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パン

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#BAKERS

終わりなく続いていくこと

終わりなく続いていくこと

April 1, 2019

昨日、並びながら眺めていた、棚の向こう、厨房で彼女は生地に向かい、仕上げのクープを入れているところだった。見惚れてしまった。それは彼女のパンのように、ファインダーを向けたくなる素の美しさだった。
パン職人になってよかったことは、終わりのないこと、続いていくことが嬉しい。昔、彼女は言っていた。日々試行錯誤して、そうして今も続いている、のを、わたしは眺めていた。

農の仕

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日常を少しだけ愉快に。

日常を少しだけ愉快に。

March14, 2019

身の引き締まるような原稿の依頼をいただいて、考えている。パンとは。

「パンは小さいけれど確かな幸せ。つくり手にとっては、生きかたそのもの」

これは拙著『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社 2018)の帯の言葉だ。

小さいけれど確かな幸せ。
レイモンド・カーヴァーのいう”A small, good thing”、村上春樹のいう小確幸。

それをと

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Le seul et l’unique(厚木)

Le seul et l’unique(厚木)

February 3, 2019

昨日書いた、唯一無二という名のベーカリーは厚木にある。

公園(いまは貯水池工事中)に面した、鉄と木とコンクリートのシンプルな外観の店は、焙煎の香りでもしてきたら、コーヒーショップと思ってしまうかもしれない。でも外のベンチから見えるのは、ドイツ製のオーブンと磨かれて光を放つ作業テーブルだ。(設計施工 有限会社東匠)。

パンを焼いているのは、山神高志さん。菓子職

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SIDEWALK STAND INOKASHIRA(井の頭公園)

SIDEWALK STAND INOKASHIRA(井の頭公園)

January 29, 2019

歩いていて、思いがけずおいしいベーカリーを見つける、というのはうれしいものだ。とくに、広い公園を抜けてきて、コーヒーを買いに入ったカフェスタンドで、そこがパンの厨房も備え、いい感じのパンを焼いていると知ったときには。

SIDEWALK STAND は2015年に中目黒で始まった自家焙煎のコーヒースタンドで、ベーカリーが併設された井の頭公園の店は2017年5月

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つくり手との距離

つくり手との距離

January21, 2019

庭の金柑を蜜煮にしたもの、これは自然になった実を自分でもいできて、グラニュー糖のみを加えてつくる、まさに家庭の味、なのにぎゅっと濃縮された甘味と酸味、艶のあるオレンジ色が自慢のひと品だ。

わたしの金柑蜜煮は職人がつくるもの —— 美しい渦巻きの層の間から芳醇なバターが香るクロワッサンでも、こんがりとよく焼けたクラストを持つ、旨味のある田舎パンでも —— とコラボ

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