(上から言われるときは、上がそえをいうメリットがあるからです)。トレードオフという状況は、陥っているときにその状況にいることがわかりやすいのが最大の特徴で、その状況に陥ったとわかったときに、それを乗り越えることに注力してみましょう。
 
社会人生活をしていて、意外と(本当に意外と)、他社を巻き込むことをうまく実施することができる人は多くいません。それがゆえにそれが意識的にできるようになることは大きなチャンスなのです。ぜひ、自分の持ちうる手段として、トレードオフを解決すること、他社を巻き込むことを持っていきましょう。

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