#362【ゲスト/フリー編集者】海外での雑誌創刊、ワクワクドキドキ奮闘記
このnoteは2022年3月31日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
リタイアメントビザでマレーシア(マラッカ)へ/なぜ現地で雑誌を創刊?
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。本日は昨日に引き続き、フリーライターで、フリー編集者の牧野森太郎さんがゲストに来てくださっています。フォレスト出版、森上さんと共にお伝えしていきます。牧野さん、森上さん、今日もよろしくお願いいたします。
牧野:よろしくお願いします。
森上:よろしくお願いします。
今井:昨日は牧野さんがフリーライター、フリー編集者になるまでの経緯やお仕事の内容、そしてライフワークのアメリカでの趣味についても詳しくお聞きしました。まだお聞きになられていない方は昨日の放送もぜひチェックしてみてくださいね。そして本日はそんな豊富な海外経験をお持ちの牧野さんが、海外で実際に雑誌を立ち上げた話を中心にお聞きしていきたいと思います。
森上:牧野さんに以前ちらっとお聞きして本当にびっくりしたんですけど、あるアジアの国で雑誌を創刊したっていう……、あれってどこの国でしたっけ?
牧野:マレーシアですね。マレーシアのマラッカっていう街で、雑誌を作りました。
森上:なんでマレーシアに行ったんでしたっけ?
牧野:そのときに持っていた自分のお金で老後をどうするんだって考えたときに、海外のリビングコストの安いところで暮らせないかって発想したんですね。
森上:はい、はい。それはおいくつのときですか?
牧野:40代後半ぐらいですかね。それでリタイアメントビザっていうものがありまして、「うちの国に長く住んでもいいですよ」っていうビザを発行している国が世界中にいくつかあるわけですね。で、そういうところをちょっと旅行してみて、肌に合う国があったら住んでみたいなあっていうので、色んな国を旅行し始めたんですけれど、そのときにマレーシアっていう国が時差もないし、日本と行き来するにしても近いですし、食べ物も口に合うし、街が日本の昔みたいな感じで非常に気持ちよく暮らせるかなと思いまして。それでマラッカという街に友達ができて、彼を頼って頻繁に行ったり来たりしてるうちに、いい家が見つかったんですよ。
森上:ほー!
牧野:で、ちょうどそのマラッカが世界遺産に指定されて、あと1、2年後に世界遺産になるっていうタイミングだったんですけど。古い町並みの古い歴史のある家を彫刻のアーティストがギャラリーに使っていたんですけども、そこを紹介してもらって。またその彫刻がカッコよくて、その家がものすごくよく見えたんですね。
森上:ほうほう。
牧野:それで、こんなところに住みたいなと思っていたら、「数カ月後に引っ越すんだけど、貸してあげようか?」って言われて、それで飛びついてしまったっていう(笑)。
森上:すごいですね。その行動力とそのフットワークの軽さ。
今井:老後に住む国を探してマレーシアに行ったのと、雑誌を立ち上げることになったっていうのが全然私の中では結びつかないんですけど、なんでマレーシアで雑誌を立ち上げることになったんですか?
牧野:そこの彫刻家のギャラリーが、考えてみれば当然なんですけど、彼らが引っ越したらガランとしてしまったんですね。それで本当はただそこに住んでブラブラしようと思っていたんですけど、向こうで知り合った友達と「世界遺産に指定されて、外国人客がこれからわんさかマラッカに来るのに、こんないい場所を放っておくのはもったいない」っていう話になって。
森上:ほうほう。
牧野:それで最初はレストランを始めたんですよ(笑)。
今井:レストランを始めたんですか!?
森上:日本食ですか?
牧野:いや。ちょっとこの話、長くなっちゃうんですけど、マレーシアっていう国はマレー人と中国人とインド人がミックスで住んでいる国なんですね。土着の人たちはマレー人なんですけど。マレーの食べ物と中国の食べ物がドッキングした料理が名物でありまして、それがニョニャ料理って言うんですけれども、非常にこれが美味しいんですよ。で、それを外国人観光客向けにアレンジしたものを出そうっていうアイデアで。だから、最初はすごく志の高いレストランだったんですけど、これが見事にうまくいかなくて。最後には親子ドンぶり屋になっちゃったんですけど(笑)。
森上・今井:(笑)。
森上:その家の軒先でやったんですか?
牧野:アートギャラリーだったところを改装して、ちゃんとテーブルも置いて、カウンターも作って、それなりに作ったんですよ。
森上:期間はどれぐらいやったんですか?
牧野:1、2年ですね。結局、それをもう閉めちゃうってことになって、「じゃあ、何しようかな」っていうことになったんですね。で、予告通り、世界遺産になったので、観光客はたくさん来始めたんですよ。もう街中に外国人がたくさん歩いているようにはなったんですけど、マラッカっていう街の魅力を伝える媒体がなかったんですよ。政府はマレーですから、マレーの人たちが作るマレー語の、とてもアメリカやヨーロッパから来た人たちには使い物にならないパンフレットがあるだけで、「これはあまりにもさみしいなあ」っていうので、「じゃあ、僕ができることは何か」って考えて、「マラッカの観光情報が英語で書いてあるフリーペーパーを作ろう!」っていうことになったんです。
森上:ほー。フリーペーパーっていうことは広告を取ってこなきゃいけない。
牧野:そうですね。「caricari(チャリチャリ)マラッカ」というんですけど、「caricari」っていうのは「何かを探す」っていう意味なんですよね。観光客を有名な観光スポットの前でジャンプさせるっていう表紙をコンセプトに作りまして。
森上:なるほど。これは海外に遊びに来た欧米人を対象にしたフリーペーパーなんですね?
牧野:そうです。
森上:なるほど。これはだいたいどれくらいのペースで刊行されていたんですか?
牧野:年に3、4回ですね。
森上:なるほど。ワンシーズンに1冊という感じですね。
牧野:はい。マラッカっていう街は結構長く滞在する人たちが多いんですよ。ですから、ゲストハウスがたくさんありまして、1、2ヶ月、そこに半ば住んでいるような外国の方が多かったので、そういう人たちは非常に喜んでくれましたね。
森上:なるほど。それは何号まで続いたんですか?
牧野:それがあまり大したことなくて、5、6冊。1年半ぐらいですかね。
欧米人ライター、マレー人デザイナー、中国人広告マンと一緒に雑誌作り
森上:へー。広告を取ってくるのも牧野さん1人でやったんですか?
牧野:いやいや。記事が英語で書かれているんですけど、僕もある程度はしゃべれるんですが、きちんとした英語で書いていないとクオリティが下がるじゃないですか。それで、その街に住んでいるイギリス人とか、アメリカ人とか、そういう人たちをライターとして雇って、それで原稿を作ってもらったんですね。
森上:そうだったんですね。それで、編集長として。
牧野:そうですね。
森上:写真はご自身で撮りますもんね。
牧野:ええ。それで僕のパートナーと言うか、デザイナーがマレー人だったんですけど、彼が写真も撮っていたので、デザインとカメラは彼にやってもらって、それで広告に関しては地元の中国系の人たち何人かに声を掛けて、それで集めてもらったっていう感じですね。
森上:すごいですね。
牧野:それで、ここがポイントなんですけど、デザイナーの彼の奥さんっていうのが、マラッカの市役所に勤めていたんですよ。で、しかも観光課みたいなところにいたので、彼を通して、市からお金をもらうっていうモデルを作って。
森上:それはでかい。なるほど。それは、めちゃめちゃいいですね。
牧野:はい。それで、契約してスタートしたんですけど、1年半しか続かなかった理由が何かって言うと、市がお金を払ってくれないんですよ(笑)。
森上・今井:(笑)。
森上:支払いが悪いんですか。
牧野:悪いどころが、全然払ってくれなくて。
森上:えー……。それは続かないですね。
牧野:そうなんですよ。だから、払ってくれていたら、森上さんと知り合うこともなかったんですよ。
森上:そうですね(笑)。ずっとマレーシアに住んで、マラッカにいたかもしれない。すごいな。そういう意味ではマラッカの観光のためにフリーペーパーを1年半だったけど、出し続けた経験があるという、これはもう本当によくやられたなぁと思うんですけど。それこそ印刷場だってパイプから探さないといけないでしょうし、いろいろと大変だっただろうなって想像に難くないんですけど、ネタ自体は牧野さんが特集テーマを考えたりしたんですか?
牧野:そうですね。それが赤子の手を捻るようにっていうと、あれなんですけど。結局、こういうガイドブックっていうのはセオリーがありますよね。観光スポットの紹介だったりとか、地元の食べ物のルーツを調べたりとか、あとキーマンの人にインタビューしたりとか、あとレコメンデーションスペースみたいな、お買い物の情報だったりとか、そういう当たり前のことをやっているものが他になかったので、もう当たり前のことをやったら「面白い」ってみんなが言ってくれたっていう。
森上:なるほど。それが、何年前ですか?
牧野:それが2011年ですね。
森上:おー!あの頃ですか。その頃は、ネットは結構盛んだったんですか?
牧野:ネット情報も精度のいいものはほとんどなかったと思いますね。
森上:そうなんですね。日本で当たり前に通用しているビジネスモデルをそのままで持っていったらまだ通用する可能性を秘めているんですね。
牧野:そうなんですよ。始める時にこうやればいけるなあっていう感触はもうありましたね。
森上:なるほど。海外に行きたいと考えているリスナーさんは、もしかしたら今、日本で流行っているビジネスモデルをそのまま持っていったらうまくいくかもしれないですね。まあ、そんな単純な話じゃないでしょうけど。
今井:「まっぷる」や「るるぶ」なんて日本では1000円、2000円で売られているのに、牧野さんはお金を取らずにあえてフリーペーパーでやられたんですよね?
牧野:やっぱり情報誌ですから、そこにお金を払おうっていうモデルはちょっと考えづらかったですね。本屋さんもないですし。
今井:そうなんですか?
牧野:はい。売るっていっても、どこで売って、どうやってお金を回収するんだっていうことを考えると、それをやるよりはフリーペーパーにして、色んな店先に置いてもらった方が得策かなっていうことでした。
森上:なるほど。配布先の開拓も大変だったわけですもんね? 出口の部分も。
牧野:そうですね。
森上:そういうことなんですね。でも、すごくワクワクドキドキするようなお話ですが、そこからまた日本に帰ってきてって感じですよね?
牧野:そうですね。その辺もいろいろとありまして(笑)。借りていた家がすごくいい家で気に入っていたんですけど、もう1つの気に入っていた理由は家賃が安かったんですよ。持ち主が友達の友達だったんですよ。ところが、その人がその家を売っちゃったんですよ。
森上:(笑)。
牧野:それで、クアラルンプールから新しいオーナーがやってきて、若い30代ぐらいの中国人の夫婦だったんですけど、すごくいい人たちで話していてもすごく気が合って、話が弾んだんですけど、お金の面だけ気が合わなかったっていう(笑)。
森上:(笑)。
今井:しっかりしてらっしゃったんですね(笑)。
牧野:しっかりしていて。投資のために彼らは家を買ったので。
森上:でも、世界遺産の近くの街、住宅だったら相当上がってきますよね。投資対象になりますからね。
牧野:世界遺産のもうど真ん中だったんですね。なので、一気に周りの家賃が上がっている時だったので。
森上:そっか、そっか。牧野さんも、そこでその家を賃貸ではなく、買うという形もあったんですよね?
牧野:そうなんですよ。最初に「買わないか?」って言われたんですけど、さすがに勇気がなくて、借りたんですけど、そこで最初に買っておけば違ったかもしれませんね。
森上:億万長者になっていたかもしれない。
今井:もし家を買っていたら、森上さんと会うこともなかったですもんね。
牧野:もう完全になくなっちゃいますね(笑)。
森上:マレーシアにいて、もしかしたらそのフリーペーパーが続いていて、僕はそのフリーペーパーを見たぐらいかもしれないですよね。
マレー人の意外な一面/マレーシアのポテンシャル/フリーライターになりたい人へ
牧野:そうですよね。マレーシアって、先ほども少しお話しましたけれど、マレー人と中国人がミックスで住んでいるんですけど、これがお話したように、雑誌をつくるのにマレー人のデザイナー、それから広告の方が中国系、それから取材、執筆は欧米人っていう、1つのチームをつくるのに、人種が混じるんですけど、マレー人というのが自分たちで固まっていて、他の人種の人たちと全く交わらないんですよね。彼は僕を通じて色んな人と知り合いになりましたけど、彼の友達なんかは中国人とこんなに半々に暮らしているのに話をしたことがないとか、それぐらい違うんですよね。
森上:そうなんですね。そのマネジメントもまた大変ですね。
牧野:マネジメントが大変っていうよりも、こういう世界なんだなあっていう、変わったものを見た感じがしましたね。ご存知のようにマレー人はイスラム教ですから、お酒も豚肉も食べないんで、レストランをやっている頃にまな板で豚肉を切ると、その包丁とまな板はもう使えないっていう話になっちゃう(笑)。結構面白い国です。
森上:素晴らしいですね。マレーシアに行ってみたいと思っているリスナーの方もいらっしゃると思うんですけど、経済的にもGDPも今、伸びていますもんね?
牧野:そうですね
森上:これからまだまだ注目される、伸びしろのある国ですよね。
牧野:石油も出ますし、パームオイルとか、そういう資源があるので、ベースは結構強いですね。あと、結構教育の水準も高くて、アジアの国の中では街中で英語がよく通じるっていう。それもマレーシアに住みたいなと思った理由の1つでしたね。
森上:じゃあ、牧野さんはマレーシアに住むのをまだあきらめていないんですね?
牧野:そうですね。忘れていましたけど、それもいいですね(笑)。友達もたくさんいますし。
森上:そうですよね。もしかしたら牧野さんがマレーシアの出版業界を盛り上げるかもしれないですね。楽しみです。本当にありがとうございます。
今井:ありがとうございます。昨日と今日の2日間にわたって牧野さんにフリーライターやフリー編集者の生き方について、いろいろと興味深い話を伺ってきたのですが、リスナーの皆さんの中にも、フリーライターやフリー編集者という仕事に興味のある方がいらっしゃるかなと思いますので、牧野さんからアドバイスをいただいてもよろしいでしょうか?
牧野:はい。何か興味がある事があって、専門的な知識があるとか、これから勉強したいっていうような気持ちがある方にとってはいい仕事なんじゃないかなと思います。紙の媒体、特に雑誌関係はちょっと厳しくなっていますけれど、今はウェブの仕事ですとか、そういうところはもう非常に裾野が広がっていますので、チャンスはあると思うので。まあ、そのチャンスを掴んで、ものにできるかどうかは本人の力量次第、頑張り次第というふうになると思いますけど、もし興味がある方は森上さんに連絡してみてください。
森上:(笑)。そんな! 僕は責任負えないですよ(笑)。それこそ牧野さんが当初、編集者になりたい、ライターになりたいと思ったときに比べて、個人で発表する場が増えていますからね。
牧野:そうですね。
森上:全然、あの頃に比べたらnoteしかり、こういった音声メディアしかり、フリーで発信できる時代ですから、まず発信してみる。出版に関わる人間の立場からすると、1つのきっかけになる可能性もありますし、そこはぜひ発信されたらいいんじゃないかなと個人的には思いますね。
牧野:YouTuberなんていう職業がこんなに成立するなんて夢にも思いませんでしたけど、ライターという立場でも発表の場が増えていますので、頑張り次第で夢を開けるかなと思います。
森上:本当にそう思いますね。
今井:聞いている皆さんも勇気が少し持てたんじゃないかなと思います。牧野さん、森上さん、本日はどうもありがとうございました。
牧野:ありがとうございました。
森上:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)
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