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情動(emotion)と感情(feeling)~よく行動するための生物的な理解

行動をよい方向に誘導するにはどうしたらいいのでしょうか?
コーチング、1on1ミーテング、ワールドカフェといった対話を重ねて気づきを促す手法がビジネスの現場では取られているかもしれません。

カウンセリング、認知行動療法、作業療法といったさまざまなセラピーが医療・福祉現場でも行われているでしょう。

いろんな「how to」がありますが、生活の中で生物としての人間に着目し、情動(emotion)感情(feeling)を理解することは行動の助けになると思います。


情動(emotion)と感情(feeling)とは

英語のemotionが情動、feelingが感情に対応しますが、一般にこの2つのワードは、そんなに区別をして使っていないでしょう。心理学、医学、脳科学などの学問の立場によっても異なるようです。

しかし、アントニオ・ダマシオ氏(1)の考えに沿った認知神経科学者である乾敏郎氏(2)の定義はわかりやすいです。

情動は、外的刺激や内的な記憶の想起に伴って個体に生じる生理的な反応
を指す。
感情は、情動の発生に伴う主観的な意識的な体験である

乾敏郎(2018)「感情とはそもそも何なのか 現代科学で読み解く感情の仕組みと障害」p6

すなわち、情動は生理的反応であるので、他者から観察可能であり計測も可能です。それに対して、感情は基本的には本人にしかわからないものととらえます。

もっとシンプルに言うと、情動は「身体」という舞台で、感情は「心」という舞台で演じられると考えるとわかりやすいです。

生存を保つための情動反応

人間は有機体である生物ですが、社会生活では言葉や文章で存在を証明したり、確認しあったりするのに思考をたくさん使います。なので、自分を有機体であることを忘れがちです。
身体には恒常性を保つためにさまざまな神経や臓器がネットワークを結び働いています。何かを見たり、聞いたり、触れたりすると身体に変化が起こります。
例えば、寒い時どんな反応が起こるでしょうか?

血管を収縮させ、放熱を防ぎ、立毛筋を立たせ鳥肌となり筋肉をブルブルと震わせます。ゾクゾクしてきて暖かいところへ移動するでしょう。鳥肌や筋肉をブルブルさせるのは情動であり、ゾクゾク感や暖かいところへ移動するための仕組みが感情ということになります。


図1   生命調節のレベル

上図のように、階層的に理解するとわかりやすいと思います。いわば自律的な反応が情動で、それよりも意識レベルに近いのが感情といっても良さそうです。

感情と心拍数と体温の関係

基本6感情を定義した心理学者ポール・エクマンは、感情と心拍数と体温の関係を雑誌Science(3)で明らかにしています。
下図をみると各感情に対して特有の生理的変化、つまり情動の変化が生じているのがわかります。


図2   基本6感情に対する心拍数、体温の変化

例えば、恐れの感情では、心拍が上昇し体温が下がります。
怖い時ゾクゾクするのは、交感神経系が作用し血管を収縮させるからで、「身の毛がよだつ」という表現のように恐怖のあまり毛が立つことがあります。寒い時に下がった身体から熱を逃さないようにする反応と似ています。

情動と感情との関係を認知し、よい行動につなげる

進化の過程でみると、動物は情動を先に身につけ、その後に感情を獲得しました。
感情が主観的な意識体験であるとすれば、それには脳が重要な役割を果たします。進化のプロセスでは脳をもつ生物は後になってから現れます。脳を持たない身体だけの生物はたくさんいますが、身体が脳だけという生物はいません。


写真1 クラゲには脳はない

なので情動や感情を考える時に身体の存在は見落とせません。
生理的反応に基づいて感情をもつことができない場合、自己の身体状態がうまくとらえられていないということがいえます。
一方、情動や感情を無理やり理性で抑えつけたりすると身体そのものを痛めつけ、行動はよい方向にはいきにくいでしょう。

さまざまは「how to」は有効ですが、その時の身体反応や感情を観察しながら取り組むと、さらに良い方向にいくでしょう。
生理的なシグナルと感情との関係を認知できれば、その正体がわかり落ち着くこともあるでしょう。あるいは休みが必要と判断できたり、場を離れることもできます。


これから大勢の前で何かを話す場面を想像してみてください。
(想像だけも身体は反応するから、情動と感情は相互作用なのだろう)

心臓の鼓動は高まります。
身体には緊張を感じます。
これはワクワクなのか? 
それとも不安なのか?
その情動に感情のラベリングすると、行動は変わっていくかもしれません。
他者との関わり方も変化してきます。
つまり、未来が変わっていきます。
そこにウェルビーイングのヒントがありそうです。


<参考文献>
(1)アントニオ・ダマシオ(2018)「意識と自己」,講談社学術文庫

(2)乾敏郎(2018)「感情とはそもそも何なのか 現代科学で読み解く感情の仕組みと障害」,ミネルヴァ書房.

(3)Ekman.P et al.(1983)Autonomic nervous system activity distinguishes among emotions.Science,221,1208-1210.



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