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本屋さんの未来。

今、僕の手元に一冊の本がある。

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2019年6月にユリイカの臨時増刊号として出版された『書店の未来』という本だ。

本屋さんが好きな僕はいつものように本屋さんに立ち寄り、本屋さんの未来について書かれているであろうその本を何気に読み始めた。

そして、その中にスタンダードブックストアの中川さんの名前を見つけた時、僕はこの本を買おうと決めた。

家に帰り、適当な栞は無いかなと探していたら、偶然にもぴったりの栞が見つかった。

ちょっと端の方が折れてはいるけれど、

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そう、まさにスタンダードブックストアでもらった栞だ。

これほど、ピッタリくる栞は他にはない。

「本屋ですが、ベストセラーはおいてません。」

というキャッチコピーが印象的なこの栞の裏側には、

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職場が近くて、仕事帰りに立ち寄っていた心斎橋にある店の住所が載っている。

そして、もうそこには存在しない。残念ながら梅田の茶屋町にあった店舗も閉店してしまった。現在はあべの店があるだけ、新しい店舗を模索中らしい。

約12年間にわたって営業してきた若者であふれるアメ村に近いこの本屋さんは2019年4月に閉店となった。

スタンダードブックストアという本屋さんを知らない人に向けて説明すると、ほの暗い照明にコーヒーの匂いがかすかに漂う、雑貨屋とカフェが併設された居心地のいい空間のステキな本屋さんだった。閉店の数日前にも訪れ、カフェから見える本棚の並んだ空間を僕はこれからも忘れることはないだろう。


僕にとっての本屋さんとは


僕にとって本屋さんというのは、一人で長時間いても、そして何も買わなくてもブラブラできる、ゆったりとした時間が過ごせる憩いの場所だ。

読書の秋という言い方があるけれど、毎日何らかの本を読んでいる僕からすれば、読書の春であり、夏であり、秋であり、冬であり、年中が読書の季節だ。

本屋さんは著者との出会いの場であり、本棚の中には過去の偉人たちも眠っていて、時代を超えていつでも僕の悩みに耳を傾けてくれる。

ユリイカの増刊号にはいろんな特集があって、これまでも何冊か買ったことはあるけれど、独創的な分析がされていて面白い反面、文章が小難しくてなかなか最後まで読み通すこともなく、好きな人が書いた文章だけ読んで閉じることが多かった。

しかし今回は日頃通っている本屋さんという存在について、書店員や経営者といった中の人の声がこれでもかというくらいに掲載されていて、あまりの面白さに一気読みしてしまった。そうして付箋だらけになったのが冒頭の写真なのだ。

僕も畑は違えど販売員なので、本屋さんには本屋さんの苦労があるのだなぁとモノが売れない時代に対する嘆きに共感する部分も多くあった。

昔の本屋さん


この本の中には、ジュンク堂難波店の福嶋さん、紀伊國屋書店梅田本店の百々(どど)さん、そして、先述の中川さん(いずれも2019年時点)の対談が掲載されている。

かつて本が飛ぶように売れた時代に、紀伊國屋書店では、1日に300冊も売れる本があり、補充が追いつかないために本を柱のように積み上げ3500冊を積むようなこともあったらしい。スゴイな!

かつての書店はレコード店のように流行を発信する場であり、テレビや新聞、ラジオといったマスメディアと共に文化を形成する役割がありました。

しかしながら、現代はモノが売れない時代。ただ置いていれば売れたというのは過去の話。本も例外ではなく、書店員はいかにして魅力を感じてもらうかという課題に直面することになります。

経営難からくるコスト減のしわ寄せは人員不足に影響し、ベテランの書店員を育てる余裕もなく、給料は安いため、パートタイムのスタッフで回している現状があり、時代の流れから人と人との出会いも制限され、ますますリアル店舗の存続が難しくなっています。

書店と本屋さん


ところで、僕は書店というより本屋さんと呼ぶ方が好きなのですが、みなさんはどう呼びますか?

これについては、内沼晋太郎さんの『本の逆襲』からの引用が掲載されていたので紹介します。

「書店」とは本という商品を扱い陳列してある「空間」であり、広く立地も単純明快な方がよい。

「本屋」はどちらかと言えば「人」であり、本を媒介にした「人」とのコミュニケーションを求めるもの。

「都会の書店」と「町の本屋さん」ではずいぶん印象も変わりますよね。本屋さんと言うと人のぬくもりを感じるのは僕だけでしょうか。

今はイベントを開催するのも難しい時代ですが、そもそもサイン会というのは本を買えば無料で行うものなので、著者の方へ謝礼を出しにくいということもこの本で知りました。

僕は見知らぬ場所に行くと、まず本屋さんを探す癖があります。そこからその場所の人の流れを想像するのです。

駅前にある狭い本屋さんには売り上げを重視するあまり、ベストセラーや売れる漫画しか置いていないので目的買いをする時以外は立ち寄ることはありません。

それに比べて、町の本屋さんというのはどういう本が置いてあるかで、そこで生活する人の姿が見えてきます。

ビジネス書が多く積んであれば、そこは仕事帰りの男性が多く来店するんだろうなと想像しますし、児童書が充実していればお母さんと子どもの姿が目に浮かびます。

本屋さんには表情がある


僕は本屋さんには表情があると思います。

それなりのスペースを持つ本屋さんにはどんな本を売りたいかというスタッフのこだわりが見えます。またそういった本屋さんでないと僕は魅力を感じません。

だから、目的もなく本屋さんをブラつく時は、漫画を買うならあの本屋さん、古典を探すならこの本屋さんというように、頭の中の地図を広げます。

無機質にただ分野ごとに本を並べているだけなら図書館で済みます。しかし、本屋さんは自分のお金を出して選ぶ場所。そこに人の気配を感じられる本屋さんには素敵な出会いが待っています。

もちろん司書さんだってどんな本を置こうか毎日悩んでいるとは思いますが。

図書館について


今回この本を読んで驚いたのは、展示用の本を除き、施設内の全ての本を販売している図書館があるということです。

本屋さんを考える時、外せないのが古本屋さんと図書館との関係です。

中でも図書館というのは特殊な存在です。

ある公共図書館職員の方は、図書館を書店と比べて奇妙な存在であると指摘しています。

というのも、公共図書館の設置・運営目的は極めて理念的なものであり、細かい規制法も存在しないそうです。

大学図書館、学校図書館、専門図書館はその上部組織の活動に寄与するように目的が規定されていますが、地方自治体によって設置され、公費によって運営される公共図書館はその目的が明確ではない。

図書館法によれば、「国民の教育と文化の発展に寄与することを目的」とし、「(一般公衆の)教養、調査、研究、レクリエーション等に質することを目的とする施設」と曖昧に規定されており、自治体によって予算にばらつきがあるため、サービスも一様ではない。

利用者数を重視するあまり、資料的価値よりも新刊や話題の本を優先して揃える図書館は本屋さんとの棲み分け、ひいては出版業界への影響も問題視されています。

紙の本と電子書籍


また、本と言えば、しばしば取り沙汰される紙の本と電子書籍の問題もあります。

僕自身は、かさばる漫画は基本的に電子書籍で購入し、他の本は内容を参考にするためにサンプルをダウンロードし、気になった本は本屋さんで実際に手に取り、ざっと立ち読みした上で紙の本を買うことが多いです。

ただ、どちらの本がいいかというのは一長一短があり、決めつけることはしません。

たとえば、電子書籍はいつでもどこでも読めるし、文字サイズもフォントも変更ができて、思った瞬間に購入することができてとても便利です。

また何か調べ物をする場合もキーワードで検索するといったことも簡単にできます。

一方で、紙の本には飛ばし読みやページの読み比べが簡易で、複数の本を机の上に並べることができ、書き込みもできます。

もちろん、これらは複数の端末やマーキングや書き込みといった作業を電子上でも再現できるわけですが、直感的には扱いやすい紙の本が僕は好みです。不揃いな高さで並ぶ個性ある背表紙は電子本棚にはない魅力を感じます。指で並び替えるデータには不思議と読書欲がわいてきません。購入したことすら忘れている時もよくあります。

おそらくそれは、学校の図書室を初めて利用した時の紙特有の匂いと人気の無い冷たい床の感触が原体験となっているからでしょう。江戸川乱歩の少年探偵団を貪るように読み、物語の中の子ども達のように、夕暮れ時に怪しいおじいさんに洋館へと連れ去られてしまうのではないかと恐怖心を抱いた小学生の気持ちはそう簡単に忘れられるものではありません。

あの頃、本は僕にとって冒険でした。自分の知らない世界へと誘う、教科書とは違った面白い物語の数々。図書室に行けば、たくさんの面白い本が置いてあって、まるで新刊の漫画にワクワクするような気持ちで図書室のドアを開け、時には図書委員を務めたこともありました。

紙の本の情報とネットの情報の違いについて、HMV&BOOKS日比谷コテージ店長の花田さんの意見になるほどと思ったのでここで紹介します。

簡単にまとめると、ネットの情報は保存に適さないことが多い。たとえば、好みの料理レシピがあったとしても、半年後にそれを探し出すことはなかなかできにくい。もしログから辿ったとしてもNot Foundと表示されてしまうこともある。また、いいね!的なものを押して痕跡を記すと人に知られてしまうから遡る手段として使いたくない。

その点、紙の本ならとりあえず購入して置いておけるし、読み返しが簡単であると。

僕自身、よく積読をするのですが、本は読んだら買取価格が下がる前に売るという発想はありません。

本は情報の鮮度が大切であり、キレイに読むという人とは真逆の読み方です。

とりあえず気になった本は電子も含めて買います。そして読み始めたら、自分が面白いと思ったところに線を引いたり、思い浮かんだことを書き込みます。付箋も貼りまくります。だから蔵書は増える一方です。

けれど、そんな埋もれていく本がある時ふと頭の中にピックアップされ、一気に読んでしまったりします。また、一見関係なさそうな本が次々に連鎖して、こうやって文章を書いたり、音声配信で熱く語る時もあります。

もちろん、そんなに広くない部屋なのでスペースの問題にはいつも悩まされますが、できることなら自分が買った本は一冊も捨てたくありません。

また古本屋さんに売ろうとしても自分の手で汚した本は買い取ってもらえません。結果的に本棚は圧迫されていきます。けれど、自分で創る本棚は本屋さんの本棚とは違った刺激に満ちています。

よく目につく高さにある本は今自分が関心のある本です。そしてその本はどんどん入れ替わっていきます。ジャンルを超えた本を自分の手で並び替える愉しみは僕にとっては至福の時間です。

本屋さんで自分の気に入った本を見かけると目立つ場所に置いてみたくなります(もちろん実際にはしませんよ)

お気に入りの本が古本屋さんで乱雑に置かれていたりすると悲しい気持ちにもなります。

定価である本


ところで、本って今時珍しく定価ですよね。これって不思議だなと思いませんか?

これは書籍や雑誌などに著作物の再販価格維持制度があるためです。本屋さんには出版社との間に取次というものが存在します。

この制度は、出版社、取次、書店と再販契約を結ぶことで小売価格の拘束を禁じた独占禁止法の例外に当たるそうです。

本は、一部岩波文庫などの例外はありますが、返品ができます。とりあえず仕入れて、返本する流れが一般的です。だから本は最初に発行した部数で印税が決まります。これは僕の好きなミステリ作家の森博嗣さんの本にも書いてありました。

東野圭吾さんは売れない新人時代は、いわゆる大御所の作家さんが稼いだお金で成り立っている、出版社が食べさせてくれたので感謝していると読んだ記憶があります。

これって販売員の僕からするとかなり特殊な慣習です。普通は買い切りが基本です。もちろんそういうケースもあるそうですが、大きな本屋さんほど再販制度の流れになりやすく、仕入れから返品までの期間に新しい本を作ると言った、まるで質草のように次から次へと自転車操業のように資金繰りすることへの問題点も書かれていました。

あまり本屋さんに行かない人は分からないかもしれませんが、本って入れ替わりが激しいんですよね。ロングセラーの本は別として、大半の本は数ヶ月もすれば本屋さんから姿を消していきます。

特に平積みされる本は、売り上げに直結する言わば特等席ですから、よほどの話題性や出版社の力が無いと置いてもらえません。場所の奪い合いです。

これは本屋さんに限らず実店舗なら当たり前のことですが、利用するお客様からすればなるべく品揃えを多くして欲しいと考えるので、管理費までは想像しないものです。

その点では、Amazonに代表される通販は、定番品以外も物理的制約を受けることなく提示されるため、ロングテイルと呼ばれる息の長い販売形態が可能です。

一般的には、パレードの法則により、2割の人気商品が利益を生み出しているのですが、売れる商品をいかにアピールし、集客につなげるかが課題となります。

販売訴求の目玉となるのは、人気の新刊本ですが、新刊本と言っても、人気が出なければあっという間に本棚の片隅に一冊だけ背表紙を見せていることも少なくなく、話題の無い本であれば、小さな本屋さんなどでは、そもそも取り寄せが前提だったりします。

よほどこだわりがある店主さんでない限り、買い切りで発注単位の最低ロット数を仕入れるリスクを背負うことは無いでしょう。

そうなると、必然的に売れない本は消えていきます。

人気のあるタレント本はきっと古本屋さんの方が充実しているでしょう。

一方、電子書籍にはスペースの問題が無いので、取り寄せであっても販売表示することができます。また送料が無料であったり、ポイントの値引きがあったりもします。

最近では紙の本も書店のポイントで買えたりするのが普通になってきていますが、全国どこの本屋さんでも取り寄せた本の送料が定価に上乗せされずに店頭で買えるということが、いかに特殊な制度で守られているか改めて気づかされました。

他にもAmazonとリアル書店の問題もたくさん取り上げられています。さらにはアマゾンジャパンのメディア統括事業本部長である村井さんのインタビューも掲載されているので興味のある方はぜひ読んでみて下さい。

僕はこれまで本屋さんを外側からしか見たことがありませんでしたが、この本は、内側である中の人の生の声が掲載されているので、本に携わる様々な人の思いを知り、読書離れが進む中でも本が好きな人ってたくさんいるんだなと嬉しくなりました。

いろんな形の本屋さん


一言で本屋さんと言っても、本屋さんの形態にはいろいろあって、たとえばコトバトフクさんは、ファッションに関する本と若手デザイナーが手がけた服やアクセサリーを販売するお店だそうです。

また、実際に僕が目にしたところでは、ワークショップから一歩進んだ講座を行なう本屋さんもあったりします。

一万円で本をコーディネートしてくれる、いわた書店も面白いですよね。

以前、僕はナカムラクニオさんが自ら訪れた世界の本屋さんを紹介した『世界の本屋さんめぐり』という素敵な本をレビューしました。世界にはこんな本屋さんもあるんだと驚きながら夢中になって読んだものです。

当たり前のことですが、本は人が人に向けて書いたものです。

ただ消費されていくモノではありません。だからこそ書いた人のことを思う人の想いがあってこそ書店は本屋さんへと変わるのだと思います。

新たな本のサービス


インターネット書評無料閲覧サイト「オール・レビューズ」のHPにはこんな文章があります。


出版危機の根源は「書物の消費財化」にあります。
書物がロング・セラーであることを自ら放棄し、ショート・セラーである道を選択したときから出版危機は始まっています。
本を本来の姿である「耐久消費財」に戻さなければなりません。そのために最も有効なのが、過去に書かれた書評です。

このサイトでは、書評が無料で読めます。もし、書評を読んで興味を持った本をサイト経由で購入すると、

書評対象書籍をALL REVIEWS経由でご購入いただくと、書評家に購入書籍価格の0.7%-2.1%(Kindle本の場合5.6%)書評家に還元されます。
同様に、書評家のプロフィールページから書評家の著作を購入いただいても、購入書籍価格の0.7%-2.1%(Kindle本の場合5.6%)書評家に還元されます。

という事で、書評家にも利益が還元されます。

またビジネス書に限られますが、著者から許諾を得た要約サイトというものもあります。

さらに最近では、音声配信の流行に伴い、Audibleやオーディオブックという耳で本が楽しめるサービスもあります。

僕はどちらも利用していて、通勤時に歩きながら聴くのが日課となっていますが、圧巻なのが最近始まったAudibleの聴き放題です。

以前は、月額1500円で1コインと引き換えることにより、値段に関係なく一冊の本と交換し、さらにコインを購入することでオーディオブックが買えるシステムでしたが、現在は12万冊もある対象本の中から聴き放題へと変わりました。

オーディオブックのサイトにも同様の聴き放題サービスはありますが、対象本の数は少ないです。もちろん、両社とも単品販売されている本の一部が対象であり、これからますますサービスが拡大されていくことになるでしょう。

こうして見てくると、本はただの文字の羅列ではありません。

書く人、評価する人、要約する人、読み上げる人、そして読む人、いろんな人の手を経て、読み継がれていくものです。

これから先、いくらAI技術が発展したとしても、僕は人工物が感想を述べたり、薦めてくれる本には惹かれないと思います。なぜならそれは単なる情報ではない人が書いた本だからです。

今後も書店の有り様は変わり、本の形態は変貌していくかもしれませんが、本という存在自体が消えることはないでしょう。本の価値を決めるのはあくまで人間であり、自分です。

人はなぜ言葉を紡ぎ、文章を書くのか。

僕がこんなに長い文章を書いたのも、人への想いです。

編集後記の文章が素敵だったので最後に引用します。

読書は人をcomfortableな気分に導くだけではない。文字を追いかけながら、未知の感覚に自分で驚いて、それまで堆積させてきた思考の輪郭が曖昧になるときがある。不快というわけでもないのに、震えるような、かすかな痛手のような感覚。そうしたuncomfortableに身体が染まった瞬間こそ、他者の喜びや痛みを敏感に感じ取ることができる。

ここまで読んで下さったということはあなたもきっと本が好きな人ですね。

本が好きな人に悪い人はいないというのは言い過ぎでしょうか。でも、僕はそういう人が好きです。

最後まで読んで頂いて「本」当にありがとうございました。

追記:僕が考える未来の本屋さんについて音声配信で語りました。お時間がございましたら、お付き合いくださいね。

僕はバーチャル上で書斎が欲しいなぁと思っているので、マイクラで造ってみました(笑)


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