溶け出したわたあめ③
第二十一話
(ヒロ)
電車の窓から見える陽の傾きかけた景色は
ゆっくりと橙色に染まっていく。
ほぼ同年齢の人たちがはしゃぐ声、子供の笑い声。
電車の音、イヤホンの音漏れ、車内アナウンス。
彼女は寄りたいところがあるらしく、別の駅で降りたため、俺は一人電車に揺られ、ぼーっと考え事をしていた。
夢ではなかったのだろうか。
オールドファッションではあるけれど、少し自分の腕をつねってみる。しっかりと痛く、腕は赤い。
あー、ちゃんと現実だ。
彼女との時間は現実を疑うほどに輝いていた。
俺の心はこんなにも動くものなのか。
人に無関心でいることを決めてから動かされたのはタクト以来かもしれない。できるだけ人を避けてきた俺にとって彼女は稀有な存在だった。しかもタクトの時とは別の気持ちまでが動かされている。
初めての感覚。
とはいっても流石にこれ以上は進んではいけない。
そんな警告を何度頭で繰り返しても、あの一線を越えてから進み続ける心はもはや制御不能であった。
だから心に誓う。
彼女とはこの距離以上に親しくならない。
でも神様お願いします。
絶えず進んでいく俺の気持ちを許してください。
彼女のそばに少しでも長くいられることを願う俺を
許して。
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