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真夜中の大冒険

我が家のチャビは15歳になる老犬だ

彼は、自由が過ぎる

真夜中にムクッと起き出し、一緒に眠っている母を起こして、散歩をせがむ

深夜のおきまりだ

私は心配なので毎晩

「またか」と呆れながら笑ってみせるが
内心は「待っていました」と布団から飛び出してついていく

最近私は寂しさに溺れてしまう夜が
怖いことがしばしばある

だから、そんな彼の奇行は救いだった

鍵とマスクとライト、ごみ袋を持ち
深夜の街にくり出す

ひんやりした風に、漆黒の闇に浮かぶ
月と星は私達だけのプライベートナイトを
彩った

眠った家々に、自由な道を堂々とおどけながら歩く時に、私は世界のこんな小さな夜を
心の底から満喫する

ふと、夜の山を見ては、見てはいけない
神秘を受け止めようと、もう一度深く
見つめてみる

やっぱり、収まらない感情が生まれそうなのでおとなしく目を反らした

「ねえ、お母さん。昨日の風はお洒落な秋の
顔をしていたね。でも、今日の風はなんか
寂しい重さを感じない?」

「わかるわかる。ねっ」

そんな会話の下に、チャビの呑気な耳が
楽しそうに揺れている。

ほんの五分の大冒険は、一日で一番大好きな
五分間。

「今度は、本当におやすみ」 



また、ひとりになって、さみしくなった私はどうかしてる。




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