腕時計

仕事でも遊びでも、外へ出かけるときは必ず、腕時計を左腕につける。
12歳、中学入学の記念に祖父母に買ってもらった。文字盤が白蝶貝で、角度によって緑、青、薄ピンクに見えるところが気に入ったのを覚えている。

毎日身につけていて、家に帰ると同じ場所に置いていたのに、一度なくしたことがあった。
大騒ぎをした。鞄をひっくり返したり、あらゆる引き出しを開けたり、家中を探し回った。それでも見つからなくて、親に当たったりもした。
結局、弟が訳あって、無断で持って使っていた。わたしはひどく弟をなじった。

中学一年生のとき、バスで通学していた。
左手でつり革をつかむと、腕時計がするすると肘のほうまでおりてきた。
これから成長すると思って、余裕を持ってベルト調整をしていたので、その頃のわたしの腕にはまだ大きかった。

学校のチャイムにぴったり合わせるために、12時の位置で秒針を止めておいて、チャイムが鳴ると同時にリューズを押し込むということを何度もやった。

自分が学生で試験を受けていた時、よくやっていたことが、腕時計を机において、置き時計のようにすることだった。
ちらちら壁時計を見ていてカンニングや不審な動きだと思われたら嫌だと思ったから。
腕時計を左腕から外して、これは説明が難しい、机の上に腕時計を置く、ベルトをうまいこと台にして文字盤を傾けて見やすいようにした。

今日は試験監督をした。
チャイムが鳴らないので黒板にタイマーを貼ってそれで試験時間をはかるのだけれど、そうするとわたしの背になってタイマーの時間がわからない。
いちいち振り返るのは面倒なので、腕時計の時間とそろえた。
試験を受けさせる側になっても、学生の時と同じことをしているのがおもしろくて、懐かしくなった。

ソーラー電池で、生活防水で、細かい傷はたくさんあるけれど、一度も修理に出すようなことにはなっていない。
時々、本当に時々、気が向いた時に、溝に詰まった汚れを掃除する。
ほかに腕時計は持っていないし、仲の良い人はわたしにプレゼントとして腕時計を贈らない。
人生の半分以上をこの腕時計と過ごしている。
まだまだ一緒にいたいと思う。


2021.06.30


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