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知の学びを創造する者
2023年7月31日 23:43
山田のことが気になったのは、体育祭が終わった頃だった。それまではただの同じクラスメイトで、たまに提出物を職員室に持って行くぐらいの仲だった。山田には好きな人がいて、そいつの方が俺よりも十分お似合いな気がした。でも、山田のことが好きだった。「山田はさ、どんな人がタイプなんだよ」一度だけ聞いたことがあった。山田は「急にどうしたの。あんたには教えないから」と少しはにかみながら答え
2023年7月26日 22:29
「斎藤君、手を止まってる」振り向くと、沙月さんが横に立っていた。「しっかりして。もうすぐ締め切り近いんだよ」「沙月さん、聞いてくださいよー。それどころじゃないですよ。彼女が他の男と付き合ってたんですよ」「ここ、座って良い?」沙月さんが僕の隣の席に座った瞬間、ほのかに香水の匂いがした。「どうしたら良いですか、俺」「女の考えていることなんて、分からないからね。いっそのこと、
2023年7月25日 23:25
「職場の人はみんな優しいよ。うん、大丈夫だって。じゃあ、もう切るね。おやすみ」電話を切り終わると、携帯電話を持った腕を下ろした。椅子にもたれながら、母親にさっき話した言葉を反芻する。「みんな優しいよ。でもね、ただ、その優しさが時に苦しい」ようやく決まった就職先での現状に母は喜んでくれていた。心配をかけまいと気遣う自分が、本当に言いたかった思いを引っ込める。仕事に満足していな
2023年7月6日 23:09
「こんなところにいたんですか」屋上に上ると、沙月さんはアイスコーヒーを飲んでいた。「この時間、誰もいないからね」 「でも、意外でしたよ。安藤さんが転勤になるなんて」「そうね、安藤君は確かに頑張ってた。まさか彼の名前が上がるとは思っても見なかったけどね」「沙月さんはどうなんですか。それで良かったんですか?」「何のこと?」「噂になってましたよ、安藤さんと付き合っているんじゃ
2023年7月1日 00:35
「それは不運じゃないよ」少女は静かに言った。「始まりの音だよ」「始まりの音?」「そう。聞こえるでしょ、この綺麗な音色が」「僕には分からない」「どうして?どうして分からないの?」少女は透き通った瞳をして、僕の方を覗きこむ。「あなたは不運と思っているだけ。もっと楽しそうな顔をしなさい」少女の言葉は僕を不機嫌にさせた。「君に言われたくない」「いいえ、あなたは分