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366日

思い出してしまう、遠い昔。
会いたいけど、もう会えない人。
もう会えないけれど会いたいなんて思ってしまう人。もし生きていたら、恋人なんかになってたりしたらどうだったのかな、、なんて淡い想いを抱いてしてしまう人。

私が彼と過ごしたのは、中学時代。
高校時代は別々の高校だったから会うことはなく。
お決まりみたいな、成人式に再会した。それも偶然に。

上京していた私は、地元に帰り成人式に出席。その後は、何も決まっていなかったのだけれど、友達に連れられて二次会をやっている居酒屋さんへ。そこへたまたま、彼も来ていた。

思い出してみると、少し驚いたようなそぶりだったかな。
その理由も後から考えたらわかる。

遅れてきて、あまり話はしなかったけれど、彼が「タバコ買いに行かない?」と誘ってくれた。他の人の分もお使いを頼まれて、「いいよ」と二人で店を出た。
お揃いのマルボロライト。何だか嬉しかったのを覚えている。

彼の車でちょっとしたドライブ。雪国の1月は真っ白だった。
ゆっくり運転、何事もなくコンビニで買い物を済まして、戻った。

帰りの時間になって、家まで送ってくれることになった。タクシーで帰ろうかと思っていたから助かった。他の子は、タクシーで帰った子もいた。

帰り道の途中、二人きりの車内で、不意に言われた。

「中学時代、好きだった」と。

「えっ?」と耳を疑った。
そんな事はありえない。彼はサッカー部のエースで人気者だったから。クラスの女子はみんな好きだったと思う。何も言えなくなっている私に、続けて言った。

「卒業するとき、告白しようかと思ったけれど、離れてしまうから、言わなかった」

そんなことって。。。
卒業式といえば、第二ボタン、的な儀式がまだあった時代。
彼の学ランは、ボタンは全部なくて、シャツもヨレヨレになっていたことを覚えていた。みんなにねだられて持っていかれたんだなと、思っていた。

彼は地元の高校へ、私は隣の市の高校へ電車通学、進路は決まっていた。だから会うことは、接点などなかったのだ。

「なんで?私なんか、全然目立たなかったし、」

「俺の中では、目立ってたよ」

その言葉が嬉しかった。ただ単純に、素直に。
見てくれていた人がいたこと。

私の中学時代は、勉強と部活に明け暮れていて、疲れ切っていた。
いっそのこと廃人になりたいと思うほど、心は荒んで、ただただ優等生を演じていた。
そんな私を、好きだったとは、、信じられない思いでいっぱいだった。

そういえば、一度、「メガネ似合うね」と言われたことがある。
学校の行事で外出した時に、普段はかけてないんだけれども、元々目が悪かったので、一瞬だけかけていたことがあった。ほんの一瞬。
地味で目立たない私は、誰にも見られる事はないから大丈夫だと思っていたのに、不意打ちをくらって、びっくりしたことがあった。そして、何でだろう?と不思議だった思い出。

そうか、見ていたのか。気にかけて見てくれていたのか。
謎が解けた。

気づいていなかった私、きっと、視線がそこにはあったのだなと。
何となく、想像できる気がした。

他に何を話したかあまり覚えていない、帰り道の短い時間。
ポツリポツリと何か話したような気がするけれど、それどころじゃなく心忙しない、一緒にいた時間。
何か言いたかったし、何かあげたかったけど、何も持ち合わせていなかった。

それから途中で彼のお友達を一人ピックアップして、家まで送ってもらった。

私は次の日には、東京へ帰らなければならなかったから、そこでお別れ。
ほのかなドキドキと嬉しさとでいっぱいのまま。

それが最後になるなんて、頭の片隅にも思わずに。


青天の霹靂。

そうとしか言えない事実だった。彼が亡くなったこと。
あの雪の日から半年後の夏休み、実家へ帰省して知らされた事実に、雷に打たれた気がした。信じられなくて、信じられなくて。

でも事実だった。
同級生たちに連絡して、確認して、やはり。。

友達のお父さんに連れていてもらって、一緒に彼のお家へお線香を上げに行った。
せめてもの想い。

なくなる少し前から、入院していたそうだ。
原因は不明。病院も?本人もご家族も、原因はわからなかったみたいだ。
なぜだろうか、あんなにもいい人が。

サッカー部の頃の遺影とマルボロライト。
彼が好きだったからと、飾られていた。


空虚な感じがした。
何が何だかわからなかったけれども、ぽっかりと、真っ白な空間に、そこにいない、と言う事実だけが漂っていた。
悲しみとか、無念とか、後悔とか、全て、時が止まったように。


・・・ひとつだけ、彼に伝えたいことがある。

「ごめんね、あの時、電話に出れなくて」

夏休みの少し前に、彼からの着信があった。夜遅くだったと思う。
私はその頃、残業も多く夜型の仕事だった。言い訳にしかならないけれども、折り返しするのをすっかり忘れてしまっていた。忙しさにかまけて。。。

悔やまれるあの時の自分。

何を言いたかったのだろうか。入院中だったのだろうか。原因もわからず不安だったのだろうか、、、

後悔しかない、今となっては。
その謎を解くことは、もうできない。

助けを求めていたかもしれない、差し伸べられたその手を受け取ることができなかった。
今となっては後悔しかないけれど、彼はどう思っただろうと思うと、とてもやりきれない。。不甲斐ない。

もしも願いが叶うならば、あの世であなたに会いたい。夢でもいい。
そして、ごめんと謝って、あの時聞けなかったあなたの話を聞きたい。

366日でも足りないくらい、あなたに会いたくなりました。
突然終わってしまった物語は、今もそのままそこにあるようで。

さよなら、好きだった人。
またいつか、会える日まで。



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