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Guilty Braves

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二つの大国による戦争が休戦して間のない異世界「フィルアース」。人々は長年続いた争いの傷や悲しみを拭うためなのか、当時戦争の主力武器とされた「魔導士」―― 生まれつき魔法を使うこと… もっと読む
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Guilty Braves Truth 2:谷間の町ソーラ/魔導戦争が遺したモノ【2−3】

2-3

 シャッターの裏側は、埃の雪原だった。広い一軒家の高い天井から糸屑のようなハウスダストが舞い上がっては降り落ちていく。  
一行は周囲にあるものの方に目を奪われていた。無数の分厚い本がぎっしりと詰まった棚が、壁一面を覆っている。
 背の低い眼鏡の男は、上機嫌に鼻歌を歌いながら、身体を時々小さく振って、積もった埃を払い落とす。頭も肩も灰色の塵が乗っているレナとトカライはそれぞれ両方とも眉間

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Guilty Braves Truth 2:谷間の町ソーラ/魔導戦争が遺したモノ【2−2】

2-2 

 頭上に?マークを浮かべたカマックが、その場で延々と回転しながら自分の車を探すが、影すら全く見つからない。そのまま宙に浮きだしそうな程の回転力をつけ始めた少年が、目を回す前に肩を掴んで動きを強制終了させたメロンは、同じく周囲を見渡してみるが、やはり車の姿が何処にも無い。
 レナとトカライも軽くだが周囲を探索する。が、やはり誰も見つめられない。徐々に冷や汗をかき始めていたカマックが遂に焦

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Guilty Braves Truth 2:谷間の町ソーラ/魔導戦争が遺したモノ【2−1】

 ーー東世界・岩山地帯。中部にある「荒廃の街フィオラ」で、『幸せの土地』を探して旅をしていた姉さんの帰りを待っていた私、メロン・フルールは、同じく『幸せの土地』の旅をしているカマックさん、トカライ君、レナさんの三人に出会い、街に潜んでいた大国・アルカディス帝国の軍の残党兵から救って貰いました。
 その中で、私はセファー姉さんの行方の真実を知り……。他人に頼ってばかりで立ち止まっていた私は、待ってい

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Guilty Braves ExtraChapter:レナの魔法属性講座

 ーーこの世界の名前は、『フィルアース』。世界は主に2つの名称で区別されていて、右側の巨大な大陸は「東世界」、左側の3つの大陸は、その他の小島等もまとめて「西世界」と呼ばれています。
 2つの土地にはそれぞれ大国が統括していて、西世界は生物科学国家「ヴィクトリア共和国」、そしてこの東世界は、軍事大国「アルカディス帝国」が支配しています。
 私、メロン・フルールは東世界の真ん中にある「岩山地帯」のフ

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Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1-5】

 1−5
 生気を失った姉の目が、ショックを受けている最愛の妹を見つめている。
 全身の力が抜けたメロンは、肩から大きく崩れ落ちる。無残な姿と成り果てた家族の姿に、滝のように涙が溢れ出してくる。
 カマックは天井を眺めると、虚ろな瞳に火を付ける。震える両手を握り締め、鞘に納めている武器に手を掛けると、
 鎧を纏った男達に、背後を包囲された。
「おやおやそいつは知り合いか?どうする?お前達は袋の鼠だ

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Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1-4】

1ー4
――遙か遠い場所から、小鳥の囁き声が聞こえる。暖かい日差しと心地よい風が、身と肌を優しく撫でてくる。
 揺れ動かされた髪が頬を摩ると、うめき声を出した少女の意識が戻る。ぼんやりとした思想と視界が徐々に鮮明になった時、薄暗い空間で初めて見た景色は、
 目の前に広がる、大きな一筋の虹だった。
 半開きの巨大なガラス窓の先にある美しい七色の帯は雲の間をすり抜けて、岩山の向こうの遙か遠くへと伸びて

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Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1-3】

1ー3

 薄暗い鉄壁の部屋に、一人の男が立っている。周囲に積み重ねられた鉄の箱から不気味な蛍光色の光が溢れ出ており、細かい電子音と水の中から時折空気が吹き出すような音が、しきりにやかましく聞こえてくる。
 壁に付いた小さな窓から、鳥になって眺めているような高さからのフィオラの街並みが見える。美しいとはいえないが広大な風景に興味を示す素振りは無く、着ている薄汚れた赤い軍服の端を指でいじりながら足の

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Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1−2】

1ー2

 幻想的なグラデーションの色彩をした短い髪と共に、頭に巻かれている長い二枚の鉢巻きが風に揺れている。少年は少女と仲間達の視線に気付くと、笑顔で話し掛けてきた。
「怪我はない?」
「調子乗ってるんじゃねえぞ!このガキいい!!」
 背後から襲いかかって混紡は、振り向いた少年の剣によって簡単に防がれる。
 2本になった棒は、瞬間的に4つに斬り分けられる。バラバラにされた混紡を拾う間もなく、続

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Guilty Braves Truth1:荒廃の街フィオラ/行こう、誰もが幸せになれる土地へ【1−1】

一羽の鳥が飛んでいく。
 果てのない青に包まれて行く先に、雲が転々と浮かんでいる。遥か地には大地と海が、緩やかな弧を描いて広がっている。
 目指しているのか偶然なのか、何よりも澄んだ一本の美しい虹が鳥の頭上に伸びている。消えない不思議な七色の帯は何処までも果てまで、この世界を一直線に伸びている。
  遙か昔に人は、この世界に名を付けた。
 『フィルアース』。
 今から二年前、二つの国によって行わ

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Guilty Braves Truth0/最果ての村カルッサ−人と「魔導士」と「幸せの土地」【0-4】

0-4

「説教出来る相手を間違えているぞ小僧、戯言は彼の世でほざけ!」
 男が手にした斧で地面を叩くと、兵士達がカマックを囲む。少年が腰から引き抜いた剣は卑劣な大人達の姿を刃に映すと、澄んだ金属音を響かせた。
「武は「止める」という字を含む、争いを止める道が武道なり。剣は悪しき者から弱き者を守る為に握る物。気高く純真成れば斬れぬものなぞ無し!
 悪い奴は俺が成敗してやる!食らえ、イズモヤマト流・

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Guilty Braves Truth0/最果ての村カルッサ−人と「魔導士」と「幸せの土地」【0-3】

0-3

 平原地帯の林の朝は、冷えた新鮮な風が草木を揺らし、車のタイヤが突き出た沼に幾重もの波を作り出す。
 天に再び浮かんでいる虹を眺めていたカマックは、握っていた鞘付きの剣を腰に戻す。日課の素振りを終えてカルッサ村のハルの宿屋に帰ると、部屋のベッドで爆睡しているトカライを布団を掴んで振り起こした。
「のだのだ、もう朝なのだ?朝バナナ茶を飲むのだ?」
「いいです、いらないです」
 寝ぼけたトカ

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