震災クロニクル3/17(29)

「まだ受け入れ体制は整ってませんが、ここになる予定です」
大きなホールの地図を渡された。
「もう入れるんですか?」
「分かりません」

もう話にならなかった。公務員ってこんなもんだろうか。震災の避難所設置はここではまだ連絡不十分なのか分からないことがたくさんあるらしく、自分が投げ掛ける質問に「分かりません」を連発。さっさと帰ってほしいといったように話を切り上げようとする。

「分かりました。ありがとうごさいます」

軽い会釈をして建物を出た。同僚とただ呆然と街中を漂う。

「こんなもんかな」
「対応悪いですよね」
「結局迷惑なんだよね、彼らにとっては」

自分は投げやりにそう言った。同僚はただただ役所の対応の悪さに不満を漏らす。僕らはただ大都会にいるだけで、決して受け入れられているわけではなかった。自分のなかで何か覚悟が決まった。それが何の覚悟かはだいたい察しがついた。

生き抜いてやる。どんな手を使っても。これから何が起こるか分からないけれど、どんなことをしてでもこの困難を、この苦難を乗り越えて何がなんでも生き抜いてやる。

この大震災を生き抜いて、どんなに狡いことをしてでもこの地獄を抜けてやる。狡猾にどんな局面でも乗り越えてみせる。

覚悟が決まった。僕らにはそんな蓄えがあるわけでもない。そりゃ貧乏NPOで働いていてお金なんか貯まるわけはない。だから、ここにどれくらいの期間滞在できるかたかが知れていた。
とりあえず出来るだけお金を使わないようにしないと。

スーパーの惣菜売り場で今日の晩御飯を買おうか、コンビニで済まそうか。しばらくは品薄が続くだろう。歌舞伎町に個人でやっているような小さいスーパーがあった。そこの惣菜やお弁当は驚くほど安い。

「よし、ここだ」

まずは毎日の食事はここと決めた。

あとは1日3000円弱の宿泊費だ。ネット予約だと200円ほど安い。ここは事前に次の宿泊予約を予めしておこう。ある程度節約して、あとは出来るだけ財布を開けないかだ。

目の前にパチンコ屋が映る。震災のため時短営業をしていた。
「気乗りしないが、ここしかないか」

同僚と入店する。他人にどんなに間違った行為をしているか指摘されようとも、生き抜くための手段は選んでいられる状態ではない。ノーマルタイプでさらっと300枚出せたらさっと引く。それまでにいくら使うことになるだろうか。とりあえずモノは試しだ。やってみるしかない。
……

暫くして二人は店を出た。たまたま上手くいって4000円の勝ち。同僚も同じくらいの勝ち。

取り敢えず今日の宿泊は身銭を切らずに済む。ホテルにチェックインできる時間になり、昨日と同じカプセルホテルに向かった。

ロビーはきれいに整頓され、もう何人かはチェックインしていた。自分達は今晩の食事を買い込み、寝室に向かった。同僚はやはり疲弊が激しく、さっさと寝てしまう。自分はロビーのソファにゆっくりと腰をおろし、震災のニュースを見ていた。

これからどうするか。どうすればこの状況を変えられるか。いや、変えなくてもいい。この状況よりも悪くならないようにするにはどうすればよいか。

色々考えを巡らせた。

取り敢えずバイトか。この近くで仕事でも探そうか。ネットのアルバイト募集はとても怪しいものばかり「白ロム」だのなんだのかんだの。そんな手っ取り早く高額を稼ぐよりも、毎日の時間を埋めるために、ある程度セコセコ働けるようなところがいい。

もう自分のなかに「被災している」という感覚はない。もう生き抜くために必死にもがく生き物がそこにいた。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》