あなたのこと好きだったの

LINEの友達欄をばーっと見ていたら、ウェディングドレスの後ろ姿が目に入った。
わたしが高校生の時に初めてちゃんと組んだバンドのメンバーだった。

わたしはベースを弾き、彼女はボーカルをしていた。
ライブ中に、右側から見る彼女の横顔は今でも思い出せる。

ウルフカットで、基本は黒髪を、時に銀色や青緑色にしているのがとても似合っていた。
ライブ以外は化粧気がまったくなく、たまに制服で会ったときのスカートの似合わなささが笑えた。
NANAに出ていた中島美嘉みたいな、それはちょっと美化し過ぎた。
ハスキーな声で、よく男の子と間違われていた。
彼女は自分のことを、GID、つまり性同一性障害だと言っていた。
そしてわたしは、彼女のことが恋愛的な意味で好きだった。

わたし以外のバンドメンバーは歳は二つ上で、彼女たちが高校を卒業すると同時にバンドは解散した。
彼女は県外の大学に進学した後、東京で就職をした。
わたしは高校を卒業後、東京の大学に進学した。

数年前に東京で、バンドが解散したぶりに彼女に会った。
黒かったり銀色だったりして短かった髪の毛は、茶色の染められ、肩まで伸びて、軽く巻かれていた。
化粧ってむずいよな、めんどいよな、と言いながらドラッグストアでマスカラを物色していた。
シルバーのごついピアスの代わりに、華奢な揺れるピアスをしていた。

そして、彼女は結婚した、もちろん男の人と。
性同一性障害が、思春期の思い込みであることはままあることだ。
わたしはあなたのことが好きだった。
女の体を嫌い、男の身なりを真似して、自分の心と体のズレに抗うあなたの強さが好きだった。
当時は関係が壊れるのが怖くて伝えられなかったし、今更あの時好きだったの、なんてつまんないこと言うつもりもない。

フェイスブックでは前から撮った写真も載っていた。
ウェディングドレスを着た彼女は、とても綺麗だった。
投稿にいいね、を押してフェイスブックを閉じた。
もう彼女とは二度と会うことはないし、連絡も取らないと思う。
ただ、幸せになってほしいと願う。
さようなら、わたしの片思い。
さようなら、わたしの好きだった女の子。



2021.12.17

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