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秋の終わりに、一人で歩く大学生。
秋の最後には雨が降る。誰が言ったわけでもないが、案外金言ではないだろうかと一人で少し嬉しくなりながら、夜の帰り道を一人歩く。
人に喋りたい時に限って周りに人がいないもどかしさを感じていたら、手先はいつの間にかキンと冷えていた。マフラーが欲しい、ちょっと良いやつ。カシミヤのマフラー、響きが高級。あれ、カシミヤってなんだろう。ポッケにあるgoogleを開いてわざわざ調べることでもないよね。そう思いながら中学生の頃から使い続けてきたぼろぼろのマフラーが家にあることを思い出した。
電気ストーブではなく、ガスストーブ。毎週金曜日に当番の生徒がオイルを取りに行く。それをガスストーブに注ぎ入れる。最初と最後にポンプの口から一滴、二滴と落ちたオイルは教室の木の床板を光らせた。
男子はここぞとばかりにそのオイルを上靴につけると、スケート選手のようにそこら中を滑りまわる。叱られる。だけど懲りない。こぼれたオイルから生まれるイタチごっこ、飛び交う歓声と怒号。
隣の女の子と交換した答案を丸付けしていたら、赤ペンが途中でかすれた。あと5問ぐらいは持ってくれと筆圧を上げて〇を付けるも、あっさりとインクは底を尽きた。残りの3問はあってるよと伝えて、女の子がつけた〇は反時計回り。左利きだと気づけたある日の午後、数学の授業のこと。
冬が来た。
面倒なことは果たして無意味なことでしょうか。
こぼれたオイルは拭き取らないで、かすれたインクはそのままで。
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