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    • 闇はあやなし

       夜、仕事の帰りにK駅の改札を出たところでハル君に出会う。コンビニでお酒と煙草を買って公園で花見をすることにした。わたしたちはなだらかな斜面に植わった一本の桜の木の下に落ち着くことにした。コンビニのビニール袋をお尻の下に敷いて、根っこのところに座った。 「びっくりした。ひさしぶりだね、いつぶりかなあ。っていうか髪の毛伸びすぎじゃない?目立ってた」 「どこまで伸ばせるか試してる。アコちゃんって夢かと思ってた」  思い出と夢はよく似ているから、時々間違えるんだ、とハル君は笑った

      • メモ

        気が付くと大丈夫になっていた。二の腕を切らなくなった。ストロングゼロにストローをさして飲まなくなった。誰とでも寝なくなった。ピアスを開けなくなった。ちゃんとおなかがすくようになった。ODをしなくなった。というか薬を飲まなくなった。泣かなくなった。内面について深く考えなくなった。内面について深く考えたことを言語化することをしなくなった。年をとって丸くなったのだと、わたしもまわりも思っている。ふんわりと過ぎていく日々を見送って、ゆるやかにけれども確かに一歩ずつ、死に近づいてゆく

        • メモ

          いっそ、心中してしまおうか。 新宿駅西口改札の前、大量の紙袋を投げ出し、きれいな洋服をしわくちゃにしてみっともなく座り込んだ女の頭上に、男は声を落とした。男は泣きそうな顔で笑っていた。

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        記事

          2022年ベストバイ

          毎月ベストバイをひとつ選んでツイッターにつぶやいていたのが、とうとう1年分たまったので、noteにまとめることにしました 1月 ガラス製ティーポット 熱いほうじ茶を簡単に淹れたいと思って購入。透明なところがお気に入り。紅茶もいれられるし、茶こしをはずしてアイスコーヒーを入れておいたりもしてる 2月 ミルクパン ココア、抹茶オレ、カフェラテ用の牛乳をあたためたり、ジャムを作ったりもした。今年バージョンで深緑色が出ていて、それもかわいかったなあ 3月 グローバルの三徳包

          2022年ベストバイ

          空腹

          アッと思った時にはもう、血が出ていた。 かみそりで膝下の毛を剃っていたところ、かみそり負けをしてしまった。 冬だし、誰かに肌を見せる予定もないし、最近まったく気にかけていなかった、ムダ毛処理をしようなんて急に思い立ってやるんじゃなかった。 手の甲を見るたびに傷が増えている気がする。 乾燥。あかぎれ。ささくれ。手荒れ。 この間、初めてネイルサロンに行って、形を整えてもらうのと、甘皮のケアをしてもらった。 一緒に行った友達はジェルネイルをしてもらった。 炭酸水にグレナデンシロ

          あなたのこと好きだったの

          LINEの友達欄をばーっと見ていたら、ウェディングドレスの後ろ姿が目に入った。 わたしが高校生の時に初めてちゃんと組んだバンドのメンバーだった。 わたしはベースを弾き、彼女はボーカルをしていた。 ライブ中に、右側から見る彼女の横顔は今でも思い出せる。 ウルフカットで、基本は黒髪を、時に銀色や青緑色にしているのがとても似合っていた。 ライブ以外は化粧気がまったくなく、たまに制服で会ったときのスカートの似合わなささが笑えた。 NANAに出ていた中島美嘉みたいな、それはちょっと

          あなたのこと好きだったの

          花の上

          意識が飛ぶようになってきた。 飛ぶというか飛ばせるというか、あ、いまわたしここにいないな、と。 覚えてるような覚えていないような切り傷に気がつく。 シャワーを浴びて、傷にしみて、初めて、痛い。 そろそろだと思う。 2021.12.17

          「普通」になれると思って行動した結果、後悔していること

          行動経済学によると、人間は、 やって後悔するより、やらないで後悔する方が大きいという。 空腹を満たすための自炊・食事じゃなくて、お金と時間にとらわれないでその時食べたいものを作りたい。当たり前だからといって大してお腹が空いてないのに一日3食とるより、お腹が空いた時に食べたいものを好きなだけ食べたい。 誰かと暮らすということはお互いの生活リズムをすり合わせる必要があるけれど、概して「一般的」「普通」の側に取り込まれがちなので、わたしの望む先の生活を送るのは難しい。 朝はヨ

          「普通」になれると思って行動した結果、後悔していること

          腕時計

          仕事でも遊びでも、外へ出かけるときは必ず、腕時計を左腕につける。 12歳、中学入学の記念に祖父母に買ってもらった。文字盤が白蝶貝で、角度によって緑、青、薄ピンクに見えるところが気に入ったのを覚えている。 毎日身につけていて、家に帰ると同じ場所に置いていたのに、一度なくしたことがあった。 大騒ぎをした。鞄をひっくり返したり、あらゆる引き出しを開けたり、家中を探し回った。それでも見つからなくて、親に当たったりもした。 結局、弟が訳あって、無断で持って使っていた。わたしはひどく弟

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          近所の焼肉屋さんの突き出し

          わたしのneverland dinerは、小学生まで住んでいたマンションから歩いて5分ほどのところにあった焼肉屋さんで、突き出しとして出てきた「にくこん」。細く切ったこんにゃくと蓮根と、おそらく焼肉用にならない肉の切れ端を甘辛く炊いたもの。途中で突き出しではなく単品になったが、それからも必ず家族でひとり一鉢頼むくらい好きだった。 その焼肉屋さんは、おじいちゃんとおばあちゃん、息子さんとお嫁さん、時々小学生の男の子で切り盛りしている家族経営のお店だった。 家から近く、小さい子

          近所の焼肉屋さんの突き出し

          パンの話

          いつもより、ほんの少しはやく家を出た。 仕事場の近くにあるパン屋に行ってみようと決めていた。 スーパーの角にあるパン屋とか、駅ビルの中に入っているチェーンのパン屋ではなくて、路面店の、町のパン屋。 駅から仕事場とは違う方向に歩いた。 初めての道だった。事前にスマホで地図を確認していたけれど、まっすぐの道はなかなか距離があって、道が合っているのか不安になった。 途中、お豆腐屋さんがあった。そば屋もあった。 とんかつ屋の向かいにパン屋があった。 前を歩いていた女性もそのパン屋

          パンの話

          十七歳

          夜中に壁に背中をくっつけて勉強するのが好きで、美容院には行かずに自分で髪の毛を切っていて、学校帰りにバスに乗ってスタジオに通っていて、土日には本屋に自転車で行って立ち読みをして過ごして、そしてわたしは十七歳だった。 そのような記憶は確かにあるのに、目の前にいる子どもたちとわたしはまったく別の生き物だと思う。 ここに、わたしがいないことを奇妙に思う。 2021.01.15

          十七歳

          人間三衰

           五時に目が覚めた。そして、こんなに早い時間に起きる必要はなかったと思い、ふたたび眠りにつこうと布団をかぶった。前の勤務先―四年間勤めたーに通っていたときは、場所の都合上、朝五時に起きなければいけなかったので、仕事が変わった今でも時々その時間に目が覚めることがある。    わたしは幼いころから早起きが苦手だった。というか、今までの人生、睡眠に関わるあらゆることが苦手だったのかもしれない。起きてしばらくは目は三分の一しか開かないし、うんかううんしか言えないし、とても機嫌が悪い。

          人間三衰

          雑記

          ベビーキャメルの大判ストール たっぷり生地を使ったベルテッドワンピース ベロアのストラップシューズ オールドセリーヌのトートバッグ パンラズナとバニラと世界一美しい猫の写真集 栞がわりのイチョウの葉 そろそろわたしが新しくなる、気がする 薬のせいでエメンタールチーズみたいに穴がぽこぽこ開いた記憶力で、それでもまだ覚えていることが本当に大切なこと? いなくなった人たち、忘れてしまった出来事、感情とか、どこに行っちゃったの お酒を飲んで、煙草を喫んで 甘えられるのが好きだと

          夜の中では何もかもが可能になるように思えた

          「もしも今、私たちのやっていることを本物の恋だと誰かが保証してくれたら、私は安堵のあまりその人の足元にひざまずくだろう。そしてもしもそうでなければ、これが過ぎていってしまうことならば私はずっと今のまま眠りたいので、彼のベルをわからなくしてほしい。私を今すぐひとりにしてほしい。」 白河夜船……何もわからないほどぐっすりと眠ること 寺子はどんどん深くなる眠り、埋められない淋しさ、ぬけ出せない息苦しさから、夜に支配されていく。 亡くなった親友のしおりは、添い寝屋をやっていた。

          夜の中では何もかもが可能になるように思えた