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【パッチワーク書評】是本信義著『この言葉に歴史が動いた』大江匡房の言葉
―侠匂い雅香る、平安の奥深さを知る言葉
防衛大学校卒業の後、海上自衛隊へ入隊した元自衛官・是本信義さんによって、執筆されたビジネス本。NHK番組のパクリのようなタイトルだが、さすがに元自衛官だけあって軍人の言葉を多く取り上げている。その書きぶりは簡潔そのもの。この手のビジネス書にありがちな、必要以上にスキャンダラスであったり、筆者個人の意見が入り込みすぎて冗長であったりすることはない。静かで真摯な筆致である。1つ1つのエピソードも短く、通勤などのお供に最適な一冊。
本日選んだのは、この言葉。
大江匡房
「好漢惜しむらくは 兵法を知らず」
この言葉に惹かれたのは、響きに中国の土っぽい匂いを感じたからである。好漢という言葉は、『三国志』や『水滸伝』といった物語で、ヒーローに使用される。それを雅の世界に生きる平安貴族がどうして使用したのか、その背景が知りたくなったのである。
平安末期に起こった、前九年の役での話となる。
京に上った義家は、朝廷に仕える大学者 大江匡房からその戦い方について、「好漢惜しむらくは 兵法を知らず」と批評された。これを聞いた義家は、怒るどころか辞を低くして匡房に弟子入りし、短期間であったが「孫子の兵法」を学んだ。
(中略)
義家は、この「孫子の兵法」の応用で、十一カ所の柵を次々と攻略し、過去十年かかった戦いをわずか十二日間で鎮定してしまった。
義家とは八幡太郎の通称で知られる、平安期の英雄・“天下第一武勇之士”源義家のことである。一方の大江匡房については、明日に譲る。
『孫子』の兵法を扱ったビジネス書が、現在でも数多く出版されている。すでに平安時代から、愛読されてきたのだと思うと、感じ入るものがある。また、平安雅の世界に決して似つかわしくない言葉は、どこかアンビバレントを感じさせる独特の魅力を放っている。
調べてみると、この言葉は長く政治家や経営者に愛されてきた言葉のようである。この話は、関羽と張飛を叱り飛ばしつつ、諸葛亮の庵に三度も足を運んだ劉備の『三顧の礼』を想起させる。
この類いの話は、どこか日本人の心の琴線に触れるものがあるのだろう。
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