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大塚ひかり(1961- )「嫉妬と階級の『源氏物語』新連載 『源氏物語』は「大河ドラマ」である」『新潮』2023年1月号

『新潮』2023年1月号
https://www.amazon.co.jp/dp/B00AAZCGYS
https://www.shinchosha.co.jp/shincho/backnumber/20221207/


大塚ひかり(1961- )
「嫉妬と階級の『源氏物語』
新連載 『源氏物語』は「大河ドラマ」である」
p.174-183
2023年1月21日読了

「[四代七十六年以上にわたる大河ドラマ…
物語の 終盤では横川僧都[よかわのそうず 源信(恵心僧都 942-1017]という、紫式部と同時代の人物をモデルにしたことが明白な僧侶が登場し、そこに至って当時の読者は「これは現代の物語である」と気づく構造になっている。

物語の幕開けの時代設定は、展開する音楽の研究から、延喜天暦の治と讃えられた醍醐[901-922]・村上天皇[947-956]の御代、つまり紫式部が生きていた一条天皇[986-1011]から遡ること百年近く前であることが分かっている(山田孝雄[よしお 1875-1958]『源氏物語の音楽』[1934])。

『源氏物語』は、当時の人にとって理想的な時代を起点として紡がれた、時代劇から現代劇へスライドする大河ドラマなのである。」
p.174

「紫式部の先祖たちは、聖代と言われた醍醐の後宮に数多く入内している…
かなりの上流に属している…

曾祖父・[藤原]兼輔[877-933]は従三位中納言…
兼輔のサロンには、
清原深養父[きよはらのふかやぶ 生没年不明 従五位下 清少納言曾祖父]や、
『古今和歌集』の撰者の一人で、『土佐日記』の作者でもある
紀貫之[872-945 従五位上]が出入りしていた。…

『源氏物語』の作者で、一条天皇の中宮彰子に仕えていた
紫式部は、
同じ一条天皇の皇后定子に仕えていた、
『枕草子』の作者の清少納言と、
何かにつけて比較されがちだが、出自は相当違う。」
p.177

「二人の父親は、共に中央から地方に派遣され、
現地を治める受領階級に属している。が、
清少納言の先祖が天武天皇の流れを汲むとはいえ、
曾祖父・[清原]深養父[生没年未詳]の代にはすでに
従五位下の受領階級に成り下がっていたのに対し、
紫式部の曽祖父・[藤原]兼輔[877-933]は
従三位中納言である。
三位以上が上流階級とされていた当時、この違いは大きい。

山本淳子[1960.8.27- ]
『私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り』
[角川学芸出版 2011.10]
https://www.amazon.co.jp/dp/4046532483
https://bookmeter.com/reviews/14855041
「清少納言と私のことを、同じ受領階級に属するなどと、
一緒にしないでほしいものだ。私の家は、
少なくとも三代前には文化の庇護者、歌人たちの盟主だった。
あちらは父親の清原元輔がようやく
周防守など遠国(おんごく)の国司になって
息をついたような家ではないか」
p.177

「系図(次頁[p.178-179])を見てほしい。
道長や妻の源倫子、紫式部や夫の藤原宣孝の
血筋の「近さ」が改めて痛感される。
こうした「近い」関係で、
主従関係が出来上がっているのが
当時の貴族社会の常とはいえ、
紫式部は清少納言以上に権力に「近かった」
ということをまずは頭に入れておきたい。」
p.177-180

「女房クラスの女が[主人からお手つきとなって]
愛されることはありがちで、
紫式部も道長の "召人[めしゅうど]" といわれる。

"召人" とは、主人と男女の関係になった女房のことで、
妻はもちろん、恋人とすら見なされていなかったものの、
普通の女房よりは上の立場である。

紫式部は夫の死別後、まだ幼い子を抱え、
道長の娘・彰子の家庭教師として仕えるが、
南北朝時代にできた系図集『尊卑分脈』には
"御堂関白道長妾云々" とあり、
道長の召人でもあったことはほぼ通説となっている。

しかも紫式部と道長の六代前の先祖は同じ
左大臣藤原冬嗣[775-826]であり、
道長の正妻の源倫子の母・藤原穆子[あつこ 931-1016]は、
紫式部の父・為時の母方いとこに当たる。」
p.182

「1 紫式部の父や夫は受領階級(中流貴族)に属すが、
自身も夫も先祖は上流に属し、血縁には高貴な人々が少なからずいた。

2 曾祖父は娘を天皇に入内させ、一族からは皇子も生まれていた。

3 紫式部は文壇の中心人物[具平親王(ともひらしんのう 964-1009
村上天皇第七皇子 紫式部の父方祖母の姉妹の孫]と昵懇で、
最高権力者である藤原道長のお手つきだった。

4 夫と死別した紫式部は先祖を一にする藤原道長や
その娘に仕えていた。」
p.182

「先祖は上流だったのに、父の代には落ちぶれて、
自身も夫を亡くし、家庭教師という特別待遇ながらも、
人に仕える立場に成り下がっていた」
p.182

「具平親王は、『古今著聞集』によると、
"大顔" と呼ばれる下級女官(雑仕女)を "最愛" して子をもうけ、
大顔は月の明るい夜、親王に伴われて行った寺で、
"物"(物の怪)にとられて変死しており(巻第十三)、
『源氏物語』の夕顔のモデルとされている。」
p.181-182

[『源氏物語』の]一部は宮仕え前から書いていたとされ、
その評判から道長にスカウトされたと言われているが、
いずれにしても、時代設定とされる醍醐天皇の御代は、
紫式部の先祖が最も輝いていた時節に重なる。

曾祖父・兼輔の娘・桑子が生んだ
章明親王[のりあきらしんのう 924-990
醍醐天皇第十三皇子]
がもしも政治的に成功していたら……
もしも彼が出世していたら……
彼の娘が天皇家に入内して
生まれた皇子が東宮にでもなったら……
あるいはもし、紫式部自身が道長の娘を生んで、
その娘が高貴な正妻に引き取られ、
天皇家に入内したら……

といった仮定をベースに、
過去の人物だけでなく、
定子中宮や敦康親王[あつやすしんのう 999-1019
一条天皇第一皇子、母は皇后藤原定子]等々、
紫式部と同時代に生きていた人々をもモデルにしながら、
いくつもの if を心に浮かべ、紡いでいったのが
『源氏物語』ではないか。

『源氏物語』は、
紫式部の先祖にまつわる「if の物語」と見ることもできる。
その第一歩として彼女は、先祖筋の桑子と同じく、
主人公である源氏の母を「更衣」という
天皇妃の最低ランクの階級に設定した。

さして重い家柄ではないにもかかわらず、
ミカドの寵愛を一身に受ける女。
それゆえ人々の嫉妬を一身に浴びる女。
女はこれからどうなるのか。
世代を重ね、移り変わるにつれ、
女の子孫はどうなっていくのか。
長い大河ドラマの始まりである。」
p.183

https://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=34215
主演・吉高由里子[1988.7.22-  ]
作・大石 静[1951.9.15- ]
大河ドラマ 光る君へ
「紫式部の『源氏物語』執筆に、欠かせないひとりの男性が、藤原道長。
ドラマでは紫式部が生涯心を寄せ、陰に陽に影響しあいながら人生をたどる、いわばパートナーとして登場します。」

「主人公の紫式部/まひろを演じる
吉高由里子さん」は、
召人「御堂関白道長妾」を演じるのでしょうか?

「もし源氏が明石の君を「召して」結婚したならば、
彼女は召人(めしうど)という女房待遇の地位に甘んじた可能性がある。
召人とは、主人と恒常的な愛人関係にある女房をいう。
源氏は入道に娘の説得を頼んだが、
彼は自分が通っていく招婿婚の形ではなく、
召人待遇の結婚しか考えていなかった。
だが、明石の君にとっては召人のような結婚は出来ない。」
日向一雅(1942.1.1- )
『源氏物語の世界(岩波新書)』岩波書店 2004.3
p.80「若き光源氏の恋と挫折」
https://www.amazon.co.jp/dp/4004308836

https://www.facebook.com/tetsujiro.yamamoto/posts/643356489072327

五年前に読んだ本。日向一雅 『源氏物語の世界(岩波新書)』 http://bit.ly/1oSThTp #bookmeter 岩波書店...

Posted by 山本 鉄二郎 on Saturday, June 14, 2014

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『一千年目の源氏物語(シリーズ古典再生)』
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