【超短編小説】 恋花火
山田のことが気になったのは、体育祭が終わった頃だった。
それまではただの同じクラスメイトで、たまに提出物を職員室に持って行くぐらいの仲だった。
山田には好きな人がいて、そいつの方が俺よりも十分お似合いな気がした。
でも、山田のことが好きだった。
「山田はさ、どんな人がタイプなんだよ」
一度だけ聞いたことがあった。
山田は「急にどうしたの。あんたには教えないから」と少しはにかみながら答えた。
俺は山田のことをずっと考えてしまっていた。
家に帰っても飯を食っても頭から離れなかった。
夏休みが終わる頃、山田に彼氏ができたという噂が飛び交った。
同じクラスの奴が夏祭りで山田が一緒に男と歩いているのを見たようだった。
俺はいつかこうなると分かっていたし、むしろ「これで良かった」とさえ思った。
それなのに山田のことが忘れられなかった。
「山田、俺はお前のこと好きだったんだ。ずっと」
遠くから鳴り響く花火の音が
俺の言葉を静かにかき消した(完)