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今本智隆著(2024)『DX沼からの脱出大作戦』ダイヤモンド社

DXを語る微妙なマーケティング本的な立ち位置

散髪までの待ち時間があるので、近くの書店で面白そうな題名だったので購入して読んでみました。

わたし自身も少なからず仕事柄DX案件に関わってきた経験があるので、似たような思いや、DXと名前だけは掲げてあるけど、実態は単なるデジタル化だったりすることが未だにDX案件と呼ばれていたりするので、その辺を突いた本なのかと思っていました。

最初はその流れと思い読み進めましたが、どうやら中身は著者の現在のお仕事に近いマーケティングやSEO関連で、内容も完全に特化するわけではなく、微妙なところにとどまっていて、スッキリ読みきれないというか、本書が掲げる「沼」感は「沼」のままであり、脱出大作戦は未遂に終わったような読後感でした。「沼」というよりはモヤモヤが残るような…

本書でも、「よくある間違ったDXの例としては、全体的な方針を決めていないのに、担当者だけとりあえず割り振ってしまうこと」を指摘しています。多くの組織でもやってしまっていることで、担当のところだけを狭く囲んで作業する輩も実際に多いですね。

本書は第2章からデータ活用の内容になり「意味のないデータを使うな」など、本来当たり前に思えることも、やらかしてしまっているプロジェクトが多いのだろう… また「専門家に丸投げするな」と解説しているが、世の中担当者を決めたり、コンサルを雇ったりすること自体、丸投げと責任転嫁を見込んでいるわけで、「沼」というよりは、日本企業に深く根付いた「自分が責任を取りたくない」病の現れで、本来リスクの責任を担うために権限があるはずなのに、その権限だけ使って責任が伴わない、挙げ句の果ては、DXが成功裏に終わった時には、そのような責任回避してきた人たちが声高に「自分がやったアピール」をして出世を目指すため、必然的にリスクが高い人達が企業のトップに近い位置を占めるという悪循環… 個人的にはこれこそDXの「沼」だし、日本企業の「沼」だし、日本の「沼」だと思うけど、本書は当然ながらそこまで行き着かない…

第3章ではデータ分析の話になり、同業他社との競合分析ツールの紹介など、WEB作成をDXと捉えている読者には良いのかも知れないが、わたしのようなエンジニア出身のプロジェクトマネージをするものにとっては、本書の後半は微妙な感じのもので、DXの本筋からは外れまくっている感じがする。その点では本書は確かに「沼」である。

定性・定量調査や売上、デジタル広告等の解説が後半になされるが、全体的にどこにスコープを定めて読者にイメージさせているのかが不安定なので、解説そのものは理解できるが、本書のターゲットが明確になっていないもどかしさを感じた次第。

たとえば経産省の資料でのDXの定義では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」で、やはり「業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立」することがDXの到達点だと思うが、本書については、その手前のところまでのDXのようであり、定義に相当する部分がないままに内容を展開されると、妙に読後感に影響することが再認識された感じがした。

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