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最悪な旅行に導かれた天職|深掘りニスト

このnoteは、中小企業の社長さんに仕事への想いや仕事を始めたルーツを深掘りインタビューするnoteです

概要

例えば家族が障害を持ったり病にかかり、もう自分たちだけでは旅行に連れていけないとき、看護師とカメラマンが旅行に同伴し、思い切り楽しんだ時間の写真を残すことができたら。それは、人生の中で大切な思い出になりませんか?そんな旅行を実現するねはんドットギフト合同会社の事業“ねはんトラベル”は、余命半年を宣告された母親の介護に明け暮れていたカメラマン掛谷さんと1000人以上を看取る仕事をしてきた看護師北川さんの、偶然の出会いから誕生しました。
この事業の根底にあるのは、掛谷さんの介護を通じた母への想いと北川さんの看護師という仕事に対する情熱。今回は、ねはんドットギフト合同会社設立までの経緯とこれからの活動について深掘りしました。

始まりは2歳のころ

ーーー北川さんは看護師としてキャリアを積まれていますよね。病院での看護師、そして訪問入浴専門の介護現場での看護師、さらにねはんドットギフト合同会社での旅行に同伴する看護師。北川さんが看護師になろうと思ったきっかけをお聞かせ願えますか?
 
北川氏:看護師になったきっかけは、実の父が2歳の時に他界したことです。実は、継父がとても人柄がよく、実の父のことを思い出すことは継父に悪いような気がして、つい最近までは考えないようにしていたんです。でも、このねはんトラベルを始めてから多くの方に事業のことや自分の経験を語る機会をいただいて思い出したんですよね。2歳の私は亡くなる父に対して何もしてあげられなかった。だったら、自分は看護師になって何かをできる人間になろうと思ったんだって。そしてもう一つ。忙しい母に代わって私の面倒を見てくれたのが祖父母でした。だから、目上の方のお世話をできる仕事がしたかったんです。
 
―――実のお父様に対するお気持ちから、看護や介護の仕事を目指されたのですね。
 
北川氏:そうです。ねはんトラベルを始めてから「あなたの話を聞きたい」と言ってもらえるようになり日本全国でお話をする機会が増えてきました。その時にいただいた感想の中に「北川さんはねはんトラベルの事業を通じて親孝行をしているのですね」というものがありました。もうハッとして!そうだ、亡くなった父に対する親孝行をしているんだって確信したんです。
 
ーーー北川さんは患者さんに、どのような気持ちで向き合っていらっしゃるのでしょうか。

病院勤務の時には、患者さんに対して制限ばかりをしている現場を見てきました。好きなものも食べちゃダメ、水も誤飲するから飲んじゃだめ。人生の終わりが近づいている患者さんが、最後の最後まで制限されてしまうのですよね。それは、医療機関としての対応だとはわかっていても、現場で患者さんを見ている身としては、葛藤でした。最後くらい、好きなビールを飲ませてあげればいいのでは?と。そして、転職した先の訪問入浴の会社が、まさにそのような会社だったのです。血圧が50を切るような患者さんもちゃんとお風呂に入れてあげて、家族に体を洗ってもらって、最後にお気に入りの服を着せてあげる。好きなビールだって、最後くらい飲ませてあげればいい。私の想いと一緒だったんです。そうやってたくさんの方の介護をして看取って来ました。介護のお仕事、私は大好きで天職だと思っています。

母のためにできること

掛谷さんとお母さん

ーーー掛谷さんは、北川さんと出会われた時期はどのような状況だったのでしょうか?
 
掛谷氏:私の母が余命半年の宣告を受けている時期でした。当時、母と私は別々の場所に住んでいましたが、母に帰ってきて欲しいと言われて母の近くにいることにしました。最後くらいは家で看てあげたいという想いもあり、介護施設から母を引き取って自宅で介護を始めた時期です。母の容態はもちろん芳しくはありません。腹水が溜まるような状態で、とても苦しそうでした。そんな状態ですから、つきっきりで介護をしていて、仕事にも手が回らないような状態だったのです。
 
ーーー在宅介護をされていた掛谷さんと訪問入浴の看護師てある北川さん。お二人が出会われたきっかけをお聞かせ願えますか?
 
掛谷氏:とある東洋医学に精通したお医者さんの講演があるというので、介護を始めてから初めて半日以上家を空けた日があります。台風も近づいていて1時間以上前に会場についてしまって。その時に、同じく1時間以上も前に会場にいた方が北川さんでした。
 
北川氏:いきなり目の前のソファに座ったよね。コロナの真っ最中に(笑)それがきっかけで知り合い、後日飲みに行く機会があって、二人で話をしたところから会社を起こすきっかけになる出来事が起こりました。
 
ーーー会社を立てるきっかけになる出来事ですね。詳しくお聞かせ願えますか?
 
北川氏:飲みに行った時に、先ほどお話しした私の介護の仕事に対する気持ちを掛谷さんにお話ししたのです。そしたら、大号泣で。どうした?と思ったら、彼が今、在宅介護の真っ最中だということを話してくれました。そして「母を旅行に連れて行きたいんだ」ということも。でも、余命半年の宣告があり、車椅子だし導尿も必要かもしれないのに自分だけでは連れていけない、と。だから一緒について来てくれないか?という彼のお願いに「いいよ」と答えました。結局自腹で30万円出して旅行に同伴したんですよ。彼は「マジか!」と驚いていましたけどね。でも、頼まれた時に私の仕事だって思ったんです。介護の仕事は私の天職ですから、これを受けるのは自然な選択でした。
 
掛谷氏:それは「マジか!」ってなりましたよね。
 
ーーー掛谷さんのお母様に対する愛情と、北川さんの使命感と言いますか、介護の仕事への並々ならぬ情熱を感じます。北川さんは旅行に際し、実際にどのようなことをサポートされたのでしょうか。
 
北川氏:お母さんを旅行に連れて行くためには、道中で体調に対応するだけではなくて、宿泊先にも必要な設備を準備しておく必要があります。なので、その手配をしました。そんな対応ができるなんて一般の方は知らないですよね。看護師の中では当たり前なのですが。だから掛谷さんには新鮮に映ったらしく、驚かれました。そんな準備ができるのか、と。

親孝行が二人を繋ぐ

車内で正しい位置に座れないお母さんを上から引っ張る北川さん

ーーー掛谷さんのお母様を旅行に連れて行く、それはねはんトラベルの事業そのものですね。どのような旅行になったのでしょうか?
 
北川氏:ほんっとうに酷かったんですよ。お母さんがわがまますぎて。こっちは、自腹切って同伴しているのに、ありがとうの一つもない。ずっと不平不満ばかりで全然楽しくない。で、ついに怒ったんです。いい加減にしろって。掛谷さんの親戚の方も応援に来ていて、車椅子でも入れるお風呂探したり、喜んでもらいたい一心でみんなが協力しているのに、あなたは不平不満ばかりで感謝もできないのか?って。結局、最後までありがとうは無かったですね。だから、モヤモヤとした気持ちで帰ってきたんです。
 
ーーーすると、その旅行自体の結果はあまり良く無かったのでしょうか。
 
北川氏:それがですね、違うのです。モヤモヤした気持ちで帰って来た時に、私の娘から連絡が来て「自腹切って患者さんのために旅行に同伴するお母さんはかっこいい。私を産んでくれてありがとう」って。もう号泣でしたね。こんなところからありがとうが来るなんて。そして、掛谷さんからも。「やっと親孝行ができた。ありがとう」って。
 
ーーー“親孝行”がお二人を繋ぐキーワードになりそうですね。
 
北川氏:そうですね。私は父に対する親孝行、そして、掛谷さんは母に対する親孝行。どちらも親孝行です。

苦難福門

共同経営のお二人。左が掛谷さん、右が北川さん。

―――そこから、会社を立てることになったのですね。
 
掛谷氏:そうです。北川さんに同伴してもらった旅行で“親孝行をしきった”という気持ちがありました。この気持ちは、絶対他の方も味わいたい気持ちなんじゃないかって思ったんです。それが、会社を作らないかと北川さんに声をかけたきっかけです。ちょうど2022年2月22日のゾロ目の日が一粒万倍日で吉日。だからこの日に設立しようって。
 
北川氏:はじめは驚きましたよ。看護師しかしたことないのに経営者なんてできるのかって。でも、結局私がやりたいこと、親孝行ができる事業だって思ったんです。だから、一緒に会社をすることにしました。
 
―――お二人の想いが一致したのですね。とても個性の強いお母様との旅行が、まさか会社設立に繋がるとは思わなかったのではないですか?
 
北川氏:苦難福門ですね。お母さんを旅行に連れて行った時には「なんなんだ!」と憤っていましたが、そのおかげで、私が本当にやりたいことを仕事にできるようになった。結局、あの後お母さんが亡くなり、金沢旅行に行った時の写真をアルバムにしてお葬式に参列下さった方に見ていただきました。そして、お葬式の写真も追加して、大切に保管しています。掛谷さんに出会ってから、どんどん事が進んでいって、今すごく好循環になっています。
 
ーーー「ねはん」とはあまり聞きなれない言葉です。会社名の由来をお聞かせ願えますか?
 
北川氏:「ねはん」は人生最後の境地、という意味です。それをギフトする。だからねはんドットギフトにしました。

死ぬ気で楽しむ覚悟のある方とご一緒したい

―――会社名は事業とリンクしているのですね。これからの活動についてお伺いできますか?
 
北川氏:私たちの事業は、人生最後の旅行の方だけを対象にしているわけではないのです。例えば、障害があったりして旅行に行きたいけれど行けない人、連れて行きたいけど自分だけだと難しいと思う人、そんな人たちの希望を叶えてあげる事が仕事です。でもビビって思い切り楽しめない人はお断り。死ぬ気で旅行を楽しむ覚悟のある人だけに同伴して、最高の時間とその瞬間の写真を残します。つい最近も、お世話になった方を旅行に連れて行ってあげたいというご相談があって、同伴したんです。この時には、出資します!という方やドライバーやります!という方が現れて、チームができました。ご本人は心の底から喜んでくれて「ありがとう!」が止まらない旅行になりました。そんな旅行をご一緒にして行きたいです。
 

○プロフィール
掛谷玄至(かけや げんじ)
ねはんドットギフト合同会社 代表有限責任社員。左目が大好物なカメラマン。
FB: https://www.facebook.com/kakeya.genji?locale=ja_JP
 
北川仁美(きたがわ ひとみ)
ねはんドットギフト合同会社 有限責任社員。介護のお仕事が大好きな看護師。
FB: https://www.facebook.com/hitomi.kitagawa.7?locale=ja_JP
 
ねはんドットギフト合同会社

○深掘りインタビュー
深掘りニスト 飯野真里子(いいの まりこ)
自分では気がついていない自分の魅力、あるいは商品やサービス、企業の魅力を引き出す深掘りニスト。 

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