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近所の焼肉屋さんの突き出し

わたしのneverland dinerは、小学生まで住んでいたマンションから歩いて5分ほどのところにあった焼肉屋さんで、突き出しとして出てきた「にくこん」。細く切ったこんにゃくと蓮根と、おそらく焼肉用にならない肉の切れ端を甘辛く炊いたもの。途中で突き出しではなく単品になったが、それからも必ず家族でひとり一鉢頼むくらい好きだった。

その焼肉屋さんは、おじいちゃんとおばあちゃん、息子さんとお嫁さん、時々小学生の男の子で切り盛りしている家族経営のお店だった。
家から近く、小さい子が多少騒いでも大丈夫で、当時月に一度は行けていたくらいだから、今思えばそんなに値段もしなかったんだろうと思う。
だからお店の人とは顔見知りで、予約してお店に入って、席に着くなり頼んでもない「にくこん」が一鉢ずつ置かれた。それを食べながら、いつものセットにしよう、ウインナーも食べたい、ホルモン足りる?タレは甘いのじゃなきゃやだ、アンパンマンアイス食べたい、そんな会話があった気がする。

一度、母親がお嫁さんに「にくこん」の作り方を聞いた。想像していた通りの味付けで、なんら難しいことはされていなかった。
母は何度かチャレンジしてくれたけれど、どうしても同じ味にならず、また焼肉屋さんに通うのだった。

わたしたち家族はわたしが中学の時に引っ越しをした。少し遠くなってしまった焼肉屋さんに行く回数が明らかに減っていった。
そうこうしているうちに、焼肉屋さんの閉店が決まった。主な理由は、おじいさんとおばあさんの年齢と体調面であった。頭にタオルを巻いて肉を切るおじいさん、野菜やサイドメニューを用意するおばあさん、父母と同じくらいの年齢の息子さんとお嫁さんが提供をしていた。その、ちょうどいい分担がまわらなくなってしまったんだろう。

最後の日、わたしたち家族は焼肉屋さんを訪れた。席に着くと、いつものように「にくこん」が一鉢ずつ置かれた。


この焼肉屋さんの閉店後しばらくして見に行くと、カジュアルなフレンチレストランになっていた。
焼肉屋さんに住んでいるような家族だった。あの家族はどこに行ってしまったのだろう。


2021.04.14

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