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【パッチワーク書評】岡崎武志著『蔵書の苦しみ』より国文学者・益田勝実の話

―つらいなどというありきたりな表現では到底及ばない
読書家の胸を打ち貫く切な過ぎる戦争の話

広島の日にはこんな戦争の話を綴ってみたい。

岡崎武志さんの『蔵書の苦しみ』は、いずれきちんと書評をしたいと思っている。ただ、読書家・蔵書家の気持ちをあまりに掴むエピソードが多すぎて、もはやどれを取り上げていいのか分からなくなってしまっている。

数年ほど、一時停止した読書熱を間違いなく再燃させた一冊である。

「第7話 蔵書が燃えた人々」には、戦災や震災などで大切な蔵書が燃えてしまった人々が登場する。どのエピソードも、読書家・蔵書家の胸を締め上げるような話である。

筆者が最も胸に迫ったのが、空襲によって蔵書が燃えてしまった国文学者・益田勝実さんの話。益田勝実さんとはこんな人である。

昭和42年から平成元年まで法政大学教授。国文学に民俗学の視点を導入し,古代日本の思想や文学を研究。平成18年「益田勝実の仕事」で毎日出版文化賞。日本人名大辞典+Plusより

Wikipediaによると梅原猛さんの本について批判したところ、ケンカを吹っかけられていたらしい。梅原さんって、ホントにいろんな人とよくケンカをするナア…話を戻す。

「焼跡に出かけて蔵書が白い灰の山になっているのを見て、茫然と立ちつくした。柳田國男先生の玄文社版『炉辺叢書』が、きちんと灰のまま残って、活字の部分が白く浮き出て読めそうだった。このまま持っていけばと思ったが、さわっただけでさらさらと砕けた」

何とも儚くも切なすぎる話。読書家・蔵書家なら、胸のどこかしらがキュッとなる音が聞こえてきそうである。

灰燼と化してもなお、読もうとする読書家の執念。さらさらと砕ける様は、どこまでも詩的でどこか超越した美すら感じる。

しかし、ご本人からすれば、そんな感傷にすら浸れないほどショックを受け、いわば思考停止のような状態に陥っていたはずだ。

―まもなく、75年目となる広島の日を迎えようとしている
こんな話から、戦争を考えてみるのもよいかと思う。


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