【超短編小説】 三日月をなぞって
「職場の人はみんな優しいよ。うん、大丈夫だって。じゃあ、もう切るね。おやすみ」
電話を切り終わると、携帯電話を持った腕を下ろした。
椅子にもたれながら、母親にさっき話した言葉を反芻する。
「みんな優しいよ。でもね、ただ、その優しさが時に苦しい」
ようやく決まった就職先での現状に母は喜んでくれていた。
心配をかけまいと気遣う自分が、本当に言いたかった思いを引っ込める。
仕事に満足していない訳ではない。
それなのに、私はこのままで良いのだろうかと自問する。
ふと窓を見ると、夜空には三日月が出ている。
思わず、私は人差し指で三日月をなぞっていた。
「ねぇ、教えてよ。貴方には分かるんでしょ。私に欠けているものは何なの?」
三日月は何も反応しない。
「教えてくれないのね」
しかし、三日月は答えていた。
頭上にあるニつの星の下で・・
にっこりと微笑むことだと🌙(完)