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酵素のいろいろ

体の中の化学反応の手助けをしている酵素ですが、役割に応じて体の特定の場所にかたまって存在しています。有名なところで、食べ物の分解に関わる消化酵素は、胃や十二指腸や小腸にたくさん分布しています。私たちの体の中の酵素の使い手といえば、やはり肝臓でしょうか?体の中に入ってきた毒を分解したり、血液中のブドウ糖をとりこんで蓄積したり、体温を上げるために熱を作ったりetc.「ヒトの体の中でxxxの働きをする器官を答えよ」という問題が出された時に、どうしてもわからなければ、「肝臓」と答えたらなんとかなるくらい、肝臓の細胞は万能です。肝臓というわけではないのですが、有名な酵素の働きを調べる実験があるので、興味のある方は試してみてください。

酵素あるある

実は、大学受験において、”酵素が関係する問題ではお馴染み”という答え(出題?)があります。具体例を2つほど紹介します。

1:細胞小器官の種類を調べるために、4℃に保ったホモジナイザーの中で細胞を破砕した。なぜ、4℃に保つのか答えよ。
2:PCR法でDNAを増幅する。この時の試薬の取り扱いで留意すべき点を理由とともに答えよ。

1の答えは、「細胞を破砕した時に、細胞内にあるリソソームの膜が一緒に破られ、中にある酵素(加水分解酵素)によって他の細胞小器官を分解してしまう。低温にすることで、この酵素のはたらきを抑えるため。
2の答えは、「酵素を低温で保管する」です。

触媒である酵素は、存在するだけで化学反応を進めてしまいます。そのため、酵素がもっともよく働く室温で保管・実験を行うと、周りの物質を勝手に分解してしまったり、酵素どうしが分解しあったりしてしまいます。高温にすれば、失活させられるので働きをおさえられるのですが、生物の実験で高温にすると酵素以外のものもダメになりますし、酵素が働きを失ってしまうので次の実験ができなくなってしまいます。そのため、低温にして酵素の働きをおさえて酵素を管理をするのが常識になっています。「酵素といえば低温」というのを覚えておいてください。

ミトコンドリアの話をもう一度

細胞内でも酵素の分布に偏りがあります。例えば、核の中にはDNAを複製したり、DNAをコピーしてRNAをつくる酵素がたくさんあります。リソソームには、細胞内の異物を分解するための分解酵素がたくさんあります。そして、ミトコンドリアや葉緑体にはエネルギー産生や光合成のための酵素がたくさん存在しています。そのためか、ミトコンドリア内には独自のDNAがあります。そこで、代謝の話の最後にもう一度だけミトコンドリアの話をします。

ミトコンドリアのDNAや核にあるDNAの呼吸に関わる領域に問題があると、体の中でエネルギーが十分に作れないことからミトコンドリア病と呼ばれる疾患を起こします。病院などのホームページをみると、症状の一覧のところに、「mtDNA変異」と書いてあるのですが、これはミトコンドリアDNAに異常があるということです。珍しい疾患とはいえ、ミトコンドリアにDNAがあることや、その役割を知っていないとなかなか理解できないのかも知れません(実際に質問を受けたことがあるので)。
さて、このミトコンドリアDNAですが、けっこう私は使います。寄生虫の種類をDNAで見分ける時に、ミトコンドリアにあるシトクロムの設計図にあたるDNAの塩基配列を調べて、比較します。同じ理由で、リボソームの設計図にあたるDNAの塩基配列を比較することがあるのですが、リボソームの設計図のDNAは核の中にあります。では、なぜシトクロムの設計図にあたるDNAの塩基配列を調べるのかというと、ミトコンドリアを持つ生物(真核細胞でできた生物)であれば必ず持っているからです。視点を変えて説明すると、細胞の中にあるDNAをすべて比較することは効率が悪く、意味がありません。例えば、ヒトと昆虫であればDNAの量ははるかにヒトの方が多く、体の仕組みも全く異なるため、DNAは違いだらけで比べられません。そこで、真核細胞であれば必ず持っているシトクロムやリボソームなどのタンパク質のDNAを調べます。リボソームであれば原核細胞も持っているため、その気になればヒトと乳酸菌がどれくらい違うかも調べられます。他にも、保存性の高さなどもあるのですが、これはまた後々。
ちなみに、葉緑体の中にも独自のDNAがあります。また、二重膜ということでミトコンドリアと同じく、もとは別の生物だった可能性があります。植物の種類や進化をDNAで調べる時に、この葉緑体のDNAを使います。ミトコンドリアや葉緑体のDNAは、核のDNAを使うよりも簡単ということもあり、研究でよく使用します。理由としては、核のDNAは細胞に1つしかないのですが、ミトコンドリアや葉緑体は複数あるためです。


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