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『洞窟の奥はお子さまランチ』
足元のぬかるむ道を抜け、コウモリの群れを振り払って進んだ洞窟の奥で私はそのお子さまランチと出会った。
何てことだ、信じられない。こんな凄いものがこの世に存在してよいのだろうか。
私の口内に涎が溢れる。
しかも、これが食べられないなんて!
「出来には満足していただけましたかな?」
脇にグラマラスな美女を従えた老人が言う。
私は激しく縦に首を振った。何せこの老人は伝説の食品サンプル職人なのだ。
「それ
『デジタルバレンタイン』
火星に根付かなかった植物のひとつにカカオがある。
だから火星にはチョコレートがない。
一方で恋人にチョコレートを贈ると言うバレンタインの風習はそのまま地球から持ち込まれた。
チョコレートのないバレンタインで何を贈るかと言うとチョコレートのデジタルデータである。
火星で開発された味覚再現機。どこの家庭にも一台はあるこれでチョコレートの味を再現するのだ。
そんな火星のバレンタインで、僕には苦い思い出
『行列ができるリモコン』
城の前にはリモコンを持った人たちの長い行列ができていた。
”姫の電源を入れることができた者を姫の婿とする”
こんなお触れが出たからだった。
現在姫は家電の身体と化してしまっている。
原因は東の森の魔女。姫の美貌を妬んだ彼女は命と引き換えに姫に呪いを掛けたのだ。霊の見えるものは口々に魔女の霊が取り憑いていると言った。
さて、肝心のリモコンの方であるが、今まで誰一人として姫を目覚めさせることはできな
『アメリカ製保健室』
ここは……保健室、だよな。
扉を開けた瞬間、和道はそう思った。
襖に屏風、床の間には掛け軸。まるで武家屋敷か茶室のようだ。
すると、
「ハァイ、いらっしゃいませ」
床の間の壁がどんでん返しに回転し、現れたのは白衣を着た金髪のクノイチだった。
パニックになって鯉のように口をパクパクとするだけの和道を横目にクノイチは勝手に喋り始める。
「ワタシ、養護教諭のマリーと言います。日本大好きです。この保健室も
『ドローン課長』
この世の果てのちょっと先、僻地も僻地のまた僻地。
大きな大きな会社の小さな小さな支社がありました。
そこのとある課にいるのが通称ドローン課長です。
指示はふわふわ一貫せず、常に上から目線です。
セクハラパワハラ何のその。
でもこれは今に始まったことではありません。
本社でもそうだったのです。これが原因で課長は飛ばされてきたのでした。ドローンだけに。
『いらいらする挨拶代わり』
「いらっ「いらっ「いらっ「いらっ「いらっしゃ~い」」」」」
挨拶代わりのギャグ。
しかし、これを保存するためとはいえ、5人もクローンを作る意味はあったのだろうかと、桂文枝師匠は思うのだった。
『サイコのとりから』
とりわけ暗示に掛かりやすいのは
やり方が雑な人間だ。例えば部屋
のゆかを丸く掃くような。文章を
冒頭から斜め読みするような。映
像の中にとつぜん一瞬挟まれたコ
ーラのサブリミナル画像を見て、
コーラをついかってしまう。この
文章にもそんなラベルが付いてい
る。あるものが、とても欲しくな
るラベルが。しっかり者のあなた
なら、まさかまさか掛かったりは
しやしないだろうが。ほら、何が
食べたい?
『顔を描く』
メモをみながら、淡々と化粧を続ける。
最期にマスカラを塗って、これで完成。
自撮り写真と鏡の自分を見比べる。うん、そっくり。
最近は何処もかしこも顔認証だから、正確に同じ顔を描かなくてはいけない。
のっぺらぼうも人間界では生きにくくなったものだわ。