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ふるさとへの愛着はとつぜんに。

こんにちは、フォレスト出版編集部の杉浦です。

突然ですが、みなさん、生まれ育った土地に愛着はありますか? 私は正直、たいしてありませんでした。私の地元は、東京駅から電車で1時間半くらい、県境を越えるものの、都内に通勤通学ができるところで、かつては文豪や政治家が別荘を構えていた地域でした。ただ、私が生まれたころは別荘も空き家となり、これといった特徴のない、平凡な町になっていました。全国的に有名な祭りとか、名産品とか、B級グルメとか、観光地とかのない、地味な町。その印象はいまも大して変わりません。新しく観光名所ができたり、特産品が生まれたりといったこともないからです。なんなら、町内唯一あったモスバーガーはつぶれ、町内最後の一軒として駅前で踏ん張っていた書店もなくなったくらいです。(書店が一軒もなくなったのは衝撃でした……)「さびれていく一方だな~~」と思っていたのは私だけじゃなく、町の人たちも同じだったと思います。

ところが、ここ数年、東京をはじめとした他地域から、若者世代が徐々に移住してくるようになり、表参道や代官山にありそうなお洒落なパン屋さんとか、カフェやレストランが開店するようになりました。高齢化が進んだ町の住人にはちょっと似つかわしくないというか、腰の曲がった野良着のおばあちゃんがお茶してたらちょっとシュールというか、ほほえましいというか、そんな感じです。

移住者の方たちは、町の少子高齢化により点在している空き家だった物件をDIYして住んだり、お店をオープンしたりしている事例が多くみられ、アーティストの移住も増えているそう。今回のコロナ禍で、東京を離れ、テレワークで仕事をしたいという人が増えているらしく、地元の不動産屋さんが、「スタッフフル稼働で対応中」とSNSに投稿されていました。

実はわが家も20年以上空き家にしていた築古の戸建てを若い移住者の方に貸して3年くらいが経ちました。不動産投資に関連する本をつくったこと、知り合いがSNSに「古民家を探してる」と投稿していたのがきっかけです。増改築を繰り返したただの築古なだけで、古民家と聞いて想像する雰囲気のある建物というわけではないのですが、かつて祖父が落花生の加工場として使っていた、車2台は停められる広さの土間がある物件です。古民家探し中の知り合いは、条件が折り合わず、見送りになったのですが、こういった物件に興味を持ってくれる人がいるんだなと知ることができました。そして、物件から徒歩2分くらいの超ご近所に、町内の空き家と移住者を結びつけて、さびれていく町を活性化させたいと奮闘している不動産屋さんがあり(冒頭に書いた「スタッフフル稼働中」の不動産屋さんです)、そちらに物件の相談に行ったのです。

不動産屋さんはわが家の土間を一目見て、「これは決まります!」と即答、実際、その後8組くらい入居希望者が現れ、一か月後には入居者が決まりました。スーパーラッキーなことに、入居者さんは、空間デザインのプロの方でした。住みながらただの築古戸建てを、今どきの若者にウケそうな、カジュアルながらもエッジが効き、かつ、古いぬくもりある空間に変えてくれたのです。諸事情あって、現在は、若い料理人の方が住みながら近海で獲れた魚料理専門というコンセプチュアルな居酒屋をやられています。

私は実家から離れて暮らしているので、入居者さんのSNSで、家の変化を見ていたのですが、自分が生まれ育った家の姿がどんどん変わっていくことに、わくわくする気持ちもある一方で、ちょっとした寂しさもありました。そして昨年末、家族とお店の予約を取って、貸し出してから初めて家に足を踏み入れました。20年以上埃をかぶり、荒れ果てていた土間がすっかり生まれ変わって、白熱灯で雰囲気よく映し出されている姿に見とれる一方、そこで感じたのは、自分の家に見ず知らずの人たち(お店のお客さんです)が大勢いる違和感。心のなかは「旨い!」(本当に美味しいんです!)と「さみしい」を行ったり来たりしていました。そして、お客さんたちが一息ついて帰り際、口々に、「美味しかったよ、ごちそうさま!」と声をかけて出ていきます。私は、その言葉を聞いて、なんだか、この家自体が人々から喜ばれている感覚を覚えたのです。家も喜んでいる気がしました。同時に、私自身、すごくうれしい気持ちになりました。これは不思議な感覚でした。私は飲食の経験はバイトくらいしかありませんが、飲食業に携わる人たちの喜びってこういうことなのかな、とも感じました。

私は、お店に足を踏み入れる前、初めの入居者の方が決まったころから、なんだか地元が気になりだして、移住者の方や彼らを応援している人たちのSNSをよく見るようになりました。「山と海以外、何もないけどそれがいい」「クールすぎず、ベタベタしすぎない町民たちの距離感がいい」と言った外からの声。言われてみれば確かになと、地元を見る目が変わっていきました。身近すぎるものの価値って自分ではなかなかわからない。密着しすぎてその姿をとらえることができないというか。ただの築古が古民家とタグ付けされ、土間がいい!と言われるとは。なんにもない町だから魅力的だ、などといわれるとは。

海外に行って母国のよさがわかる、と言いますが、まさにそんな感じで、私はあまりにも地元に興味がなかったので、齢30うん歳にして、他の地域から来た人たちから、地元のよさを教えてもらったのです。ただそれだけなんですが、なぜか、自分のなかの欠けていたパーツがひとつ埋まった感じがしました。それだけ、ふるさとという存在は人にとって大きいのだなと体感したのでした。

(写真は地元の山の頂上から撮ったもの。同僚から「富良野か?」と言われました)


※実家を貸し出すきっかけになった担当書籍とは別ですが、空き家活用について、こんな本も弊社から出ています。ご参考ください!




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