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大塚ひかり(1961- )「嫉妬と階級の『源氏物語』 第七回 「ふくらんでいく世界」から「しぼんでいく世界」へ」『新潮』2023年7月号  日向一雅(1942.1.1- )『源氏物語の世界(岩波新書)』岩波書店 2004.3

『新潮』2023年7月号
https://www.amazon.co.jp/dp/B0C67CYJF4
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/backnumber/20230607/


大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
 第七回 「ふくらんでいく世界」から「しぼんでいく世界」へ」」
p.252-264

「妻でも恋人でもない存在、嫉妬の権利もない女が平安時代には実在する。彼女たちは、平安中期、"召人(めしうど)" と呼ばれていた。女房として召し使われつつ、主人筋の男の性の相手もする人の意で、一般女房よりは優遇されることが多いものの、立場はあくまで使用人だ。

『源氏物語』が画期的なのは、そうした人々の存在と心情に初めて光を当てたところである。『うつほ物語』など召人に触れた文学はあるが、『源氏物語』のように
中納言の君[葵の上の女房~源氏の召人]、
中将の君[浮舟の母、八の宮の召人]といった、
固有名詞をもった召人が活躍する平安文学をほかに知らない。」
p.252-25

「浮舟の登場が唐突であったのに対し、母・中将の君の登場は周到に根回しされている。受領階級の明石の君の存在が、紫の上登場の直前に、早くも噂話として源氏の耳に入っていたことに似ている。

受領階級に落ちぶれていた明石の君は、源氏と関係し、
生まれた娘は紫の上の養女となり、中宮となって、
明石一族や源氏の地位を押し上げ、繁栄をもたらした。

中将の君は、源氏にまさるとも劣らぬ血筋の八の君と関係し、
同じように娘が生まれたにもかかわらず、
それを機に八の宮に絶縁され、娘共々、
受領階級に落ちぶれるという下降線を辿った。

上流だった紫式部の先祖が、
紫式部の代には受領階級となって、
紫式部は[藤原]道長の召人になる。
召人となった紫式部がもしも道長の娘を生んでいたら……。

紫式部は、源氏と明石の君を主軸に上昇してきた
「源氏の物語」に対し、
八の宮と中将の君をを主軸にして下降していく
「宇治十帖」を描きたかった。
中将の君はよりリアルな「もう一人の明石の君」である。
物語は、いよいよ召人の目線で、召人自身の心情を綴る。(つづく)」
p.264

日向一雅(1942.1.1- )
 『源氏物語の世界(岩波新書)』
岩波書店 2004.3
http://www.amazon.co.jp/dp/4004308836
20009年5月12日読了

「…明石の入道は娘と源氏との結婚にあせっていたから、この身分違いの結婚がどういう形の結婚でなければならないのか深く考えていなかった節がある。

当時の通常の結婚は招婿婚であり、男が女の親の了解のもとに文通をし、二人の合意ができると男が女の家に通うのである。

ところが、入道は源氏の関心を引こうとして娘の琴を自慢したときには、源氏が聞きたければ何の遠慮もいりません、「御前(おまえ)に召しても」(明石)と気軽に言った。

もし源氏が明石の君を「召して」結婚したならば、彼女は召人(めしうど)という女房待遇の地位に甘んじた可能性がある。
召人とは、主人と恒常的な愛人関係にある女房をいう。

源氏は入道に娘の説得を頼んだが、彼は自分が通っていく招婿婚の形ではなく、召人待遇の結婚しか考えていなかった。だが、明石の君にとっては召人のような結婚は出来ない。…

月日が経つにつれて二人の間には招婿婚の結婚か召人待遇の結婚かをめぐって駆け引きと対立が顕在化してきた。…

結局源氏の方が折れて、源氏が明石の君の家を訪ねて結婚した。源氏を通わせる招婿婚の結婚になったのは明石の君の粘り勝ちである。…

招婿婚の形式に則ったものになったことは、こののち明石の君の地位を保証するうえで大事な出発点であった。…」
p.80「若き光源氏の恋と挫折」


[2009年]2月に、
大塚ひかり訳源氏物語の
明石を読みましたが、
招婿婚と召人待遇をめぐる二人の交渉については、
まったく気がつきませんでした。
先達こそあらまほしけれ。
https://www.amazon.co.jp/dp/4480424822

https://ja.wikipedia.org/wiki/大塚ひかり


読書メーター
大塚ひかりの本棚(登録冊数15冊 刊行年月順)
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https://note.com/fe1955/n/n8ef90401b665
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
新連載
『源氏物語』は「大河ドラマ」である」
『新潮』2023年1月号

https://note.com/fe1955/n/ne724166a7ad9
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
 第二回 はじめに嫉妬による死があった」
『新潮』2023年2月号

https://note.com/fe1955/n/ncd7242040e94
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
 第三回 紫式部の隠された欲望」
『新潮』2023年3月号

https://note.com/fe1955/n/n124d45f52d2b
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第四回 敗者復活物語としての『源氏物語』」
『新潮』2023年4月号

https://note.com/fe1955/n/n942cb810e109
大塚ひかり(1961.2.7- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第五回 意図的に描かれる逆転劇」
『新潮』2023年5月号

https://note.com/fe1955/n/ncc2837435432
大塚ひかり(1961 .2.7-)
「嫉妬と階級の『源氏物語』
第六回 身分に応じた愛され方があるという発想」
『新潮』2023年6月号

https://note.com/fe1955/n/nc07bb6cbfb99
山本淳子 (1960.8.27- )
『源氏物語の時代
一条天皇と后たちのものがたり
(朝日選書 820)』
朝日新聞社 2007年4月刊
305ページ

https://note.com/fe1955/n/nef8cb068b3ec
山本淳子(1960.8.27- )
林真理子(1954.4.1- )
『誰も教えてくれなかった『源氏物語』本当の面白さ
(小学館101新書)』
小学館 2008.10
192ページ

https://note.com/fe1955/n/n8a77c09049c5
山本淳子(1960.8.27- )
『私が源氏物語を書いたわけ
紫式部ひとり語り』
角川学芸出版 2011.10
253ページ

https://note.com/fe1955/n/nc3a1160a0123
山本淳子 (1960.8.27- )
『平安人の心で「源氏物語」を読む』
朝日新聞出版  2014.6
328ページ

https://note.com/fe1955/n/n27e6fad89d78
山本淳子(1960.8.27- )
『枕草子のたくらみ
「春はあけぼの」に秘められた思い(朝日選書)』
朝日新聞出版 2017.4
312ページ

https://note.com/fe1955/n/nf22b8c134b29
三田村雅子(1948.11.6- )
『源氏物語 天皇になれなかった皇子のものがたり
(とんぼの本)』
新潮社 2008.9
『記憶の中の源氏物語』
新潮社 2008.10

https://note.com/fe1955/n/n2b8658079955
林望(1949.4.20- )
『源氏物語の楽しみかた(祥伝社新書)』
祥伝社 2020.12
『謹訳 源氏物語 私抄 味わいつくす十三の視点』
祥伝社 2014.4
『謹訳 源氏物語 四』
祥伝社 2010.11
『謹訳 源氏物語 五』
祥伝社 2011.2
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「舟のかよひ路」
『梨のつぶて 文芸評論集』
晶文社 1966.10

https://note.com/fe1955/n/na3ae02ec7a01
丸谷才一(1925.8.27-2012.10.13)
「昭和が発見したもの」
『一千年目の源氏物語(シリーズ古典再生)』
伊井春樹編  思文閣出版 2008.6
「むらさきの色こき時」
『樹液そして果実』
集英社  2011.7

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