【超短編小説】 沙月さん その2
「斎藤君、手を止まってる」
振り向くと、沙月さんが横に立っていた。
「しっかりして。もうすぐ締め切り近いんだよ」
「沙月さん、聞いてくださいよー。それどころじゃないですよ。彼女が他の男と付き合ってたんですよ」
「ここ、座って良い?」
沙月さんが僕の隣の席に座った瞬間、ほのかに香水の匂いがした。
「どうしたら良いですか、俺」
「女の考えていることなんて、分からないからね。いっそのこと、きっぱり諦めたら?」
「そんな簡単には諦めきれないですよ。沙月さんはそういう時どうするんですか?」
「そうね、私は考えないかな。基本、気にしない主義だから」
「何かきっかけとか、あったんですか?」
「うーん、それはまた今度。そろそろ行くね」
そう言って、沙月さんは席を立ち、自分のデスクに戻ろうとする。
「沙月さん、ありがとうございました」
「あんまり、根詰めないでよ。私、斎藤君のこと、期待してるから」
そう言うと、沙月さんは足早に去って行った。
「気にしない主義か」
沙月さんはまだまだ謎だらけだ。(つづく)