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【WHY NOW?#2】なぜ今「NIKE AIR JORDAN(エア・ジョーダン)」なのか?

様々なカルチャーにおいて、リバイバルは必ず起きる。
体験世代には「懐かしい」、未体験世代には「新しい」、そんな「ノスタルジックカルチャー」を考えてみる。

今回は、1985年販売から復刻を繰り返し、現在に至るまで、圧倒的な人気のバスケットシューズ「NIKE AIR JORDAN(ナイキ エア・ジョーダン)」

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スニーカーブームの再熱によって、高倍率の抽選販売やプレミアム価格での高額転売やハイブランドとのコラボレーションなど話題は尽きない。

Theme:「NIKE AIR JORDAN(ナイキ エア・ジョーダン)」

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NBAのレジェンド、マイケル・ジョーダンのシグニチャーモデルとして誕生したのが「AIR JORDAN」(以下AJ)。

鳴物入りでシカゴ・ブルズに入団したマイケル・ジョーダンのためにNIKEが開発。そして初代「AJ 1」が1985年に登場。それ以降、マイケル・ジョーダンの足元を支えた。彼がNBAを引退した後もシリーズを重ね、現在「AJ35」までリリースしており。30年以上愛される、スニーカー史上最もアイコニックなスニーカーの一つとなった。

マイケル・ジョーダンは『Greatest of All Time=史上最高のプレイヤー』として、バスケットボールという枠を超えて数々の伝説を残した。

彼が伝説を起こす場面では常に「AJ」の姿があり、ジョーダンが活躍すると共に「AJ」の存在価値も飛躍した。

まず、ジョーダンと歩んできた、「AJ」のバックストーリーが面白い。

*HISTORY of 1985:AIR JORDAN 1(Banned)

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デザイナーのピーター・ムーアはアディダスUS支社創設者。当時のNIKEはランニングシューズブランドとして有名であったが、バスケットボールシューズマーケットでのシェア拡大を狙っていた。

その頃、ルーキーであったジョーダンと新人にしては破格の『年間50万ドル(約5000万円)』で契約。(契約内容には『1試合平均20得点』『オールスターゲーム出場』『新人王獲得』などの条件も織り込まれていた。そしてジョーダンはその条件を全てクリアした。)

ジョーダンが公式戦で初めて着用したのが、シカゴ・ブルズのチームカラーである「レッド×ブラック(Bred)」の配色のAJ1。彼自身がこのデザインを見た時「まるで悪魔の履く靴だ」というエピソードもある。

当時、NBAのユニフォーム規定である「白の面積が80%以上あるシューズの使用」に反していたため、NBAはジョーダンに対し、「規則に違反した場合、1試合につき5000ドル(約50万円)の罰金を徴収する」と警告。しかし、その罰金をNIKEが肩代わりし、ジョーダンはAJ1を履いてプレーし続けた。(「レッド×ブラック」の配色のAJは「Banned(禁じられた)」とも呼ばれる。

そして、NIKEはこの禁止ルールを逆手に取り、「革新性」「反骨精神」などのメッセージ性の高いCMで世間にアピールした。

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「10月15日、ナイキは画期的なバッシュを開発した。10月18日、NBAはこれを試合から追放した。だがNBAは君たちがこのシューズを履くことを禁止できない」

このキャンペーンやマーケティング戦略が成功し、1985年3月に発売された「AJ1」(価格65ドル)は、わずか3ヶ月で7000万ドル(約70億円)を売り上げる大ヒット商品となった。

※実際には禁止されたのは別のスニーカーだった、NIKEはNBAに賠償金は払っていないなど、諸説あります。https://stockx.com/news/what-are-banned-jordans-ja-jp/

シューズの問題ではなかったにせよ、禁じられたジョーダンの誤った逸話を通じて培われた反骨精神は本物でした。それは何世代にもわたって軽んじられていたファン層に、これまでないも同然だった成功への道筋を示してくれる、尊敬すべき対象を与えてくれました。ジョーダンがシュートを決めるたびに、黒人が優秀で社会の一員として白人のビジネスマンに引けを取らないことが裏づけられ、人種差別の歴史を持つ国において、本物の平等が築ける余地があることを示してくれました。そうして、ジョーダンの逸話に込められたメッセージは、巧妙なマーケティングストーリーなどより、広く深い共感を呼ぶこととなりました。

2020年にはジョーダン本人が現役時代に使用したAJ1がサザビーズのオークションにて56万ドル(約6000万円)でスニーカーとして過去最高額の落札となった。

HISTORY of 1988:AIR JORDAN 3(Jumpman)

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1988年に誕生したAJ3は、天才デザイナー:ティンカーハットフィールドが手掛けた傑作。(ティンカーはエアマックスのデザイナーでもある。)「ジャンプマンロゴ」「エレファント柄」「ビジブルエアー(透明の窓からエアーを可視化した)」「セメント柄」が採用されたのもこのモデルから。

当時、契約更新を渋っていたジョーダンに、革新的なデザインとプレゼンテーションで契約更新にこぎつけた。ジョーダンはAJ3で1988年ダンクコンテストに逆転優勝。フリースローラインからのダンクシュートを叩き込んだ足元にはAJ3が。

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HISTORY of 1989:AIR JORDAN 4(The Shot)

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1989年に登場したAJ4。TPUやメッシュ素材を採用した当時の最新技術を詰め込んだスニーカーとして、AJの人気を不動にした名作。

1989年のNBA PLAYOFF イースタンカンファレンスで、クリーブランド・キャバリアーズとの5戦目(2勝2杯)、残り3秒、99-100で1点差で負けている状況のシカゴ・ブルズ。試合終了間際。

その時、NBAの伝説に残るショット「The Shot」が生まれる。ラストワンショットをファウルラインで放ち見事に決め、シカゴ・ブルズはプレイオフシリーズに勝利した。これは約30年前の出来事だが今も「バスケ史において最も象徴的なショット」などと語り継がれている。

まさに他のプレーヤーと比べることができない、神様のプレー。脚本があるかのような完璧なドラマ。敗れれば敗退が決まっていた一戦での逆転ブザービーターにジョーダンの(神々しい)土壇場の強さが記憶に刻まれた。「The Shot」を決め、勝利を掴んだジョーダンの足元にはAJ4の姿がある。

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HISTORY of 1990:AIR JORDAN 5(IS IT THE SHOES?

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1990年に発売されたAJ5は引き続きティンカーハットフィールドが手がけた名作。スピード感溢れるジョーダンのプレイを見て戦闘機「ムスタング」をモチーフとして選んだ。またサメの歯を思わせるようなデザインも採用している。当時スパイク・リーが共演したCMのキャッチコピーは「IS IT THE SHOES?」(これはシューズか?)だった。

このレギュラーシーズンにジョーダンは1試合最多得点(69点)を記録。同年のALL STARにも出場した。

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AJ5は大ヒットし、購入を巡って喧嘩が起こり、一人が射殺されるまでに至った。皮肉にもこの事件が、ジョーダンとAJの人気をさらに世間に知らしめることになった。AJ5は度々「米国では殺人事件が起きるほどの人気スニーカー」という触れ込みで紹介され、日本でもAJシリーズへの注目度は急速に高まった。

ターミネーター2でジョン・コナーが履いてたのもAJ5だったっけ。

HISTORY of 1992:AIR JORDAN 7(Dream Team

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1992年バルセロナオリンピック、NBAチャンピオン(2連覇)、FINAL MVPとジョーダンの足元を支えたスニーカー。デザインは引き続きティンカーハットフィールド。特にオリンピックでジョーダンを筆頭とするNBAのスター選手で構成されたDream Teamが金メダルを獲得し話題となった。

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HISTORY of 1995:AIR JORDAN 11(3-Peat/SPACE JAM

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1995年に発売されたAJ11は初めてナイロンとエナメルを採用したバスケットシューズ。ジョーダンがフォーマルな雰囲気のデザインを希望したため高級感の溢れるデザインとなり、エアマックス95と並び、日本でのスニーカーブームの火付け役となった。

シカゴ・ブルズの3連覇を果たすファーストシーズンに使われたスニーカーとして有名。また、1996年にジョーダン主演の映画『スペースジャム』でも着用されており、着用モデルの復刻版もリリースしている。

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Generation:30代後半〜40代(2021年時点)

当時、ジョーダンの活躍を知る世代、また1990年からのスニーカーブームを知る世代として、現在30代後半〜40代の世代だろうと考えます。

当時、高額なAJやAir Maxをはじめとするスニーカーを手に入れることができなかった世代の方々が、現在社会人となり、ある程度の金額を支払えるようになり、「憧れのスニーカー」が手に届くようになった、また昔持っていたスニーカーの復刻があり、今一度手に入れたいという(ノスタルジックな)モチベーションでスニーカーにハマりだす現象がこの世代で起こっているのではないかと。

C2C Market :Stock X/モノカブ/メルカリ/スニーカーダンク

近年、C2Cでのスニーカー売買が流行となっています。米Stock Xは「リアルタイムプライシング」で、もはや「株」に近い価格変動がスニーカーマーケットで行われています。希少価値のあるスニーカーなどは高額(プレミアム価格)で取引されます。以下の記事でモノカブのユーザー層について、本ライターはこのように言及しています。

サービスを運営する中で一つ、興味深い数字に出会いました。それが利用ユーザーの4分の1を占める「40代」ユーザーの存在です。若い10代、20代の世代はもちろん、この大人世代が加わることで、この市場にある動きが生まれているからです。
メルカリの誕生で10代,20代の人はものを売るといったことが当たり前になってきました。スニーカーというのは不思議なもので相場という概念があり、その時々により値段が変動しています。「この商品は将来的に上がると考え、資産運用のように長期で保有する」といった議論がスニーカー好きの若者たちの中で当たり前のようにされているのです。その考え方はまさに株式投資に近いもので、今の10代から20代はメルカリでビジネスを覚え、今度はモノカブである種の金融に自然と取り組んでいるのではないかなと感じています。

スニーカーを自ら履くことなく転売による利益を求めてマーケットに参加する人たちもいます。=転売ヤー(転売屋+バイヤー)。

彼らはスニーカーの販売情報を収集し、希少なスニーカー、粗利が出そうなスニーカーをハンティングします。スニーカー購入の競争率が上がるので自然とプレミアム価格もつきやすくなります。

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スニーカー熱は、一時流通だけでなく二次流通も巻き込んで膨らんでいる。アメリカの投資機関・コーウェンエクイティリサーチ社の2020年7月の発表によると、世界のスニーカー転売市場は前年比20%以上の成長を遂げ、20億ドル(約2100億円)を超えたという。その成長を支えるのが、販売元のオンラインシフトだ。

SNS: Instagram/Youtube

SNSはもはや若者だけのものではなく、30-40の世代でも当たり前のように利用されています。希少価値のあるスニーカー、プレミアムなスニーカー、コレクションなど、自分のフォロワーだけでなく、スニーカーフリークのコミュニティーなどに向けて投稿します。特に画像中心のInstagram/Youtubeはその様子が顕著にみられます。

AJだけのアカウントも存在し、フォロワーも20万人を超える。

また、2021/1時点での「AJ」に関するハッシュタグは以下の通り。
どれほど多くの人がAJに関する投稿をしているかわかる。

#airjordan 852.8万件
#airjordan1 164.9万件
#エアジョーダン 18.8万件

昔は雑誌などで入手していた情報もSNSで格段に入手しやすくなりました。いつどこで販売するのか、どのように入手するのかなど発売日のだいぶ前から情報を収集することができます。また情報をまとめているSNSアカウントも人気です。

有名人の情報も入手しやすくなりました。国内・国外の有名人がAJを着用する写真などをみて、購買欲求も刺激されると思います。これは30-40代だけでなく、もっと若い世代にも影響が大きそうです。
・スニーカー芸人

・海外セレブ

Youtubeでもスニーカー関連の情報番組やYotuberによる最新スニーカー情報のチャンネルが複数存在し、常に最新の情報を収集できる。

Fashion :アスレジャー/脱スーツ/厚底

30-40代のほとんどが社会人。まだスーツでの出社が中心ですが、スタートアップやIT企業を中心にノームコアアスレジャーなどスーツを着ないスタイルの会社も増えています。

スーツからシャツやトレーナー、革靴からスニーカーへとシフトするビジネスパーソンも少なくない。もともと身だしなみの中でスーツや革靴にかけていた金額をスニーカーのプレミアム地で置き換えても、高く感じないのではないでしょうか。また比較的に30-40代はファッションに費やす余剰金も増えてきており、購買力もある層と考えます。

若年層の女性にも人気の理由としてバスケットシューズは他のスニーカーと比べ、ボリュームがあり、厚底の効果として足が長く見える、スタイルがよく見えるなどの効果もあるようです。近年、ぼてっとしたダッドスニーカーが流行しているのもその理由があるのかもしれません。また、ボーイッシュでスポーティーなスタイルは青文字系のファッション誌だけでなく赤文字系でも取り上げられるトピックのようです。

また、汎用性の高いデザインで、アメカジやフォーマルなど様々なシーンで合わせやすいところも受け入れられやすいポイントだと思います。

Collaboration:Off White/Dior

常に話題があれば、ブランドも寿命も伸びて、プロダクトライフサイクルも長く続く。「AJ」はあらゆるコラボレーションによって、「懐かしさ」を「新しさ」に変えてきた。

その中でも天才デザイナー、ヴァージル・アブローが手がけるブランドOff-Whiteとの「The 10」。

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また、Diorとのコラボレーションしプレミアム価格が100万円以上する「Dior Air Jordan」はそのデザインや企画性が話題となった。

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様々なコラボレーションによって、ブランドを風化させるどころか、全く新しいレベルへ昇華させた。ハイブランドにも参入したAJのさらに新しい世代を巻き込んだだろう。

Media: Netflix

Netflixは多くの世代が視聴している。Netflixのオリジナルコンテンツの中でもジョーダンやAJ関連の作品が見られる。

2020年にNetflixで、マイケル・ジョーダンとシカゴ・ブルズの最後の1年を追ったドキュメンタリーシリーズ『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』(原題『The Last Dance』)。第1話・第2話の平均視聴回数は、なんと610万人。SNSでも多くの反響があった。

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第1話および第2話の平均視聴者は610万人。そのうち、350万人が18~49歳。21時から22時に放送された第1話は平均視聴者630万人、22時から23時放送の第2話は580万人。ESPN単独の2時間の平均視聴者は530万人。第1話が560万人、第2話が500万人だった。また、ソーシャルメディアでも話題を独占。ツイッターのトレンド1位、Googleトレンドでも1位に立っている。フェイスブック、インスタグラム、ツイッターでは、ESPNからの『マイケル・ジョーダン: ラストダンス』関連投稿が合計で900万件のエンゲージメントを記録した。

また、『Abstract 〜Art of Design〜(アートオブデザイン)』という作品では、AJのデザイナー、ティンカー・ハットフィールドのデザインにおけるエピソードを見ることができる。

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スニーカーマニアをテーマにしたドラマ『Sneaker Heads(俺たちスニーカーヘッズ)』では、作品では、元スニーカーマニアの主人公デヴィンが旧友ボビーの儲け話に乗ったことで失った大金を取り戻すため、"幻の逸品"を探して世界を駆け回る様子を描いている。

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このように世代を超えて楽しまれる、Netflixの作品にも「AJ」が登場し、ブランドをアップデートしているように思える。若い世代には新しい世界にも見えるだろう。

Character Content:SLAM DUNK/Spiderman

ジョーダン世代の中に、重ねてスラムダンクの世代もいるのでは?
スラムダンクの連載は1990-1996なので、空前のスニーカーブームの時期と重なる。スラムダンクの登場人物は実際にあるスニーカーを履いており、「AJ」も桜木花道(AJ1)や流川楓(AJ5)の足元に登場する。(そもそもブルズ色が強い。)

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また、マーベルの映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のマイルス・モラレスの足元にもAJ1が。実際に商品化もされており、クロスメディアでのアプローチとなった。

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WHY NOW?:なぜ今なのか?

・ジョーダン世代
ジョーダン世代には、復刻された「AJ」が発売されるたびに、「懐かしいさ」「昔買えなかった憧れ」などが想起され、この現在、手に入れる喜びは大きいに違いない。ただのファッションアイテム(コレクションアイテム)ではなく、ストーリー性もある「AJ」。現在、仕事や生活の最前線で戦うジョーダン世代は「AJ」を履くことによって当時のマイケル・ジョーダンのような土壇場での強さを憑依させてくれる不思議なアイテムだと思う。

・未経験世代
インターネットの普及によって、SNSや動画配信サービスなどで、芸能人(セレブ)やファショニスタ、または「物語の登場人物」が身につけている「AJ」は「プレミアム」で「ちょっと大人」なアイテムという印象ではないでしょうか。30年前からシリーズがあると信じられないくらいの洗練されたデザインなので、今の未体験世代にとってもファッションアイテムとして取り入れやすいかもしれません。

ジョーダン世代が頑張っているこの時代に「懐かしく新しい」、「NIKE AIR JORDAN(ナイキ エア・ジョーダン)」は、必要とされているアイテムではないでしょうか。

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