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42歳一独身公務員の旅行記(インド編)⑨🇮🇳「半径5メートル以内の世界」

 日本では、そう、日本ではー なんとかなることが多かった。
 会社員時代、仕事で終電を乗り過ごした上、手持ちのお金が無かった事があった。僕とラジ君の先輩であるマサニイは、「オギヤマー お前お金もってないんだろ。一緒にタクシー乗ってけよ」て言ってくれた。  
 僕とマサニイは住む場所が全然違うから、タクシーで一緒に帰ったら時間もお金もめっちゃかかるはずなのに、マサニイは僕にそういってくれた。僕は若くて可愛いおねーちゃんでも何でもないのに、マサニイは僕をタクシーに一緒に乗っけてくれた。だから僕もラジ君もマサニイのことが大好きだったんだ。

 しかし・・・ここにはマサニイもオカンもいない。インドのワーラナシーだ。僕は思いっきりひとりだった。
 先ほど僕はワーラナシー空港の女性スタッフに、飛行機の遅延について説明を求めたところ
「ディレイド‼️」と逆ギレされ、完全にパニック状態に陥っていた。
 パニックになると心臓がバクバクなって、手足が震えてどうして良いかわからなくなるけど、どうしたら無事日本に帰れるか必死で考えた!

「携帯・・・携帯電話!!」
そや、携帯電話を使うんや!ともかくHISデリー支店のアラカワさんに連絡するんや!!

 僕は震える手で、スマホを取り出した‼️ そして、震える手でHISデリー支店に電話しようとした!!
「あっ・・・」
「インドでどうやったら電話できるんや!?」
 海外で通話したらめちゃ高額になるんじゃないか?電話できないじゃないか!どうしよう⁈
そや、メールや!メールしかない!!
 しかしその時またしても僕は気づいてしまった!
「Wi-Fiがないからメールもできないじゃないか!」
冷や汗が頭のてっぺんから一気に吹き出した。好きな女の子と向き合って過緊張の状態に陥ってしまった時くらい、汗が頭のてっぺんから、ドバーッてでた。
「終わった・・・」
僕は膝から床に崩れ落ちた・・・。

 何が、ヤワなカップルに負けてたまるか、だよ。完敗じゃないかよ‼️ウルフ気取って自分に酔ってっからこうなるんだよ‼️

「デリー行きの飛行機は遅れてます。どうなるか全くわかりません。ソーリー」
みたいな事を、さっきの女性空港スタッフがかなり強気な口調でやたら堂々とアナウンスしている。
 乗客も「ええっ⁈」みたいな雰囲気になってきた。

ただならぬ雰囲気に

「あかんわ・・これ多分ほんまのやつや・・・ほんまに日本に帰れないやつや・・」
怖かった。これまで経験した事ない類の怖さだった。

「大丈夫?」

優しい声が聞こえて顔をあげると、目の前にいたのは、何やらイケメンのイタリア系男性であった。
「君も、デリー行きの飛行機に乗ろうとしてる?
僕らもなんだ」
横に、これまた綺麗なイタリア系女性がいる。二人はカップルのようだった。
「さっき、君がスマホを使おうとした時困っているようにみえたよ。もしかしてWi-Fiがない?僕ので良かったら使うかい?」
そういってイタリア男性が僕にWi-Fiのパスワードを教えてくれた!!
「サ、サ、サンキュー!!!あ、あなたはどこからきたんですか?」聞くと、
「僕たちはイタリアだよ。日本のアニメが好きなんだ、『風立ちぬ』とかね。」
彼は確かにそういった。
「サ、サンキュー!」サンキューしか言えなかった。
 僕はその場でHISデリー支店アラカワさんにメールした!
「飛行機が遅れてデリーに帰れません。どうしたらよいですか?焦っています」と・・・。
 しかし今日は日曜日。アラカワさんもお休みなのだろう、やはりメールは返ってこなかった・・・。

 僕はフラフラ、と歩き、空港のベンチに崩れ落ちるように座った。
 もう疲れた・・・。疲れたよ・・・。なんでこんな目にあわなきゃならないんだ・・・。もうこれ以上考える気になれなかった・・・。ベンチでうなだれた。うなだれていると、次に無性に泣きたくなってしまった・・。

「ヒグッ・・・」

その時だ・・・。右横に誰かが座った。
ただ懐かしい雰囲気だけが、僕の右横にあった。

「よぉー 35のおっさんが泣いてんじゃねーよ このクソ泣き虫自意識過剰ゴリラヤローが」

「この声は・・」

「ラジ君じゃないか!!!」

ラジ君はー 僕の隣に座っていた。僕の方を向かず、ただ前をジッと見据えて。ラジ君はキャップを被り、ダボダボのスケーターみたいな格好をしていた。
「ラジくん、なんでインドにいるんだよ!サンフランシスコにいるんじゃなかったのか⁈」
「ていうか、なんでずっと連絡くれなかったんだよ!!」
僕は懐かしくて、矢継ぎ早にラジくんに問いかけたのだ!
「わるかったな、連絡できなくて。・・・俺、もう帰れなさそうだわ」
「え、サンフランシスコから?どういうことなの?」
「色々あるんだよ。」
「寂しいこと言うなよ!」
そういうとラジ君はやっぱり僕の方を見ず、まっすぐ前を見据えて言うのだった。
「まあ、お前は書くしかないんだと思うよ。お前の半径5メートル以内の世界を、片っ端から書きまくるしかないんだと思うよ」
「どういうこと?」
「そのまんまだよ。じゃあそろそろいくよ。ま、せいぜい頑張って生きるんだな。この自意識過剰クソゴリラ泣き虫弱虫ヤロー」
「さっきと微妙に言葉変わってないか⁈」

 そういうと、ラジ君はベンチから立ち上がった。僕も立ちあがろう、とした時、僕は自分の靴が見えた。白のオールスター。けっこう汚れてるなー、て一瞬思ってから立ち上がったら、もうラジ君はいなくなっていた。
「・・・・・」

「フレンド!!動くんだって!飛行機が動くんだって!!」
さっきのイタリア人男性が両手を広げて、満面の笑顔で伝えにきてくれた!!
「えーっ!!リアリィ⁈⁈」
全身の力が抜けるくらい、めちゃくちゃホッとした!!
「やったーっ 良かったーっ!!」僕はイタリア人男性とハイタッチした‼️
「これで明日日本に帰れる‼️」

「大変お待たせしました。3時間遅れとなりましたが、デリー行きの飛行機が出発します」
さっきの女性空港スタッフがアナウンスしている・・!
 僕はベンチから立ち上がり、リュックを持ち上げた‼️フワフワ宙に浮いてるみたいだった・・・!

インディラ・ガンディー国際空港

よければ過去の旅行記、回想記も読んでください!

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