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私の人生と図書館を巡る出会い――私にとってのライフライン――

札幌市の図書施設が、5月4日(火曜日)~5月31日(月曜日)の間、休館している。

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いつになったら、10冊以上予約した本を読めるのだろうと、札幌市の図書館施設のホームページを覗き、
この衝撃のニュースを読んで、胸がザワッとした。


こんなに図書館の本を自由に読めないなんて、初めてだと思う。

理由は、みんながマスクをするようになったあのウイルスの感染拡大防止、のためである。

こんなこと言ったらおかしいかもしれないけど、初めて私の日常の内部を侵食された気がした。
私はけっしてこの決定の是非を問いたいわけじゃない。
私にとっての図書館が、いかに私の心を支えてきたか、その話がしたいのだ。

(いままで誰かが必死に守ってきた自由を何も知らず享受してきた自分が、初めてその自由を当たり前のものじゃないと突き付けられた今、この思いを書き記したい。)


私にとっての図書館はずっと身近なものだった。
本を読むことはいつも楽しいことで、「趣味は?」と聞かれて、「読書です」と答えると、たまに「えらいね」とか「すごいね」なんて言われることが小さいころからあったけれど、それはちがくて、
私にとってはみんながゲームをするように、友達と会って話をするように、読書をしていただけなのだ。
なんら特別なことではなく、けれどかけがえのないものだった。
読書には、読書だけの楽しみがあった。

そんな私も、毎日図書館に通っていたわけではない。
ときには1か月以上、その存在から離れていたこともある。
でも、これだけは確実に言えるのが、
私が図書館のことを忘れたことは1日たりともない、ってこと。
図書館のことを「この世で一番私のことを裏切らない、私の人生の伴侶」とさえ思ったことがあるくらいだ(実は今でも半分くらいそう思っている)。

図書館にある本を自由に読めることは、
私がまだ見ぬ世界へといつでも飛んでいけるってことだった。


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(Photo by Lacie Slezak on Unsplash)



正直に言う。
物心ついたときから、高校生までの私の現実はいつも灰色だった。
こんなことあっていいのかと思うぐらい灰色だった。
なんでそんな私が生き続けていたか、それはこのまま終わったら本当に灰色の人生になってしまうからだ。
芸人のピースの又吉さんの名言にたしか、人生の途中ではバットエンドはあり得ない、みたいな言葉があったと思うけれど、ほんとうにそれで、
「こんな、なんも楽しかったことがない人生のまま終われるか」
と思って、いつも心から血を流しながら生きてきた。
両親には大切に育てられた、でも私の心は他の誰かによって傷つけられていた。
それもべつにもう恨んじゃいない。いつも、私が悪いのだと思っていきていた。なんでこんなに人に嫌われるんだろう、私がそんなふうに泣くと、母は決まって「みんみん(わたし)の周りにはいっぱい味方がいるんだよ」といって、まずは家族をあげ、それから私の友達の名前をあげて、あの子もそうでしょ?というのだった。


図書館だけはいつも私をはじかなかった。
この世界にいていいんだよ、と包み込んでくれた。
眠れない夜は大好きな本を胸に抱いて横になった。
涙が出る本を読んだとき、この世界のことも優しく感じた。
きっと世の中は、私が見ているよりもずっときれいなんだと思えた。

10代だったから、本にお金を投入することはものすごくハードルが高いことだった。
私を救った本たちの出会いは、いつだって図書館にあった。

楽しいときや、忙しいけれど充実しているときは、図書館に行かなくてもよかった。
崖っぷちでエモーショナルな中学生だったあの頃よりは本にのめり込まなくなった。
大学生になって、参考文献としての本の読み方を身につけた。

でも、
たまに、
ふと、
ねえ、なんでこんなことが起こるのって涙が止まらなくなってどうしたらいいか分からなくなることがある、そんな日には、
本棚を振り返る、
そこに味方がいる気がして。

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「こんな、なんも楽しかったことがない人生のまま終われるか」
その時代は過ぎて
今はむしろ、
「生き続けてたら、思ってもみなかった今にたどり着けたよ、ありがとう」
そんなふうに思いながら、いつも毎日がかけがえのない奇跡に満ちている。


高校生のころ、
車から外を眺めていると、
バス停で待つ人、ガソリンスタンドで働く人、コンビニエンスストアへ向かう人、友だちと一緒に下校する人、犬の散歩をしてる人、どこかへ向かって歩く人、みんなみんなみんな
きらきらしてみえた、
この世のものとは思えないくらい、
きらきらしてきれいで、
死ぬほど羨ましかった、あんなふうになりたかった、ふつうになりたかった、その風景に自分も映り込みたかった、

でも、そのとき、私は、
その風景の中にいる人々と、車から外に出てすれ違うのは怖かった。
そこにいていいって思えなかった、
そう、だから、
ガラス窓を隔てて、私はそのきらきらをしばらく眺めていた。


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(Photo by Kent Pilcher on Unsplash)


今はどうだろう

……ねえ、たぶん、
いまそのきらきらの一員なんじゃないかな?
わたし。
ねえ、あの頃のわたし、どう思う?



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広海(ひろみ)さんは、
私が図書館に向かって邁進するのを、ほんの少し距離を置いて見守っている。

彼は言った、
「たとえば、イギリスに興味があったとして、そのときに『イギリスの本を読んでみよう!』じゃなくて、『イギリスに行ってみよう!』って人になってほしい」

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私はその言葉の意味をずっと考えている。

広海さんはこうも言った。
「物語を読むことは人生のスパイスで、
だけど、それ以上に大切なことは、
アクションを起こすことだ。
外に出て誰かと繋がろうとすることだ」

だから、君と俺はこうして出会えたし、東京であのタイミングで桃果子さんにも会えたんじゃないの。

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広海さんはいつも私の人生に向かって、
真剣で嘘偽りのない言葉を投げかけてくれる。

私よりも私の人生を考えているのでは、とたまに思う。

彼は本能的に見抜いている。
私が昔、本の世界に閉じていたことを。
これがあるならもういいじゃんと思ってたことを。

だから、私が昔の話をここで持ち出すたび、
今の自分をアピールすべきだとアドバイスをくれたんだ。

でもね、今は違うよ
本があるから他は全部いいなんて思わないよ、
もう大丈夫だよ

私やっと少しわかったんだよ、
たとえ何が裏切ろうと何が私を苦しめようと、
もうこの幸せを誰もなにもなかったことにはできないこと。

そう思わせてくれたのはさ、
あなたで、私の人生で、本で、
そういう全部なんだよね。
それで間違ってないよね。



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