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肥料で野菜がまずくなる!?~野菜は小さい方を選ぶといい(第2回)

こんにちは、フォレスト出版編集部の杉浦です。

先日は、『非常識な成功法則』ならぬ、【非常識な野菜の選び方】をご紹介しました。(『非常識な成功法則』は弊社を代表するベストセラーです)

本日は、前回同様『野菜は小さい方を選びなさい』より、【無肥料栽培】の野菜についてお話しします。無肥料栽培とは、文字どおり、肥料を使わない農法のこと。肥料を使った方がよく育ち、美味しくなりそうですが、本書の著者である岡本さんによると、

「肥料で野菜が不味くなる」
「肥料をやめると作物の病気が減る」
「肥料が虫食いの原因になる」

のだそうです。

では、詳しく見ていきましょう。長文のため、ポイントになる箇所を太字にしてみました。

▽下記の書籍、第1章からの抜粋です。

肥料が野菜を「不味くする」  

 僕は農作物を栽培することを生業のひとつとしています。僕の農法は、一般的には認知されていない無肥料栽培というものです。一見聞き慣れない無肥料栽培という言葉ですが、最近で言うところの自然農法とか自然栽培と呼ばれる農法が、無肥料栽培にあたります。無肥料栽培という言葉だけですと、化学肥料を使用せず、家畜排せつ物等から製造した有機肥料を使用していると思われる方もいるようですが、僕は有機肥料を使用することもありません。
 自然農法や自然栽培という農法には、本来、定義というものはありませんが、広義では、無肥料、無農薬、無除草の栽培方法を指します。さらに不耕起、つまり畑を耕さない農法を自然農法と呼ぶことが多いと思います。
 この農法を実践したのは岡田茂吉氏をはじめ、福岡正信氏、川口由一氏、木村秋則氏といった方々です。この方々がこの農法を伝承し、現在では多くの農業家の方々が実践しています。
 自然農法や自然栽培は、もともと、従来の収奪型といわれる化学肥料や化学農薬を使用する慣行農法が地球環境を壊していることから、そのオルタナティブ(代替手段)として生み出されたものです。
 化学物質は一切使わないだけではなく、その畑や畑の近辺に存在しないものは、肥料であっても使用しないという信念があり、さらに雑草を敵とせず、虫さえも味方に付けて栽培する農法です。
 最近では、生き方としての自然農法が注目されています。つまり、化学物質に依存しない生き方、食べものを自ら作り出す自給自足的な考え方を含めて、自然農法と呼ぶこともあるようです。
 森や林や原野では、毎年多くの植物たちが芽吹き、育まれています。この木々や草たちに肥料を与えている者等どこにもいません。誰も肥料を与えなくても植物は勝手に育っています。つまり、植物を育てているのは必ずしも肥料ではないということです。肥料がないと育たないというのは単なる思い込みでしかありません。

 なぜこの思い込みが起きたのかを説明しておきましょう。
 まず、農業を始める時には雑草を徹底的に取り払います。雑草の根が張り巡らされている場合には除草剤を使うこともあるでしょう。雑草を取り除いたあとはトラクター等の機械を使って耕します。耕すことで作業性をよくするためです。土は軟らかくなり、根も張りやすくなると信じているからです。そこに当たり前のように肥料を与えます。そして種を蒔いたり、苗を植え付けたりします。栽培途中では、成長を助けるために、追肥といって、肥料をさらに追加で施します。虫が付いたり病気になったりしないように何度も農薬を撒くでしょう。こうして野菜は作られます。
 しかし、ここで行っていることはすべて、自然界が与えてくれている恵みを「取り去る」ことなのです。のちほど詳しく説明していきますが、本来植物が育つためには、土のなかに生き物や植物の根が必要です。なぜなら、虫や、ミミズ等の土のなかの土壌動物や微生物が土のなかの根っこ等の有機物を分解しながら、植物が成長するために必要な栄養を生み出しているからです。その生き物たちや植物の根を取り去り、かつ耕すことで土壌動物や微生物を追い出し、農薬によって虫たちを死滅させていくと、土のなかは「空っぽ」になり、もう栄養を作り出すことができなくなります。この空っぽの状態では野菜は育たないので、肥料を入れざるを得ないということになるわけです。
 つまり、土のなかを空っぽにしてしまったがために、わざわざ肥料を与えるという行為が必要になり、この肥料分が野菜の成長によって使われていくと、肥料分がなくなった畑では野菜は育たなくなります。そしてもう一度肥料を施すことになります。こうして、肥料がないと野菜は育たないと思い込んでしまうわけです。しかも、化学肥料等を大量に与えると、野菜の味が落ちていきます。
 野菜であろうが穀物であろうが、本来ならば、土壌動物と微生物たちによって作り出された栄養分があれば、成長していきます。土壌動物は作物の根っこを食べてしまうということで嫌われますが、彼らが土壌のなかで生命活動をしているからこそ、栄養が作られていくのですから、彼らの活動はとても重要なことなのです。
 土壌動物が有機物を食べ、その糞を微生物が分解していきます。それを植物が使って成長し、植物は種を付け、枯れると土のなかに戻って、次の生命のための栄養になっていく。この自然界が持っている「循環」という仕組みを人間がうまく利用すれば、肥料等与えなくても育っていくものなのです。
 だからこそ、僕らのような無肥料栽培というものが成り立つわけです。

肥料を止めれば「農薬は不要」になる

 普通に考えれば、野菜や穀物に肥料を与えることによって、作物は元気に育ち、健康にもなるという認識だと思います。人間も食事によって栄養をしっかり摂っていれば、病気になることは少ないでしょう。それは決して間違ってはいません。
 しかし、僕は無肥料栽培を始めて以来、その常識に疑問を感じはじめました。
 なぜかといえば、作物に肥料を与えるのを止めると、作物の病気や虫食いがどんどん減っていったからです。
 今の化学農業の現場で与えられている肥料は、過剰気味ではないかと僕は思っています。過剰になれば作物も肥満になります。作物は肥満になった方が美味しく見えますし、購入者から見ればお得感があるので、よく売れるようになります。しかし野菜には「本来の大きさ」というものがあります。その大きさを超えて肥大化させることは必ずしも野菜にとってはメリットばかりではありません。人間も肥満になれば、生活習慣病等の病気のリスクを負うことになるのはご存じの通りです。作物も同じく、肥料を与えすぎると作物は病気がちになるのです。
 その理由をもう少し詳しく説明してみます。肥料は作物を成長させるのにとても役に立ちます。しかし、実際、化学肥料が撒かれた土のなかはどうなっているかということを考えなくてはなりません。
 化学肥料を撒くと、土のなかの土壌動物が逃げていきます。実際に窒素肥料をミミズにかけると、当たり前ですが、ミミズは嫌がって逃げていきます。逃げるだけならまだしも、量によってはミミズが息絶えてしまいます。土壌動物にとって化学肥料には猛毒のものが存在するのです。
 さらには土壌微生物も消えていきます。土壌動物が消えていくのとはちょっと理由が違います。栽培者が化学肥料を撒くと、その肥料分を他の草に奪われたくないという思いから、畑の草という草を取り払うことになります。そのため、雑草がない綺麗な畑になっていきます。
 土のなかの微生物は生き物ですから、当然食べものが必要です。それが、本来、草の根っこや枯れた草等です。作物の根っこ以外、草という草の根っこや落ち葉や枯草がなくなるので、微生物たちの餌が足りなくなります。食べもののないところに生物が棲むことはありません。そのため、微生物たちも立ち去っていってしまうのです。
 それだけではなく、もちろん化学農薬等が撒かれれば、土壌中の微生物も死滅します。特に消毒薬等はバクテリアを殺すためのものですから、当然、有用な微生物も死滅します。よく連作障害が起こるという理由で土を消毒しますが、そうした行為によって、当然微生物はどんどん減っていくわけです。
 土壌中の微生物というのは、人間の腸内細菌と同じだと考えてもらっていいでしょう。土壌から微生物がいなくなると、植物は土の栄養を使えなくなります。なぜなら、植物は土壌中の微生物、特に菌根菌(きんこんきん)という菌の力を借りて、土壌中の栄養を取り込んでいるからです。
 さらには、植物自体が保有する微生物の数も減っていきます。人間も腸内細菌が減れば免疫力が低下するのと同じように、植物も保有する微生物が減ると病気になります。この植物が保有する内生菌である微生物を「エンドファイト」と言います。
 エンドファイトは植物の体内で、植物を病気にする病原菌と戦ったり、虫に食われはじめると、虫が嫌う毒素を作り出して、防御したりします。葉や茎が虫に食われてしまえば、光合成をする力が弱まってきます。そして、栄養を運ぶ師管(しかん)や水を運ぶ道管が切断されて、栄養を根っこに回せなくなり、やがて枯れていきます。
 虫によっては病原菌、つまりバクテリアを媒介し、作物は疫病に罹ってしまいます。エンドファイトさえたくさん保有していれば守れたものを、エンドファイトの数が減ってしまった植物は、こうしてどんどん病気になっていきます。
 肥料には即効性があり、野菜を大きくします。しかしそれは細胞数を増やすのではなく、細胞を肥大化させる行為である場合が多いものです。細胞が肥大化すると、細胞壁が薄くなり、外部の異物、油分等がなかに入りやすくなります。たとえば草が生えないように敷く防草シートの接着剤等が水で流れ、植物の細胞のなかに入り込みます。そうなると、植物はどうしても弱くなるばかりか、味も落ちていきます。
 作物が吸収した肥料分のうち、窒素肥料は、植物の体内で硝酸態窒素として溜めこまれます。この硝酸態窒素は、植物が成長するために必ず必要なものですから、植物はできるだけ溜めこもうとしますが、この硝酸態窒素が溜まりすぎると、実は、作物は虫食いが激しくなります。その理由は次項で書きますが、虫食いが激しくなれば、先に書いたように病気になりやすくなりますし、作物自身が硝酸態窒素分を処理しきれず、通常よりも早く萎れていくことがあります。
 つまり、作物に肥料を与えすぎると不健康になるということなのです。

虫食いの原因は「過剰な肥料」

 栽培者の多くがそうだと思いますが、僕は、作物の虫食いの原因は何であろうかと常に考えて農業を行っています。そのために、虫に食われる野菜をそのまま放っておき、どのような状況になるのかをずっと観察していた時期があります。あるいは、虫食いがひどい野菜と虫食いがない野菜の両方の種取りをして、その両方の種を蒔いてみて、翌年どう差がつくのかを試したこともあります。
 虫食いに関しては、他にも色んなことを試したり観察したりしていましたが、ある結論に行き着きました。これは他の栽培者もよく言うことなのですが、畑に肥料を入れれば入れるほど、虫食いが激しくなっていくということです。この原因に関しては、僕だけではなく、多くの研究者が同じ結論を出しています。
 こういうことです。作物が土に施された肥料分の窒素を吸い込みます。それは成長に欠かせない栄養素のひとつが窒素だからです。この窒素分を植物が摂取すると、硝酸態窒素という形で作物のなかに溜めこまれます。実は、作物にとっていわゆる害虫と呼ばれている、作物を蝕む虫は、植物が溜めこんだ硝酸態窒素分が多ければ多いほど、その窒素めがけてやってきます。窒素肥料を与えれば与えるほど、野菜は虫食いの餌食になっていくのを僕も何度も経験しています。
 植物は飢餓状態を生き抜いてきた生物であることが多いと思います。そのため、土のなかに窒素等の栄養分が多いと、それをできるだけ体内に溜めこもうとします。植物は光合成によって炭水化物を作り出しますが、炭水化物を自分の細胞、つまりタンパク質に変えていくためには、窒素が必要です。そのために、いつでも細胞を作り成長できるように、窒素を硝酸態窒素という形で溜めこむわけです。
 この硝酸態窒素が溜まりすぎてくると問題が起きてきます。植物はその窒素を、空気中にガス化して放出することがあります。朝方に葉っぱに小さな水玉が付いていることがありますが、これを溢泌液(いっぴつえき)と言います。この溢泌液が蒸発してガス化すると、なかには窒素が含まれており、この窒素が放出されます。虫たちはこの放出された窒素を嗅ぎわけてやってくるのです。もちろん、作物中の硝酸態窒素にも寄ってくるようです。
 これは化学肥料に限ったことではありません。有機肥料等も同様です。要は窒素が多い土のなかで育つと作物は虫食いが激しくなります。この点、無肥料の場合は窒素が少なく、というよりも、存在する窒素が自然界の法則に従って適切であり、作物が窒素を持ちすぎることがありません。そのため、虫が寄り付きにくくなるわけです。
 ちなみに、植物が窒素を放出し、虫がやってくるのには深い理由があります。実は植物はわざわざ窒素を放出して虫を呼ぶことすらあるのです。この話は別なところで詳しく書きますので、ここでは省略しますが、そういう仕組みが出来上がっているために、肥料を与えすぎると、作物は虫食いが激しくなっていくわけです。
 しかも、硝酸態窒素が増えると、野菜は病気がちになりますこれは先に書いたように富栄養(ふえいよう)による悪影響です。富栄養になり肥満になり、かつ虫食いによって作物は力を失います。虫は疫病を媒介しますし、植物が持っている内生菌、エンドファイトが減っていく傾向にあります。この内生菌が減っていくと、作物は病気がちになるのです。
 さらに言うなら、硝酸態窒素が多くなると、作物中の糖度が低くなります。この糖度が味を決めるひとつの要因であるため、甘味が少なく、美味しくないと感じてしまいます。もっと言えば、硝酸態窒素は苦味やエグ味になるため、不味いという印象になります。
 美味しい野菜や穀物を作るなら、まずは肥料分をできるだけ与えないことが大切です。無肥料栽培という方法で野菜が育てば、窒素も適切な量になっていることが多いため、美味しい野菜を作ることができるようになります。硝酸態窒素だけでなく、リン酸やカリウム等も少なく、むしろそれらが適切な量になることで、土壌中のミネラルのバランスが整い、それが結果的に美味しい野菜を作り出していくわけです。
 虫食いの原因は、必ずしも肥料だけではありませんが、肥料を節度なく与え続ければ必ず虫食いや病気になります。虫食いや病気になれば、農薬が手放せなくなります。農薬と肥料はセットなのです。農薬を使いたくないのならば、まずは肥料を与えることを止めるのが一番手っ取り早い方法なのです。
※本稿は『野菜は小さい方を選びなさい』(岡本よりたか 著)より抜粋、一部編集を加えたものです

いかがでしたでしょうか? 岡本さんのお話は、まだ科学的に立証されていないこともあるかもしれません。でもひとつ言えることは、科学は事象を後追いして証明していくものだということ。岡本さんが実際に体験されてきて、こうした場合はこういうことが起きる傾向がある、と体験されたことは、事実のひとつであることに間違いありません。

これまでなんの疑問もなく刷り込まれていた【常識】を、今一度考えてみる価値がありそうです。

▽本書に関連する記事はこちらです

(Photo by 44 Degrees North on Unsplash)

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